CITY THE ANIMATION:異色の音楽はなぜハマったのか? 「ピラニアンズ」ピアニカ前田インタビュー

配信日:2025/08/10 10:01

「CITY THE ANIMATION」の一場面(c)あらゐけいいち・講談社/CITY THE ANIMATION 製作委員会
「CITY THE ANIMATION」の一場面(c)あらゐけいいち・講談社/CITY THE ANIMATION 製作委員会

 「日常」などで知られるあらゐけいいちさんのマンガ「CITY」が原作のテレビアニメ「CITY THE ANIMATION」の劇伴は、何だか不思議だ。ストリングスやホーン、シンセサイザーの音が入っているわけではなく、鍵盤ハーモニカの音が心地いい。極めてシンプルなサウンドで、アニメの劇伴として異色ではあるが、作品の世界にハマっている。劇伴を手掛けるのは鍵盤ハーモニカ、ギター、ウッドベース、パーカッションのシンプルな編成のバンド「ピラニアンズ」だ。「ピラニアンズ」は1991年頃から活動するバンドだが、劇伴を手掛けるのは初めて。異色の音楽はなぜハマったのか? 「ピラニアンズ」で鍵盤ハーモニカを担当するピアニカ前田さんに聞いた。

 ◇お題は抽象的な言葉

 「CITY」は「モーニング」(講談社)で2016~21年に連載され、現在カムバック連載中のマンガ。大学生・南雲美鳥やにーくら、泉わこなど普通の“CITY”に住むちょっと楽しい人々の生活を描いている。アニメは、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」などで知られる石立太一さんが監督を務め、京都アニメーションが制作する。ABCテレビ、TOKYO MXほかで放送中。

 アニメの音楽プロデューサーを務める中村伸一さんは「ピラニアンズ」が音楽を担当することになった経緯を「石立監督は『置きにいかない』『攻める』という方針がありました。手堅くするのではなく、覚悟を持って聴いたことのないような劇伴にしたかった」と話す。

 中村さんは「ピラニアンズ」なサウンドがハマると考えたが、石立監督に取材した際、「中村さんにピラニアンズさんを推薦されたのですが、最初は正直、少し疑っていたんです。ダビングの時にすごくマッチしている!と分かったんです。可愛らしく、優しく、インテリジェンスがあってすごくハマっています。中村さんに土下座しなきゃいけません(笑)」とも話していた。中村さんはハマるという確信があったようだが、最初はほかのスタッフは半信半疑なところもあったようだ。

 ピアニカ前田さんは、これまでの音楽活動でアニメやマンガとはあまり関わりはなかったといい、今回のオファーを受けて「びっくりしました」と語る。

 「本当に申し訳ないのですが、ジブリの音楽の鍵盤ハーモニカの楽譜集を出す企画で、アレンジと監修をしたことがあって、その時にジブリのアニメを一生懸命見たくらいで、あんまり知らなかったんです。自信もないし、大丈夫かな?と思っていました。バンドのメンバーでやらせていただけるということだったので、だったらできるかもしれない……と考えるようになりました」

 「ピラニアンズの音楽であること」が前提だったこともあり、オーダーは一般的な劇伴とは違った。抽象的な言葉がお題としてあり、それに合わせて音楽を作っていった。制作方法も劇伴としては異色だった。

 「最初は『夏のイメージで作ってください』という発注があって、コツコツ作っていきました。オーダーは結構フワッとしていまして、『突き抜けてください』と言われ、テンポを早くしてみたけど、まだ遅かったりして……。『言ってる事はもっともだが、用例として難』『万人は等しく残念』などのお題をいただき、それをもとに作っていきました。これはどう理解したらいいのだろう?となかなか難しくて。『万人は等しく残念』というお題からは『福引き』という曲が生まれたのですが、福引きがガラガラ回っているイメージでマリンバを入れました」

 ◇アニメであることを意識しすぎずに

 原作者のあらゐさんから「マリンバを使ってほしい」というオーダーはあったが、ほかには楽器に関するオーダーもなかった。「劇伴ですし、弦やホーンを使うという話もあるかな?とも思っていたけど、特になかった」という。「ピラニアンズ」の音楽という前提があったものの、これまでとは違うサウンドになった。

 「アニメであることをあまり意識しすぎずに作っていました。自分たちの作品制作とは違いますね。4~5分の曲を作ることが多いけど、今回は1分半くらいにギュッと縮めて提出しました。自分でも笑っちゃうくらい濃いんですよ。ピラニアンズの音楽の幅を広げていただきました。ピラニアンズでは実はレゲエをやっていなかったけど、思いっきりやっています。周りにレゲエミュージシャンがいっぱいいたので、意地を張ってやってこなかったんです。『レゲエもいいんじゃないか?』という話も出て、メンバーはそれぞれの活動でレゲエをやってきたし、一応得意でもあるので、サクサクやってみたり。鍵盤ハーモニカの音をここまで重ねたこともありませんでした。普段は、ライブで再現できる曲を作っていますしね」

 サウンドトラックの発売に際して「ピラニアンズは劇伴の作編曲については初めてだったので、その作業は紆余曲折し七転八倒しながらのものでした」ともコメントしていた。

 「普段はやっていないこともあったので、メンバーに説明するのが大変でした。あとはスケジュールですかね。みんなバラバラに活動しているので、スタジオにメンバーを集めるのも大変でした。“七転八倒”と書きましたが、間違いですね。“七転八倒”だと倒れたままだけど、ちゃんと起き上がっています。自分の中では“七転び八起き”のつもりで書いたけど、間違えてしまいまして」

 「ピラニアンズ」の音楽はアニメの劇伴としては異色なのかもしれない。しかし、違和感がないどころか、これ以上はないのでは?とすら感じるほどハマっているから不思議だ。

 「当然のことだけど、動いていることに驚きました。動きをイメージできていない部分もあったんです。劇伴の経験がなかったから分からないところもあって、アニメの空の青さを見て、もっと青っぽい印象を出しておけばよかったなとか思うところはあるのですが、音響監督の鶴岡陽太さんにすごくいい感じに音楽を使っていただけて、うれしかったです」

 ◇40年以上続けてきた鍵盤ハーモニカ

 ピアニカ前田さんは、40年以上、鍵盤ハーモニカ奏者として活躍している。師匠などは「いなかった」といい、独学で技を磨いてきた。

 「オーガスタス・パブロとか奏者は何人かいるけど、それとは違う。苦労しているような、していないような……。何を苦労していいのか分からない。別に自分の技術を秘密にしているわけではないんです。伝えているんだけど、全然浸透していない(笑)」

 活動を続ける中で、鍵盤ハーモニカという楽器の可能性を広げてきた。

 「突き詰めていくと、表現の可能性が段々見えてきました。ゆっくり分かっていったことで、いろいろな音楽に対応できるんです。息の仕方、鍵盤に指を乗せる際の力加減などが少しずつ系統立てて分かってきた。以前は力みがちだったけど、それがなくなってきましたし、サックスやハーモニカみたいなベンドもできるし、アコーディオンや弦楽器的なアプローチもできる。40年くらいやっているので、遅いよ!と言われるかもしれませんが」

 ピアニカ前田さんが長年かけて磨き上げたきた唯一無二のサウンドは「CITY THE ANIMATION」にも見事にハマった。サウンドトラックも発売されているので、じっくり耳を傾けてほしい。

提供元:MANTANWEB

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