ウィッチウォッチ:情緒を壊す!?構成の妙 セリフの魅力 マンガ原作アニメのこだわり シリーズ構成・脚本の赤尾でこインタビュー
配信日:2025/08/17 7:01

「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の篠原健太さんの人気マンガが原作のテレビアニメ「ウィッチウォッチ」。アニメは、パロディーも含めたテンポのいいギャグシーンや、アニメならではの構成がファンの心をつかみ、人気を集めている。7月6日放送の第14話「うろんミラージュ 第119話『ファジー討伐-4』」では、劇中に登場するマンガ「うろんミラージュ」がアニメ化されたことも話題になった。同作のシリーズ構成・脚本を担当するのが、「ノラガミ」「荒川アンダー ザ ブリッジ」など数多くの人気作を手がけてきた赤尾でこさん。「『ウィッチウォッチ』は情緒を壊しにいってもいい作品」と語る赤尾さんに制作の裏側、セリフの魅力を聞いた。
◇人気作家・赤尾でこ マンガ原作アニメにおける“ルール”
同作は「SKET DANCE」「彼方のアストラ」で知られる篠原さんのコメディーマンガ。「週刊少年ジャンプ」で2021年2月に連載を開始した。魔女になるべく修行中の若月ニコと、幼なじみで鬼の力を持つ高校生・モリヒトの同居生活が描かれる。モリヒトには予言された災いからニコを守る使い魔としての使命がくだされ、前途多難でまか不思議な日々が始まる。
赤尾さんは、今回の「ウィッチウォッチ」のほかにも、さまざまなマンガ原作のアニメのシリーズ構成も手がけてきた。マンガ原作の作品を手がける上では、いくつかの“ルール”を自分の中で決めているという。
「基本的に原作のセリフは変更したくないと思っています。一つのセリフの中のちょっとしたものを抜いて凝縮するのはありとは思うのですが、別の言葉を使うような変更をやってしまうと、そのキャラクターではなくなってしまうので、セリフに関しては、かなり慎重にシナリオ化はするようにしています。また、原作がある作品の場合は、監督やプロデューサーの皆さんに『アニメはどういうテンポでいきますか?』と確認するようにしています。マンガを読んでいる時は、それぞれの頭の中で各キャラクターをしゃべらせていると思います。アニメ化の際に、監督やスタッフの皆さんにキャラクターのしゃべりの速さを聞くと、『そのキャラは早口なんだ』ということが判明することもあるんです。例えば、私の中では10分の分量だと思っていても、シナリオに落とし込んだ時に長い、足りないということが出てくるので、スタッフが同じイメージで作業をスタートできるように擦り合わせてから、原作をシナリオに落とし込んでいます」
原作のキャラクターの表情も重要だという。
「シナリオは、アニメを制作する上での地図であるべきだと思うので、原作のコマに描かれているキャラクターの表情も文字で表現しなければいけません。このコマのこの顔は悲しんでいるのか、それともつらいのか、分かった上で書かなければいけない。もし、シナリオ会議に絵コンテを切る人がいない場合、『悲しむニコ』と書いた部分が、実は悔しがっている顔だったとしたら大変なことになる。演出も全然違ってくるので、複雑な表情をしている時は、原作の先生に確認するようにしています。私たちは原作を言語化しなくちゃいけないので、そこは気をつけなければと思っています」
「ウィッチウォッチ」に関しては、赤尾さん自身、アニメ化の企画が始まる以前から愛読していたといい、「紙媒体ならではのめくりのことをすごく先生が考えてらしたセリフのテンポと言葉の使い方が素晴らしく面白いと感じました」と魅力を語る。
中でもモリヒトのツッコミに「ウィッチウォッチ」のセリフの力を感じているという。
「『そんなボケする?』『そこに突っ込むの?』というのがすごく魅力的で、モイちゃん(モリヒト)のツッコミがすてきなんですよね。絶妙というか、『そこに冷静にツッコむんだね』と。ほかのキャラクターだったらスルーするところを、モイちゃんだけが『いや、違うだろ』とちゃんとストップをかけてくれたり、ツッコんでくれたりとかするところがすごく魅力的だと思ってます。クールなキャラクターかと思っていたら、熱いツッコミをするんですよね。あまりほかでは見ないタイプの男の子主人公なんじゃないかなと思っています」
◇油断させない構成 原作のテンポを表現するために
魅力的な原作だからこそ、「これをアニメ化した時に面白くするには、いろいろ考えて工夫しなくちゃいけないなと思いました」とアニメ化の難しさにも直面した。原作のテンポの良さを生かすべく、原作のエピソードの順番を入れ替えたり、アニメオリジナルの要素を加えたりと、構成に力を入れたという。
「まず、1クール目の最後に盛り上がりを持ってくるように構成を組みました。2クール目の最初を何にするのかも結構悩みましたね。『なるべく多くの原作エピソードをアニメ化したい』というのはスタッフ全員が同じ気持ちだったので、いかにぎゅっと凝縮させて、原作のテンポの良さを崩さずに入れられるのか。また、ギャグ回ではない感動できる回や、モイちゃんとニコのデートの話などももちろん入れたいので、バランスをいろいろ考えました。その中で、3本立ての話も作ってみようかなどを監督と一緒に相談しながらシリーズ構成を立てていきました」
「緩急がものすごくあっても許される作品」とも感じているといい、「めちゃくちゃギャグ回の次の週をしっとりとした回にしたり、情緒を壊しにいっても大丈夫な気がしたので、なるべくバラエティーに富んだ構成になるようにしました」と語る
情緒を揺さぶられるという意味では、第9話「伽羅へ/新しい友達/デート・ウィズ・ザ・ナイト」は、まさにバラエティーに富んだ3本立てとなっている。親子の絆を描いた「伽羅へ」、“画風”が違う英語の教科書風のキャラクターが登場した「新しい友達」、思わずキュンとさせるようなニコとモリヒトのデートを描く「デート・ウィズ・ザ・ナイト」が1話の中に構成された。
「放送を見た時に『これは面白い!』と思ったのが第9話です。シナリオ開発をしている時には『1話の中にこんなにいろいろな話を詰め込んじゃって大丈夫?』と思っていたんですけど、情緒を壊される感じですごくよかったなと。感動したかと思ったら、よく分からない英会話の話が始まって、最後はなんとなくいい感じのニコとモリヒトがいるという。第9話はすごく好きです。『油断していたらダメだぞ』と思わせるような回になっているかなと思っています」
◇尺に収める戦い アニオリシーンの制作秘話
魅力的なキャラクターたちによるテンポのいい掛け合いも楽しい。セリフを含め情報量の多い作品をシナリオに落とし込む上では、「どこをどこまで削れるか」と試行錯誤しているという。
「アニメの20分ちょっとの尺に入れるためにどうしたらいいのか、私だけでなく一緒に書いてくれているライターの皆さんと一緒に、『どこをどこまで削れるか』『このセリフをもう少しだけ短くしよう』などと、頑張って工夫しています。シナリオの段階でも尺に入るように工夫しているのですが、池畠監督が『あとは任せてください』と頼もしいことを言ってくださるので、お任せする回もありました。文字上で分量に収めることができても、絵コンテを切ったり、役者さんが芝居をする段階で、尺が増えたり、逆に減ったりすることがあるので、ライターは文字でできる限りのバランスを取って、その後はそれぞれのプロの皆様にお任せしています」
情報量の多い原作を取捨選択する一方で、第6話のモリヒトとケイゴが会話するシーンなどアニメオリジナル要素を加える場合もある。
「ケイゴはメインキャラクターの一人なので、原作よりも早めに出して、セリフも言わせようとなりました。ケイゴっぽいセリフはどういうものなのかを話し合って、もちろん先生にもチェックしていただいて作っていきました。私の中のケイゴ像、私の中のニコ像で、一旦オリジナルのセリフを書いてはみるのですが、先生にチェックしていただくと、『こういう時のニコは語尾に『~の』はつきません』というような細かいチェックをいただくこともあります」
◇ガチの「うろミラ」回 挑戦も
パロディーを含めたギャグシーンや、見る人を驚かせる構成など、楽しませる仕掛けが随所にちりばめられていることも魅力となっている。第14話では、劇中に登場するマンガ「うろんミラージュ」が“ざっくり”ではなく“がっつり”気合を入れてアニメは制作されたことも話題になった。「うろんミラージュ」のためにキービジュアルのほか、主題歌も作成され、音楽ユニット「Who-ya extended」がオープニングテーマ)「Bitter end」、シンガー・ソングライターのLEOさんによるソロプロジェクト「ALI」がエンディングテーマ「FLASHBACK SYNDROME」を手掛けた。げそいくおさんが絵コンテを担当するなど特別なエピソードとなった。
「『うろミラ』回は、『ガチでやる』というお話だったので、素晴らしいなと思いました。どこに『うろミラ』回を入れるかもいろいろなパターンを考えた結果、2クール目が始まって、第13話(2クール目の1話目)を普通に見ていただいた後、油断しているところに『うろミラ』をぶち込むという構成になりました」
攻めた試みも多い中、赤尾さんにとって挑戦となったのが、カンシが漫才をするエピソードだという。
「これまでは、登場人物同士が漫才をやる場合は、テンポアップしてすぐに次の展開に移るようにシナリオを作ることが多かったのですが、今回は先生から『漫才はまるっとやってほしい』とリクエストがあったんです。アニメで漫才をちゃんとやるというのは、なかなか怖いものがあって、成功するのか?と。もちろん、面白いと思ってシナリオは作っていったのですが、あの回があんなに面白くなったのは役者の皆さんの芝居のおかげだと思います。ツッコミの温度や声の大きさなど演じ方で面白さも変わってくるので、チャレンジな回だったなと思っています」
「何が出てくるか分からない」原作の魅力を表現するアニメ「ウィッチウォッチ」。赤尾さんに今後の見どころを聞くと、「あまり構えずに、全てを受け入れてもらえる体制で、柔らかい心で放送を待っていていただければいいかなと思っております」と語る。今後もファンを驚かせてくれそうだ。
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