果てしなきスカーレット:細田守監督インタビュー なぜ今“復讐”を描くのか 「ハムレット」をモチーフにした理由

配信日:2025/11/15 8:01

「果てしなきスカーレット」のビジュアル(c)2025 スタジオ地図
「果てしなきスカーレット」のビジュアル(c)2025 スタジオ地図

 「時をかける少女」「サマーウォーズ」などで知られる細田守監督の最新作となる長編アニメーション作品「果てしなきスカーレット」が、11月21日に公開される。2021年7月公開の前作「竜とそばかすの姫」以来、約4年ぶりとなる新作で、テーマは「復讐」「生と死」。国王である父を殺した敵(かたき)への復讐に失敗した主人公の王女・スカーレットは、死者の国で目を覚まし、現代の日本からやってきた看護師の青年・聖と時を超えて出会い、共に旅をすることになる。なぜ今、“復讐”を描くのか。細田監督に作品に込めた思いを聞いた。

 ◇時代が「ハムレット」を求めている?

 「果てしなきスカーレット」は、細田監督が原作、脚本を手掛ける。舞台は中世で、復讐に燃える王女が死者の国を旅する……という世界観は、これまでの細田監督作品とはかなり毛色が違い、制作発表当初から話題を集めた。細田監督は「この映画は“復讐”がテーマなんです。今までこのような重いテーマで映画を作ったことはありませんでした」と語る。

 「この映画を作り始めたのが、コロナ禍が明けた頃でした。非常に苦しいコロナの時代が終わり、終わったと思ったら、世界でいろいろな争いが続けざまに起こるようになった。そういうことを見ているうちに、報復に次ぐ報復があって、連日ニュースで『地獄のような光景』を見せつけられた。『これから僕らはこれまでとは違う世界のありように突入していくんじゃないか?』と。そこで、復讐の連鎖の先に何があるんだろう?ということを考え出したんです」

 新作を描く上で、細田監督がモチーフの一つとしたのが、シェイクスピアの「ハムレット」だった。デンマークの王子ハムレットが、王である父を殺して王位に就いた叔父に復讐するシェイクスピアの名作だ。

 「復讐劇というと、エンターテインメントな映画ジャンルの王道だと思います。憎むべき敵を倒してスカッと爽快になるところに、みんなエンターテインメント性を感じる。でも今の現実では、世の中に善人と悪人がいて、悪人を倒したら幸せ、というのではないですよね。それぞれに正義があり、復讐を果たしたら、また別の復讐劇が始まってしまう。この映画を作るのにかかった4年の間に、世の中の状況が良い方向へ変わってくれればよかったのですが、いまだに戦争は終わらず、非常に複雑な気持ちです。未来を生きていく今の若い人は、先行きが不透明な世界に戸惑っているのではないでしょうか。そんな彼らの気持ちに寄り添えるような映画になったらいいなと思っているんです」

 「ハムレット」をモチーフとしたのも「今の若い人たちが思い悩んでいるのではないか」と感じているからだという。

 「僕自身、高校から大学にかけて『ハムレット』を読みましたが、ほかのシェイクスピア作品の中でも、『ハムレット』が最も若者と響き合っているように感じました。作中のハムレットは30歳くらいなのですが、読んでいると、『人生、これからどうやって生きていこうか』という若い人の漠然とした不安な気持ちを、時代を越えて代弁しているような感じがしたんです。だからこそ400年たった今も普遍的で魅力のある物語なのだと思います」

 「果てしなきスカーレット」は、第50回トロント国際映画祭のスペシャル・プレゼンテーション部門に出品されているが、同映画祭では「果てしなきスカーレット」を含め「ハムレット」を題材にした作品が4作品も出品されていたといい、「偶然とはいえ時代の関連性を感じざるを得ない」「時代の要請によって、このテーマが求められている」と感じたという。

 ◇力強い主人公スカーレット 芦田愛菜のすごさ

 「果てしなきスカーレット」の主人公は、父の敵への復讐を心に誓う王女・スカーレットで、俳優の芦田愛菜さんが声優を務めた。主人公像はどのようにして作られたのだろうか。それには、細田監督が大学時代に見たという蜷川幸雄さん演出の舞台「ハムレット」が影響しているという。

 「渡辺謙さん主演で、荻野目慶子さんがオフィーリア(ハムレットの恋人)を演じていました。それがものすごい迫力だったんです。オフィーリアは、救いのない、かわいそうなキャラクターとして演じられることが多いと思うのですが、荻野目さんが演じたオフィーリアには、不幸な運命に抗う力強さを感じました。今回、この映画を制作する上で、ハムレット的な立ち位置の主人公が、女性になったのには、その時に見た荻野目さん演じるオフィーリアの影響がどこか自分の中にあるからだと思うんです」

 スカーレットは、剣を手に屈強な男たちと戦う。細田監督は「現代というものを浮かび上がらせるために『ハムレット』をどう描くか?と考えた時、諦めない力強い王女の姿が浮かんだ」と語る。

 スカーレットの声優を務めた芦田さんの演技にも驚かされたという。

 「芦田さんは可愛らしくて利発なパブリックイメージ。復讐に突き進むスカーレットのキャラクターとは全然違う。でも、違うところがいいんです。彼女は今21歳ですけど、大人に成長していく中で育まれてきた表現力の幅の広さがある。普通は本人に近いイメージの役柄をキャスティングしがちですが、それとは違う役柄に果敢に挑戦することで、その人が持っている隠された力を引き出すということがあるんです。芦田さんの今までにない新しい魅力を、スカーレットを通して感じてほしいですね」

 ◇「果てしなき」の意味

 復讐の連鎖の先に何があるのか。そんな壮大なテーマに挑んだ細田監督。タイトルの「果てしなきスカーレット」の「果てしなき」には、希望が込められているという。

 「『果てしなき』は、『終わりがない』ということ。『終わりなき』争いが『果てしなく』続くとも言えるし、肯定的にとらえれば、争いを終わらせようとする努力が『果てしなく』、絶え間なく続いていく、とも言える。どちらとも取れると思います。『果てしなく』続くものを、僕らが今果たせなくても、その次の世代が受け継いでくれるかもしれないし、もっと別の新しい考え方を生み出して終わらせてくれるかもしれない。決して諦めない、希望を持った言葉として名付けたつもりです」

 同作は、「復讐」をテーマとする一方で、「許せ」というキーワードが印象的に登場する。作中で死ぬ間際のスカーレットの父が娘に向けて遺した言葉が「許せ」であり、それがスカーレットを思い悩ませることになる。

 「原典の『ハムレット』では、亡霊になったハムレットの父が息子に『許すな』と言って、そこから復讐劇が始まる。でも、それがもしも逆の『許せ』と言ったら余計悩むんじゃないか、と思ったんです。『許せ』と言われたら、『こんなひどい相手をどうして許せるの?』と混乱するに違いない。このままずっと相手を許さないで報復のために人生を費やしていくのか、それとも、それとは違う新しい生き方を発見できるのか。考え方によってまったく異なる人生になる。復讐の怖さは、ずっと復讐のことを思っていると、それだけで人生が終わってしまうこと。果たしてそれでいいのか?と思うんです」

 細田監督は「ハムレットには『生きるべきか死ぬべきか』という有名なセリフがありますが、この映画では、それを別の言葉に言い換えて表現しています」とした上で「この映画を通して『許す』ってなんだろう、『生きる』ってなんだろう、ということを一緒に考えてくださったらうれしいですね」と語る。

 細田監督が復讐劇をモチーフに描こうとした希望。スカーレットの復讐の果てに何があるのか、劇場で感じたい。

提供元:MANTANWEB

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