JUNK WORLD:気の遠くなるような作業を3年 インディーズを貫く異色のストップモーションアニメ 堀貴秀監督インタビュー

配信日:2025/06/08 7:01

「JUNK WORLD」の一場面(c)YAMIKEN
「JUNK WORLD」の一場面(c)YAMIKEN

 堀貴秀監督がほぼ一人で作り始め、約7年かけて制作したことも話題になったストップモーションアニメ「JUNK HEAD」に続く新作「JUNK WORLD」が6月13日に公開される。堀監督は1971年生まれ、大分県出身。2009年12月に約30分の短編「JUNK HEAD 1」の自主制作を開始。堀監督は映像制作の経験がなかったが、CG全盛の時代に、あえてストップモーションアニメで「JUNK HEAD」を作り上げた。独特の世界観が話題になり、インディーズ映画ではあるが、2021年3月に公開された長編が、興行収入が1億4000万円を突破するなどヒットを記録し、数々の映画賞を受賞した。約3年をかけて制作したという新作について聞いた。

 ◇スタッフは倍になったが

 ストップモーションアニメの制作は、例えば、「動き次第ではあるのですが、5、10歩歩くシーンに1日かかることもある」と、気が遠くなるような作業を積み重ねた。

 「時間が止まった感覚になるんです。気が付いたら1時間たっている。失敗もできない。何パターンも撮って編集するんじゃなくて、一発勝負です。だから、編集で迷うことはないのですが」

 千葉県の海に近い場所にある堀監督のスタジオ「YAMIKEN(ヤミケン)」で、気の遠くなるような作業を約3年続けた。

 「基本的に全部に関わってやっているので、自分はフル稼働です。ほぼあの敷地から出ていない。週末にスーパーで食材を買って、洗濯するくらいで、それ以外はほぼスタジオにいます。最初は不眠症だったんです。ショートスリーパーではないけど、2、3時間くらいしか眠れなかった。悩んで眠れなくなってしまうんです。午前中はボーッとしていたけど、さすがに時間の無駄なので、心療内科に行って、5時間くらい眠れるようになりました。それ以降は、バリバリ作業できています。ストレスは常にありますね。思い通りにいかないことがほとんどだから」

 「前作は平均3人くらいで作っていましたが、新作は6人くらい」とスタッフは倍になった。それでも少ないが……。

 「人手はやっぱり必要でした。ただ、みんな素人で、2人は『JUNK HEAD』の流れで参加していますが、ほかは美術系ではありますが素人です。でも、センスのある人ばかりなんです。天才みたいなスタッフばかりです。アイデアも出してもらっています。いい環境で気持ちよくやってもらいたいので、環境作りも含めて自分の仕事になっています」

 ◇本物感が大事

 新作の舞台は「JUNK HEAD」からさかのぼること1042年前で、人間と人工生命体マリガンが、ゴーストタウンとなったはずの地下深部の都市・カープバールで起きた異変を調査することになる。新作では、CGや3Dプリンターを導入した。

 「結局、CGや3Dプリンターの経験がないので、勉強するところからはじまりました。最初はなかなか進まなかったけど、ある程度覚えてからはスピードが上がりました。前作は粘土で一つ一つの人形を作っていたので、一つのキャラに一体しかなかったけど、複製できるようになったから、同時進行で別のシーンを撮れるようになりました。CGは、飛行船が飛ぶシーン、背景の岩場などに使っています。CGとしては簡単な部類です。作り方は変わりましたが、ストップモーションのよさが残るラインを模索しながら作っていました。3Dプリンターも使っているけど、塗装するのは人の手なんです。手塗りのムラなどが、味になっている。やっぱり本物感が大事だと思っています」

 “本物感”やストップモーションならではの映像表現を大切にしている。それは前作から変わらない。伝統的なストップモーションではやらないことにも挑戦しようとしている。

 「それが一番の強みなのは自覚しているので。ストップモーションによるリアルさがある。何百億かけていたとしても、本当に人が作っていると感じる映画はなかなかない。多少ぎこちなくても、バックグラウンドを感じると見え方が変わる。予算をかけないからこそできる表現や演出もあるし、この規模だからできるものもある。ただ、ストップモーションアニメは、ストップモーションであることを見せたい作品も多い。爆発に綿を使ったりする。そういう路線とはちょっと違う。新しいジャンルを作りたいという思いがある。SFはお金もかかるし、低予算で没入できる映像表現となると、こういう手法がいい。可能性を感じています」

 ◇さらなる続編も

 新作は、日本語音声仕様になった。前作「JUNK HEAD」は、キャラクターが“ゴニョゴニョ”としゃべり、字幕が付いていた。

 「『JUNK HEAD』の時から、日本語の方がいいとは思っていたのですが、スキルもないので、ゴニョゴニョに逃げました。今回は、設定も複雑なので、ある程度説明しないと分からないところがある。ずっと字幕だったら、見にくくなると思い、日本語にしました。ただ、ゴニョゴニョ版(日本語字幕)が好きという人もいるので、同時公開になります。ゴニョゴニョ版も味わいがありますし」

 堀監督を含めたスタッフが声優を担当した。プロの声優ではないが、独特の味わいがある。

 「基本的に3人でやっています。ダンテ、プリオン、子ロビン、怪獣とかは自分です。多少、ピッチを高くしたりはしていますが。本当はプロに頼みたいけれど、予算の都合でそんな余裕はとてもなかったので。ただ、自分がこの世界観を一番分かっているので、統一感はあるかもしれません」

 新作は前作と同様にインディーズ映画だ。アニプレックスが配給しているが、インディーズ精神を貫いている。

 「自由にやらせてもらっていますし、やりやすいですね。インディーズだけど、それ以外にどんな選択肢があるかも分からないので。業界を全く知らないので、ほかがどうやっているのか分からないですし」

 さらなる続編の制作も予定しており、準備を進めている。

 「あらすじはもうできていて、年内にコンテをきっちり書いて、数年後の公開を目標に進めています。今回の興行次第ですが、本当は20人くらいにスタッフも増やしたい。お金を稼がないと作れないので、新作の人形をオークションサイトに出します。主役級も買えます。本心としては、全部残して、美術館をやりたいけど、とにかく稼がないといけないので」

 「JUNK」シリーズ以外の制作にも「ストーリーはできていて、何本もあります。ストップモーションもありだし、実写にストップモーションの要素を加えるのも面白い。SF、ホラー、ゾンビ映画はいずれやってみたいので、常に考えています。アイデアがいっぱいあって、そのアイデアをほかの作品に持ってきながら新しいものをどんどん作ることができるので」と意欲を燃やす。今後もこれまで見たことのない“新しいジャンル”を開拓していくことに期待したい。

提供元:MANTANWEB

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