三宅健太:「僕のヒーローアカデミア」インタビュー オールマイトの最後の戦い 真の強さを表現するために
配信日:2025/11/15 10:01
「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された堀越耕平さんのマンガが原作のテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」の最終章となる“FINAL SEASON”が、読売テレビ・日本テレビ系で毎週土曜午後5時半に放送されている。約9年にわたり放送されてきたヒーロー、敵<ヴィラン>の物語がクライマックスを迎える。2016年に放送を開始したテレビアニメ第1期から、“平和の象徴”オールマイトを演じてきた三宅健太さんに“FINAL SEASON”の収録の裏側、作品に懸ける思いを聞いた。
◇“縁”をまとって戦ったアーマード・オールマイト
“FINAL SEASON”は、パワードスーツ&サポートアイテム・エルクレスを装着した“アーマード・オールマイト”とオール・フォー・ワンとのバトルから始まった。エルクレスには、緑谷出久(デク)を含め雄英高校1年A組の生徒たちの“個性”が搭載されており、“無個性”のオールマイトがみんなの“個性”で宿敵に立ち向かう姿が話題になった。この展開を三宅さんは「まさに縁(えにし)をまとった戦い」と表現する。
「劇中でも『友との縁』だと言っていて、本当にその通りだと思いました。みんなの“個性”が形として、能力として再現されているという以上に、オールマイト自身が出会ってきた縁を全て身にまとう。僕としては、新たなワン・フォー・オールをその身にまとって戦っているという気持ちになりました。堀越先生の原作を読んでいても、縁という面を本当に描きたかったんだろうなと思いましたし、アニメにおいてもそれがビシバシ伝わってきました。また、向かってくるオール・フォー・ワンに対して、『なあ親友』『長い付き合いだよな』という言葉を投げかけるのも、彼との縁があってのこと。まさにヒーロー、敵<ヴィラン>を超えた縁の結節点の一つのように感じました」
元々はヒーロー然としたスーツをまとっていたオールマイトが、漆黒のスーツをまとったビジュアルにも「そうきたか」と感じたという。
「第6期の最後、オールマイト自身が、一度は心がへし折れたんですよね。自分にできることが何なのか、自分がやってきたことそのものが間違っていたんじゃないかと心が折れそうな中、ステインに叱咤されて立ち直って、『今の自分がやるべきことはなんだ?』と考えた。これまでは自分一人が背負って防波堤になって戦っていたけど、今度は皆の力を借りてオール・フォー・ワンの前に立ち塞がる。“無個性”の自分にできることを体現しているように見えました。それはすごく格好いいんですけど、僕個人としては、どこか物悲しさも感じてしまう。ダークなスーツを身にまとった姿は、オールマイトの立ち位置の変化、心情の変化の表れでもあるのかなと思いました。ただ、『面(つら)は見せないとな』と笑顔の口元は見せる。お師匠から受け継いできた『ピンチな時ほど笑うんだ』というマインドをすごく大事にしているんだなと思うと、込み上げるものがありました」
オールマイトの変化は、第6期でデクが“黒デク”となり孤独に戦っていたところから、第7期でA組のみんなと共に戦うようになった姿ともリンクする。三宅さんは、「黒デクの時の山下大輝くんは直視できないものがあった」と当時を振り返る。
「黒デクになった時期はまだコロナ禍で、分散収録の状態でもあって、みんなで集まって収録するのは難しかったんです。緑谷少年自身が全部をしょい込んで、ある意味、かつてオールマイトがやろうとしていたことを体現しつつあるんだろうなと思って見ていました。その辺りは、かっちゃん(爆豪勝己)が予期していて『こいつは行き過ぎるから』と言っていたんですよね。その行き過ぎたものを山下大輝くんが真っ向から演じようとして、彼自身もだいぶすり減っていた。会う度にゲソっとなって、疲れている顔がもう……。もちろん、緑谷出久を全うしようという前向きなマインドはあった上でなんでしょうけど、あの時の山下少年の姿は、一演者を超えた、緑谷少年をそのまま見ているような気がしました」
それだけに、アーマード・オールマイトとしてデクのキックを放った瞬間は「緑谷少年が試行錯誤して編み出した技を、オールマイトが放つというのはなかなか粋だね!とすごく感じました」と語る。
◇“オール・フォー・ワン”神谷浩史との熱い収録
アーマード・オールマイトは、どんどん若返っていくオール・フォー・ワンと対峙(たいじ)した。元々は、大塚明夫さんがオール・フォー・ワンを演じていたが、若返りと共に神谷浩史さんが演じることになった。
「オール・フォー・ワンと対峙する以前、どんどん巻き戻っていく状態を見て、恐怖を覚えました。そこにさらに神谷さんの声が乗っていて。明夫さんが演じてきた、極限までワガママで邪悪な感じを引き継いでこられて、先輩のすごさを感じました。僕は10年近くオールマイトの声を担当させてもらっているものですから、本来ならこっちが引っ張っていかなきゃいけないんですけど、結局蓋(ふた)を開けてみたら、神谷さんに胸を貸してもらったような状態で、うれしさ半分、ちょっと悔しさもありつつ、『まだまだだな』と。そこは役者として感じるところでした」
スタジオでは、収録前に神谷さんが三宅さんに対して「倒す!」と宣言し、三宅さんも「負けないぞ!」と返すようなやり取りがあったという。
「ただ、頑張り過ぎちゃって、最初の収録のテストでは、『二人とも怒鳴りすぎ』と音響監督の三間(雅文)さんに注意を受けたりもして(笑)。でも、熱かったです」
◇オールマイトは「やっぱり人なんだな」 ヒーロー観の変化
約10年にわたり、オールマイトを演じてきた三宅さんは、初期の頃と比べると、「ヒーロー」「正義」に対する見方が「かなり変わった気がします」と語る。
「突き詰めたら、結局、闇に寄っていってしまうんだなと思いました。彼自身が“無個性”だからこそ、みんなができないことをやりたいというピーキーさがあるというか。オールマイトは、第3期の神野でのオール・フォー・ワンとの戦いで“個性”ワン・フォー・オールを燃や尽くして以降、緑谷少年の隣に立って守り育てるとお母さんにも誓いを立てたのですが、それでも『人の役に立ちたい』『みんなの役に立ちたいんだ』という思いをどこかで持っていたと思うんです。でも、それをどうやったら果たせるんだろうと。彼自身も、アーマードに行き着くまでは、ずっと模索していたんだろうなと。やっぱり“人”なんだなと。自分に何もないからこそ、何かできるものを見つけたいという渇望がずっと根底にある。だから、完璧なヒーロー像からは、ちょっとズレていったかもしれないです」
三宅さんは、オールマイトは神野の戦いが終わるまで「平和の象徴をずっと演じ続けていたんだろうな」と感じているという。第4期以降は、「人としてのオールマイトというか、八木俊典という人物に見えてきた」と語る。
オールマイトを演じる中でも、当初はマッスルフォームとトゥルーフォームで違いを意識していたが、「近年は、トゥルーの状態を演じることのほうが多くなってきて、あまり差を考えなくなりました。そういう意味では、トゥルーのほうがより人間的にやっていかなきゃいけないから、難しさは今でもあります」と明かす。
「三間さんには、当初から『頑張らないで』と言われてきました。『あなたが頑張ってやるほど軽くなっていく』『俺は強い、平和の象徴だと説明すればするほど、ステレオタイプのヒーローになって、みんなが安心できなくなる』と。だから、逆にマッスルの時はやりやすさがありました。トゥルーは、存在そのものの真の強さを表現していかなきゃならない。だから、正直、今の状態のオールマイトを演じるほうが難しくて、ハードルが上がりまくっているんです。それでも“アーマード・オールマイト”という、最後のヒーローとしてのお姿をいただけたので、それに負けない声をなんとかやっていこうと思っています」
オールマイトが“FINAL SEASON”でどのようなヒーロー像を見せるのか。三宅さんら声優陣の熱い演技から目が離せない。
提供元:MANTANWEB











