それでも結婚したい? 家族の在り方を考えさせられる漫画10選
更新日:2018/10/22 10:00
突然ですが、あなたは結婚していますか?している人は幸せですか―?
多様な生き方が求められる昨今。家族や夫婦というコミュニティについても、さまざまな選択肢があり、「この形が当たり前」と定義するのが難しくなっているように感じます。その一方で、旧来型の「常識」との間で苦しむ人もまた少なくありません。今回は、さまざまな家族・夫婦を描く漫画10作品から、現代の家族観を考察してみたいと思います。
もはや愛はないのか? 結婚生活を辞めないことが目的化した夫婦たちの物語
①「夫婦だから言えない」、けれど「夫婦だから言ってほしい」。葛藤が切ない物語 『あなたがしてくれなくても』(ハルノ晴/双葉社)
夫婦になった男女に降りかかる問題の一つ、子どもを持つかどうか。結婚したとたんに子どもについて聞いてくる無遠慮な人も少なくありません。しかし、子をもうけるためには、前段階で必要なことがあります。子を持つことを夫婦に無遠慮にすすめることは、イコール「そういったこと」を励行することにほかなりません。恋人時代には他者がその問題に問いかけることはタブーであったのに、です。しかしうらはらに、夫婦となった男女にはその瞬間からどこか「家族」「共同生活者」となり、そういったこととは距離ができ始める人も少なくありません。
この物語の主人公のみちは、夫にとって自分が「家族=抱けない対象」になったことを悩んでいます。
夫・陽一は疲れを理由に妻との行為から逃げます。が、他の女に対しては欲をあらわにします。いわゆる「妻だけED」というヤツです。
自分が女性として評価されない苦しみが募り、思わず同僚男性に夫婦の夜の事情を吐露するみち。ここから物語は大きく動き始めることに―。
陽一との関係を立て直すべく、みちは子作りを提案します。でも、みちの本音は「夫に女性として扱われたい」なんですね。それを知ってか知らぬか、みちの提案を断る陽一…。
夫に不満があっても正直に伝えないみち。問題に向き合うことから逃げ続ける陽一。この夫婦には圧倒的に会話が足りません。でもそれは、「夫婦の関係を壊したくないからこそ」でもあるのです。とくに性については「夫婦だからこそタブー」という側面があるのかもしれません。
②秘密の共有で息を吹き返した夫婦が迎える結末は―? 『ただ離婚してないだけ』(本田優貴/白泉社)
物語は関係が破綻しつつある夫婦・正隆(まさたか)と雪映(ゆきえ)の食卓から始まります。同じものを食べてはいるものの、会話もなく、単なる習慣として進む食事。そして互いに、そんな関係をあきらめている2人。
「離婚のほうが面倒くさい、だから現状維持」そう考えた男がとった行動は、不倫。妻が居ぬ間に10歳以上も年が離れた彼女を連れ込み、ことにいそしみます。
ここまでは、わりとよくある「不倫モノ」です。
しかし、この不倫相手の予期せぬ妊娠から物語は転がり始めます。
妻にばれぬよう不倫相手に中絶させる男。しかし「女に堕胎させた」罪悪感をいやすために数年ぶりに妻を抱くのです。
その行為で、なんと今度は妻が身ごもります。実は過去にこの夫婦は子どもを流産した経験があり、そこから夫婦関係に亀裂が生じていました。妊娠に喜ぶ妻、そして男。しかし納得しないのは不倫相手です。「本当は子どもを産みたかった!」その思いから夫婦のもとに乗り込みます。しかし、心が離れたはずの夫婦による、たぐいまれなる“連携プレー”の返り討ちにあい―
そして夫婦は、大きな秘密を共有する「共犯者」となります。
流産というアクシデントで壊れた夫婦の関係が再生するきっかけとなったのは、妻の妊娠、そして不倫相手の中絶と殺害でした。皮肉にも「二度の殺人」と負の共同作業を経て取り戻された夫婦は、果たして「幸せな家庭」を築けるのでしょうか……?
リアルさにドキドキ!揺れ動く夫婦の実録エッセイ漫画
③萎えるのは「女のせい」なのか? 『今日も拒まれてます』(ポレポレ美/ぶんか社)
もしもパートナーから「普段の君は好きだけど、ヤル気が起きない」こう言われたらどんな気分になるでしょう。性的な部分だけを拒絶されたんだ、そう思おうとしても、きっと人間としても否定された気持ちになるのではないでしょうか。セックスレスの問題は単に「欲が満たされない」というだけではありません。そしてパートナーの人格を傷つける行為にもなり得ます。
主人公である妻・ポレ美と夫・山木は9年間の交際、同棲を経て結婚しました。そのせいか、結婚前からすでに男女の関係はなくなっており、結婚してからもポレ美はそのことを悩み続けていました。
今はマンネリでも「結婚」で気持ちにテコ入れがされれば関係も回復する!そう思って結婚にこぎつけたものの目論見は外れてしまいます。自分には女性としての魅力がないのか!?と悩み、セックスレスを解消しようと奮闘、大胆な下着を身に着けたり、セックスチケット(!!)なるものを作成したり、涙ぐましい努力を続けるポレ美…。しかし、「疲れている」「仕事が忙しい」を理由に拒まれ続けてしまいます。
そんな中、偶然連絡してきた男友達と食事をすることになり、心を許し、レスについても相談するポレ美。すると男友達からは「欲求不満なんでしょ?」「したいから言ってきたんでしょ?」とあらぬ誤解を受け、迫られてしまうことに…。
加えて、姉妹の妊娠をきっかけに両親からはお決まりの「子どもはまだか?」攻撃が始まってしまいます。ポレ美自身も子どもが欲しいと思っているため、山木に「してもらえない」という事実が歯がゆく、どんどん自分を追い詰めてしまいます。
この作品には「セックスレス・ハラスメント」というサブタイトルがついています。
―お願いしても拒否される自分は女性としての魅力を欠いているの?
―そもそもセックスってお願いして「していただくもの」なの?
―お願いしたところで「逆に萎える」と否定され、周囲に相談しても「性欲の強い女」と誤解されてしまう…。
そんな八方ふさがりの状況は無理解な周囲からハラスメント(嫌がらせ)を、逃げ続ける夫からは精神的DVを受けていると言っても過言ではありません。
ちなみにこの作品は2018年秋現在も連載中です。ポレ美と山木の今後はどうなるのか!?目が離せません!!
④さみしさで壊れた夫婦の崩壊と再生の実話 『カマかけたらクロでした』(うえみあゆみ/KADOKAWA / メディアファクトリー)
浮気や不倫、心変わり。どのタイミングでされても傷つくものではありますが、「妊娠中」というもっとも裏切られたくないタイミングで発覚したら、果たしてそれを許すことができるのでしょうか?『カマかけたらクロでした』は、妻の妊娠中に夫の浮気が発覚するところから始まります。妻が、夫婦が、どのような選択をしたのかを描いた実録漫画です。
夫は、忙しい・激務・そして家に帰れないの三拍子そろった環境で働く、駆け出しのAD。その妻・あゆみは、さみしさを感じながらも母子家庭状態で孤軍奮闘していました。しかも第二子を妊娠中。激務で家に帰れない夫も気の毒ではありますが、それはつまり家事や育児は妻に任せきりということを意味します。
なぜ自分ばかり…私だって働いているのに…でも仕事と言われたら許すしかない…。
身重の体を抱え苛立ちながら上の娘と暮らす毎日。なんとなく、娘との「二人暮らし」の生活リズムもできてきてしまった、そんな頃。
夫の下着に「あのシミ」と、財布にラブホテルの領収書を発見…!!どう考えても怪しすぎる…!というか夫、ワキ甘すぎって気もしますが。
帰ってこないのは仕事だからじゃなかったの!?忙しくても浮気はできるの!?
動揺する心を抑えながら、言質を取ることを試みるあゆみ。
3か月を経て、とうとう、自ら「クロ」だと認める夫。
そして、夫への天誅が始まります…!!!
夫が浮気をしたという証拠を書面に残し(署名と押印つき!)、別居に踏み切り、離婚調停を経て、もろもろの要求が通ることとなったあゆみ。
泣き寝入らずに行動するあゆみ、偉い!強い!しかし、気丈にふるまうあゆみとは裏腹に、お腹の子どもには負担をかけてしまっていました…。
その後、上の子の小学校受験を経て、夫婦は大きな決断をすることになります。浮気の発覚からは3年の月日が流れていました―。
全編を通して感じたのは、浮気をするほう(加害者)はいつも受け身なんだということ。夫婦の問題から目を背け、逃げる。目を背けた結果、欲望に負け、浮気に走る。問題が露呈してからもうわべの謝罪を繰り返し、ただただ相手の怒りが収まるのを待つ。自分から前向きな提案はしない。サンドバッグと化す。浮気の加害者は、つねに成り行き任せで主体性がないんですね。なぜ被害者のほうが状況の改善のために奔走しなくてはならないのか…。怒りや感情のコントロールも自分で行わなくてはならないのか…。被害者なのに…。
とても癪ではありますが、なにかの被害者になってしまった際に、また「加害者マインド」を持つ人間と関わらないようにするために、とても参考になる作品です。
- 女性漫画 カマかけたらクロでした
- 2.9 (1640件)
積み重ねた歴史は、女を踏みとどまらせる枷になるか?
⑤これは不倫か、純愛か―恋に落ちた主婦の物語 『ふれなばおちん』(小田ゆうあ/集英社クリエイティブ)
出産という儀式を経た女性は「お母さん」になります。生物学的に母体になるということ以上に、自分の意志とは切り離されて、体、精神、社会的立場が強制的に「お母さん化」していきます。もちろん母になる/なった喜びを味わうこともあるでしょう。でも時には社会から「女ではなく母たるべし」という強い圧力を感じる瞬間があるかもしれません。
そんな「お母さん」としての自分を受け入れ、日々を過ごす女性が、もう一度誰かと恋をしたら、どうなるのでしょうか…?
主人公・夏(なつ)は中学生の長女と小学生の長男を持つ主婦。結婚以来恋愛はおろか、家事育児に忙しく、自分の身なりもかまわない毎日です。娘からは「女捨ててる」と言われていますがあっけらかんと過ごしています。
夏は、「誰かの母」として家庭をしっかり守ることに喜びを感じながら生きているのです。夫の義行もまた、そんな夏を理解し、頼もしく思っています。
しかしゴミ出しのために外に出た夏は、同じ社宅に住む小牧さんの奥さんが若い男と出て行ったという噂を耳にします。
「お母さん」をやっている人が、男と出て行ってしまうなんて…!?そんな発想そのものを持たない夏は思わず思考がフリーズ!家族を捨てて恋愛なんてありえない…!いや、あり得るの…?わからない…!戸惑う夏。
いっぽう、義行は夏に母親としての頼もしさは感じるものの、夫婦-男女としての関係には若干の危機感を覚えていました。
そんなある日、夫・義行の会社に、派遣社員として、劇団員・佐伯(さえき)が現れます。
恋愛によって妻に魅力を取り戻してほしいと考えた義行は、なんと佐伯に「自分の嫁を誘惑してくれ」と突拍子もない頼みごとをするのです…!
はじめは演技で夏に迫った佐伯でしたが、次第に夏の純粋さや生真面目さ、垣間見える女性としての魅力に心惹かれるように。そして夏も、自分を「女性として」評価してくれる佐伯に心惹かれていきます。
恋の力なのか、夏は見違えるように美しく変化していきます。あまりの変化に娘や夫からもしかしたらと疑われるハラハラの場面もあります。しかし、佐伯とはキス止まりのいわゆるプラトニックな関係です。
佐伯は「お母さんである夏」に大きな包容力を感じて、しかしそこに「女性として」惚れてくれます。
お母さんになったことに不満はない。子どもは可愛いし、夫のことも愛している。なにより、家族が一番大切。けれど、出産を経た女性は自ら好んで「女を辞める」わけではありません。むしろ世間が、周囲が、そして自分が、お母さんの役割を課すことで女を辞めさせている部分もあるのかもしれません。
お母さんとして生きる自分を再評価して、包み込んでほしい―。
そんなジレンマを抱える女性の心に寄り添うヒューマンドラマです。
- 女性漫画 ふれなばおちん
- 4.0 (3240件)
夫は大事です。でも、好きな人ができました。 結婚××年。家族のために生きてきました。それで幸せ...
⑥女をナチュラルに踏みにじる男へ下る鉄槌!男はそれを理解できるか? 『恋のツキ』(新田章/講談社)
「サンクコスト」という考え方があります。これは、もうかけてしまった、今後どのような意思決定をしても回収できないコストのことを指します。現実のビジネスでも、たとえば、赤字を垂れ流している事業なのに「初期費用にお金をかけてしまったから」と続けてしまい、赤字を拡大してしまうなどの例があります。
早めに切っておけばよかったのにそれができずに余計なコスト(時間/費用)をかけてしまう…。これは、恋愛にもあてはまるかもしれません。
大学時代から付き合い、同棲を始めて3年。惰性で付き合って31歳になったワコとふうくん。
この相手がアタリかどうかわからない。けれど、「これを逃したら、一生誰にも選ばれないかもしれない」そんな妥協のもとふうくんと付き合い続けるワコ。
そんな時に、ワコの前に現れた15歳の高校生、イコ君。年の差、ナント16歳…!
いけないとはわかっていながらも、イケナイからこそ、道ならぬ恋に引き込まれてしまうワコ。そうするうちに、イコくんのほうがワコに本気になってしまいます―。
結婚したいけどできないアラサーのさえない女が、ピチピチの男子高校生から求められ承認欲求を満たす、そんなのは現実にありえない!大人の女のための少女漫画だ!そう揶揄するのは簡単です。
けれど、私はこの作品にちりばめられた皮肉に注目したいです。
とくに妙齢の女性と付き合う男性の中には、「女は結婚をしたがっている。だから、結婚を餌にすれば女はなんでもやってくれる」そう思っている男は少なくないのではないでしょうか?悪気はなくても…。
それを象徴するのがワコの彼氏・ふうくんです。ふうくんは、日常生活の中でごくごく自然にワコをないがしろにし、ジワジワとワコにダメージを与えていきます。
でも、無自覚なんです。むしろ要所要所で結婚と言うキーワードをちらつかせることで、責任を果たしている=ワコに誠意を見せているつもりですらあるんですね。
なので、ワコに別れを切り出されてもわけがわからず、キレてしまう。
ふうくん、哀れ…。
ワコとイコくんの逢瀬は、愛と言うよりも、ワコによる復讐なのかもしれません。
しかしその後、ワコしか見ていなかったイコくんが、徐々に自分の世界を持つようになり、ワコとイコくんの恋は新たな局面を迎えることに…。
ワコはどうなってしまうのでしょう?今後の展開を見守りましょう!
壊れる家族、再生する家族
⑦家族ゲームを続けようとする男の、悲しくもおかしい物語 『ありがとう』(山本直樹/小学館)
「家族」ってなんでしょう?辞書を引くと配偶者や血縁関係、婚姻関係に精神的に結びつきのある人、と定義されています。定義と言いつつ、どうも、理解できるようなあいまいなような…。精神的な結びつきってなんだよ?って感じじゃないでしょうか。
ここで紹介する「ありがとう」は、1990年代の日本がまとっていた閉塞感や、時代を象徴する暴力性の強い事件をモチーフにしながら、「家族」と「家庭」とは何かを読者に問いかける作品です。
物語は、とある家庭が不良たちに占拠されている場面から始まります。
不良たちに薬漬けにされ凌辱の限りを尽くされる高校生の長女。それを目にしながらも全く関心をはらわずアルコールに浸る母。自分にも降りかかる暴力を淡々と受け入れるドライな中学生の二女。そんな冒頭シーンは強烈で、目をそむけたくなる悲惨な描写もしばしば。
そこへ、長い単身赴任を終え、家長である主人公・鈴木一郎(すずき いちろう)が帰還します。
我が家の惨状を信じることができない一郎。自分の知らぬ間に家族は壊れてしまったと嘆き、不良たちと戦い、家族を取り戻すべく奮闘します。まるでヒーローのように。…彼の頭の中では。
不良たちに「家庭たるもの」を語り、自分がどれだけ家庭のために粉骨砕身してきたかを説き、警察の介入を許さず、「家族は俺が守る!」と息巻きます。
俺が、壊れた家族を取り戻す!俺が、俺が、俺が!と前のめりな一郎ですが、実は単身赴任するよりも前に、すでに家庭は崩壊の兆候を見せておりました。父だけがそれに気づかぬままだったことが徐々に明らかになっていき、鈴木家は、不登校・いじめ・新興宗教にはまる・娘が自分を犯した不良の家に家出する…などなど次から次へと新たな問題を抱えていきます。
基本的に一郎は、家族の気持ちを想像することができません。理解できないというか、推し量ろうとすらしません。しかし、かつてそれを「カッコイイ父性」とした時代がありました。「父親たるもの、家族にこびてはならん」「父親はドーンと構えていればいい!」と、まるでそれが美学だ哲学だ、と言わんばかりに。一郎は理想の父親像をもっているからこそ、家族にもその父性にのっとった姿を押し付ける。それが家族を壊していたのです。
しかし一郎が「いびつな父性」を手放し「自分は家族の(精神的な)大黒柱ではない」と気づくことで、鈴木家は新しい家族の形を手に入れ、家族それぞれが生き方を得、物語は結末を迎えます。
本作が発行されて20年以上経ちますが、家族というものの在り方を考える示唆は現代にも通じるところがあります。いっぽう、時代を象徴するモチーフの描写には逆に新鮮さを味わえるでしょう。いつ何度読んでも発見がある作品です。(ただし、暴力描写が苦手な人は要注意です!)
⑧紋切り型ではない家族の在り方を考える 『娘の家出』(志村貴子/集英社)
フツウの家庭というものを思い描くとき、「お父さん・お母さん・子ども」というメンバーを描く人が大半でしょう。では、その枠組みから外れた人たちは、普通じゃない家族なのでしょうか?
「娘の家出」には、一般的には「普通じゃない」家庭がたくさん登場します。
物語は、再婚した母と、母と離婚してから彼氏(!)と暮らす父。その家に、娘のまゆこが家出してきたところから始まります。
物語では、まゆこの家出をきっかけに、両親に離婚経験のある少女たちのそれぞれの家庭、さまざまなカップル、友人関係がオムニバス形式で描かれます。
姉と兄が「出戻り」してしまったために家庭の中で「一番幼い存在」でいられなくなってしまい、家族に素直に甘えることができなくなったニーナ。
「周囲が喜んでくれるから」芸能活動をし、好きな男の子を喜ばせることばかりを考える玲奈(れな)。「自分の心は、人の言葉にばかり左右されている」と気づき、落胆します。
また、まゆこの父親の相手が男性であることが示すように、性や恋愛の多様性についても描かれています。
「ママが再婚する」とパパに打ち明けるまゆこ。ママが幸せになることに安堵するパパ。
そんなパパを「自分が原因で離婚したくせに」とちくりと刺すまゆこ。
パパの彼氏・しんちゃんに、罪悪感を問うまゆこ。彼女はしんちゃんを責めたいのではなく、彼氏以外の人に特別な感情を持ってしまった自分は是か非か、という答えを探していました。
まゆこの置かれている環境は複雑です。ですが、まゆこは正直に自分の気持ちを吐き出すことを許されているのです。
特別に大きな事件が起こるわけではありませんが、友人と同じ人を好きになったり、イケメンとは言いにくい人たちを好きになったりと、女子高校生たちが、「若い娘として社会から求められる姿」と自分の中にある思いとの間で揺れ動く姿は、みずみずしく、美しくもあります。
親たるものはこうあるべし、子どもはかくあるべし。そんな「社会的役割」に属さずとも幸せを得られるということを感じさせてくれる、温かい作品です。
本当に「結婚」って必要?あなたは結婚、したいですか?
⑨これはドロップアウトではない!あるべき道へ戻った女性の物語 『凪のお暇』(コナリミサト/秋田書店)
生き方や人生の多様化が叫ばれるようなっても、「結婚=幸せな人生」と定義づける風潮は根強いと感じます。ある女性誌のアンケートによると、「結婚したい」と考えるアラサー女性の割合は70%を超えているそう。でも、もしも「結婚さえすれば幸せになれる!」と思い込んで日々を暮らし、とにかく異性が結婚したくなる理想の結婚相手の道を驀進する人がいたとしたら…?果たして結婚までの日々は単なる「結婚までのステップ」でいいのでしょうか?
結婚をゴールと見据え、ゴールに向かってムリを重ねる、主人公・凪(なぎ)は、アラサーのOL。仕事はつまらない。同僚はマウンティング、自慢合戦ばかり。けれど凪にはそこから脱却する勇気も意志ありません。同僚たちとのどうでもいい会話にも「わかるー」を繰り返す凪。「空気、読んでこ」を合言葉に、本音を隠して作り笑いを続ける姿は実に痛々しいです。
そんな凪には実は「隠しカード」があります。営業部のエース・我聞慎二(がもん しんじ)。凪の彼氏です。
慎二との結婚だけを夢見てつまらない日々を送る凪は、慎二からのモラハラまがいの言動にも耐え続けます。すべては、結婚を勝ち取るために。
慎二が結婚してくれさえすれば、自分の冴えない毎日もすべて逆転できる、そう思っているのです。しかしある時、凪は慎二の「本音」を聞いてしまいます。
「結婚?ないない」
これを聞いた凪はショックで過呼吸になって倒れてしまいます。そして、空気を読むだけの毎日を捨てることを決意し、会社を辞め、引っ越し、すべてをリセットし新たな生活をスタートすることに―。
生活も人間関係もすべて断捨離すると、凪の目には今まで見えなかったものが見えるようになりました。見た目とは裏腹に豊かな生活を送る隣人、怖そうな外見だけど勇気を出して話してみると優しい店員さん。そんな、今まで気づかなかった「小さな幸せ」に気づくようになります。
また、元カレ慎二に対する自分の本心にも気づきました。
営業部のエースでヤリ手。そんな慎二のスペックが好きなだけだったと気づいてしまいます。けなげに頑張っていたのは慎二の「持ち物」を失いたくないからで、自分を縛っていたのは、他でもない自分だったのです。
自分で自分を縛り付けなければ一緒にいられない人なら、もう逃げていいんじゃないか。自分を幸せにできるのは自分自身であり、一人でいることは孤独ではないと思い出した凪。以前より強くなった凪がさらにどのように成長していくのでしょうか?
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場の空気を読みすぎて、他人にあわせて無理した結果、過呼吸で倒れた大島凪、28歳。仕事もやめて引...
⑩人と暮らすときに大切にすべきことがつまったドラマ 『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)
人と暮らすことは簡単なことではありません。以前まで他人だったのに、関係性が一気に縮まることになります。暮らす相手が同性の場合、相手を理解することだけでも大変なのに、周囲からも理解されないという二重の苦しみを味わうことになります。
この料理漫画には、その「苦しい」気持ちから抜け出すためのヒントがあるはずです。
「きのう何食べた?」では主人公・シロさんとケンちゃんの同性カップルが、ひとつ屋根の下で暮らしています。このカップルも周囲から理解されていません。二人の事情を知っている親からですらも、理解をしているテイで「私はあなたが同性愛者であっても犯罪者であっても受け入れるから」と罪人と同じくくりで励まされ、「いい女と出会っていないから男を相手にしているんだろう」と無神経なことを言われてしまいます。彼らも、同性愛が世間的にはイレギュラーであることを理解しています。
だから、自由に生きてはいるものの、自分たちの価値観や主張を声高に押し付けたりはしません。とくに、弁護士という社会的地位の高い職業についているシロさんはそのことを承知しており、周囲の価値観に合わせ、ケンちゃんとの関係を隠しています。自分たちはそんなにおかしいか?悪いのか?と悩むシーンもしばしば…。
でも、そんな無神経な周囲とは裏腹に、主人公の二人はお互いを絶妙な距離感で思いやって暮らしています。
ささいなけんかをしたとき、シロさんは相手をいたわる気持ちを手料理に込め、食卓にのせます。
ケンちゃんも、シロさんの思いを察して、いつでも「おいしい」とほおばります。
いつでも「おいしい」と言ってくれるケンちゃんにまた、シロさんは「にこにこ食べてくれてありがたい」と心の中で感謝します。
この作品には、どんなカップルにとっても大切な「他者と暮らすときに大切にしなくてはいけないこと」がつまっています。同性愛者の二人は、いわゆる婚姻関係を結んでいるわけではありません。けれど、そういう契約がなくてもお互いを大切に思いあえば家族になれるということを二人は教えてくれます。
なお、二人が食べている料理のレシピも、作中で詳しく解説されています。
どれも家庭で再現可能な家メシばかり!レシピ本としても役に立つ美味しい漫画です。
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鮭とごぼうの炊き込みごはん、いわしの梅煮、たけのことがんもとこんにゃくの煮物、栗ごはん、トマト...
さて、以上が家族や夫婦を描く漫画10作品です。どれ一つとして同じストーリーはありません。それは、人々の生活も同じだと思います。
総務省が行っている国勢調査によると、「一般世帯」を1980年には「夫婦+子ども」の家庭と定義していましたが、年々「夫婦」「単身者」で構成される比率が高まっているそうです。ある研究機関は、2030年ごろに「単身者のみの世帯」が一番高い割合を占めるようになり、一般世帯=単身者世帯へと変化するとみています。世帯、家庭は時代とともに変化し、「家族の在り方」もまた変化するということなのでしょう。
2018年現在はその過渡期。生き方の多様性が叫ばれていることも相まって、様々な家族・家庭の様相を描く作品が、これからも増えていくかもしれません。
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作者
pacho40
10代以前は『りぼん』『花とゆめ』で育ってきた、アラフォー派遣社員。 もとは読書の間の緩衝材として、ライトでフワフワしたような漫画を読んでいましたが、最近は、夫(40代)と息子(10代)の影響で、未知だった分野にも手をだしつつあります。記事タグ
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