5.0
シュールな発想とギャグで包んだ奥深い内容
突然の謎の海面上昇で海に沈んだ街の中を、高校生の春生(はるお)が引きこもりの兄=夏生(なつお)と二人で、バスタブに乗って漂流します。
海の中は巨大なサメが沢山で(なんでこんなにいるんでしょう、謎ですね)、人が喰われて死体だらけ、そうしたシュールな非日常をギャグで包んだ人生劇場です。
人々の喜怒哀楽や、危機で浮かび上がる人としての本性が、小さな逸話ごとに、切り取るように印象的に描かれています。
注目すべきは、顔も体形もかなり気持ち悪い引きこもりの兄の夏生です。
ハッとする程の純粋さや誠実さ(時には大人の思いやりも!)が、セリフも少ない数コマの表情で浮き彫りにされ、読むにつれ、非常に魅力的な人物へと変貌していきます。
童貞卒業したさに春生に偽の告白をされたデブでブスのクラスメートの、春生に対する純情や献身も見ものです。
地下トンネルに海水が流れ込んで発生する渦巻のシーンは、ポーの短編「大渦巻」を彷彿させるし、海中を泳げば下には沈んだ街並が見え、さながら空を飛んでいるようです。
現実の人間社会では適応できずに孤立してしまう兄の夏生の、最終話で見せる行動=姿は感動的ですらあり、コロナ禍などを含め様々な事情で悩み苦しむ私達に、一粒の光さえ与えてくれるようです。
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バスタブに乗った兄弟~地球水没記~