ヴィジランテ:“ヒロアカ”スピンオフ 非合法(イリーガル)ヒーローをアニメで描く 日本風アメコミ、夜の描写にこだわり 鈴木健一監督インタビュー
配信日:2025/05/05 9:01

堀越耕平さんの人気マンガ「僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)」の公式スピンオフで、古橋秀之さんが脚本、別天荒人さんが作画を担当する「ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-」のテレビアニメが、TOKYO MX、読売テレビほかで放送されている。“ヒロアカ”本編の数年前の日本を舞台に、人々に認められ活躍するヒーローの裏側で、誰にも認められずとも誰かを救わずにはいられない非合法(イリーガル)ヒーロー・ヴィジランテたちのドラマが描かれる。アニメを手掛ける鈴木健一監督に制作の裏側、“非合法(イリーガル)ヒーロー”を描く上でのこだわりを聞いた。
◇非合法(イリーガル)ヒーローの雑草魂感
「ヴィジランテ」は「オールマイトと出会わなかったデクの物語」「雄英高校に入れなかったデクの物語」とも言われ、平凡な大学生・灰廻航一(コーイチ)、自称フリーアイドルのポップ☆ステップ、クズ専門の“掃除屋”ナックルダスターの3人がメインキャラクターとなる。鈴木監督は原作を読み、「スポットライトが当たらない人たちの頑張りみたいなところが非常に魅力的」と感じたという。
「3人それぞれがそれぞれの意志を持っていて、ヴィジランテ活動していくという流れがとても好きだな、いいなと思っています。“ヒロアカ”と同じ世界観で、いろいろな見え方がある中の一つが『ヴィジランテ』で、一見どこにでもいる大学生がヴィジランテ活動を経て成長していく。“ヒロアカ”は、結果的に雄英に入れたというのがありますけど、『ヴィジランテ』は全く違うところで活動をしている感じが、より一層、一般人感がある。要するに『俺らに近い』というか。例えると、結果的に歌手になれた人たちと、歌手を目指していて、結果なれなかったけど常にライブをやっている、みたいな感じがある。その雑草魂感が好きですね」
鈴木監督が「ヴィジランテ」をアニメ化する上で大切にしたのは、「皆さんが読んだ原作のいいイメージを損なわず、声優さんと音楽とアニメーターの力でより一層盛り上げる」ということだった。
「アニメになると、原作に描かれていないコマ、行間みたいなところを描かなくてはいけない。マンガを読むのと、アニメーションで見るのは印象が違うので、激しいものは激しく、うれしいものはうれしく、ブーストをかけていかなければいけないと考えているので、その行間をなるべく間違えないようにと思っています」
◇アメコミを日本風にアレンジ 夜を美しく
鈴木監督は、“ヒロアカ”と同じ世界線であること、“ヒロアカ”とは異なる部分の両方を意識し、制作に臨んでいるという。「ヴィジランテ」と“ヒロアカ”に共通するアメコミっぽさに関しては、「アメコミを日本風にアレンジする」ことを重視しているという。
「アメコミを日本テイストに見たら?という印象でやっています。アメコミを日本風にアレンジした感じで、土台は日本なんだけど、アメコミの皮をかぶったらどうなのかな?というイメージです。例えば、アメリカは街に自販機が全然ない世界ですが、街中に自販機を意識的に描くことで、外国の方が見た時に『日本の背景だよね』と見えるようにしています」
鈴木監督自身、「日本のヒーローと言えば仮面ライダー」という思いがあるといい、「仮面ライダーを見てきた子供が育った時、アメリカのヒーローと融合して、どういうものが描けるか?というところが面白いんじゃないかなと思います」と語る。
一方、「ヴィジランテ」ならではと言えるのが、夜のシーンが多いこと。コーイチたちヴィジランテは主に夜に活動するからだ。
「夜の描写は、単に暗いのではなく、『正しいことやっている人たち』というのがあるので、暗い中でスポットが当たるというか、夜がきれいに見えたほうがいいなと。“ヒロアカ”と同じ世界観ですが、『ヴィジランテ』ならではのテイストで何か作れないか、ということで夜の描写は着地している感じです」
夜の“光”の描写にもこだわっているという。
「月の光や街中の光、ネオンがきれいに見えるようにしたいなと。私はこれまでの作品でも、毎回ライティングに凝りたいと思っているのですが、今回もそれは頑張ろうと思っています。街のきれいさや光の玉ボケなどレンズ感にこだわりたい。アカデミックな作りではなく印象派というか、写実的なイラストのようなイメージで、絵の情報は少ないんだけど光はリアルめに見えるというのを目指しています」
◇「ヴィジランテ」ならではのリアルさ 路地裏探しが大変!?
「ヴィジランテ」では、「爽やかな画(え)になりすぎない」ことも大切にした。
「やはり“ヒロアカ”は雄英高校の生徒たちが中心で爽やかなので。『ヴィランテ』は非合法(イリーガル)ヒーローなので、差別化は常に図っていて、どうしてもストーリーに引っ張られて爽やかな画になりそうなところは、爽やかになりすぎないように意識しています。背景には、かなり質感を入れて、きれいに見えすぎないようにして。ドラマの中では爽やかできれいな感じは演出しているのですが、画の色味や物の質感はきらびやかな世界にあまりしないように。“ヒロアカ”がどちらかというと、スポットライトが当たる側なので、それとぶつからないように演出に注意しています」
背景はリアルっぽく、さらに音にも工夫したといい、「路地裏を歩くシーンは、ジャリジャリと砂を噛んだ音にしてもらって、街を歩く時と路地裏を歩く時は差を出してもらっています」と語る。確かに「ヴィジランテ」では路地裏のシーンが非常に多い。実は、路地裏に関しては最も苦労した部分の一つでもあるという。
「『ヴィジランテ』は東京都内をモデルにしているのですが、日本はちょうどいい路地裏が全然ないんです。特に都内はないですね。もっと狭いしきれいで、思い描いた路地裏が全然ないんです。路地裏を探すのにすごく苦労して、結果的に作りました」
原作の魅力を最大限に引き出すべく、細やかなこだわりを持って制作されている。アニメならではの魅力を聞くと、「ポップの歌じゃないでしょうか」と語る。
「『ヴィジランテ』は、とにかく歌と踊りが多いんです。それは非常に大変ですが、結構いい感じに仕上がってきてるので、楽しみにしていただけるとうれしいなと思います。作画陣にも頑張って動かしていただいてるので、見どころがたくさんあります。また、アクションシーンも“ヒロアカ”の世界観を壊さないように、ファンタジー感を抑えて、地に足のついたリアルなヒーロー感を大切に作っています」
“ヒロアカ”のヒーローたちとはまた違った魅力を持つ非合法(イリーガル)ヒーローたち。その輝きがどんなものなのか、アニメで感じたい。
提供元:MANTANWEB