若様、チヌちゃんの裸見た時明らかに「女」として意識してたもんね。
女郎として肌を蹂.躙されている事は、出逢った時から承知している筈なのに今更不思議な話だけど、これまで其処には無意識に蓋をしてきたんだろうな。
つまりチヌちゃんを女性として見ない事により、自分の中にある男の欲望もまた、見て見ぬふりが出来るから。
でも若様、あの時自分がチヌちゃんに男の欲望を抱いている事に気付いてしまったね。あの表情には明らかな劣情が見てとれたもん。
東陽楼で床急ぎした時「君みたいな子を抱いたら幸せだろうね、だから抱かない」と言った若様の真意がずっと分からなかったんだけど、ここに来てやっと合点がいったわ。
胸の刀傷を「御守りであり戒めでもある」と言った意味も。あの傷はつまりは貞.操/帯なんだ。若様は寿子さんを裏切る事をしたくないんだ。だからチヌちゃんを抱かずにいるんだ。
チヌちゃんを抱かないのは、単に女郎として扱いたくないからだと思ってたけど、それだけじゃなかったんだ。
とはいえ若様はまだまだ自分の本心に気付かぬふりを決め込んではいくだろうけど、いつか必ずそうはいっていられない時が訪れるね。
寿子さんとの愛の記憶を話した瞬間から、心の中の最も柔らかで大切な、他の誰にも見せる事の無い部分を分かち合い始めたんだから。
つまり若様にとってチヌちゃんはもう既に、自分の人生を分かち合う伴侶に他ならない存在になってしまったって事よ。
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声なきものの唄~瀬戸内の女郎小屋~(分冊版)
137話
第38話(4)