なるほど、未遂ではなかったんだ。
だけどキチェスであることが損なわれることなんてなかったから、キチェは消えなかったのね。よくわからないけど、木蓮の思いや紫苑の思いが実は純粋なものだったからとか? 木蓮の行為は紫苑を救うものだったからなのかしら···
余裕がなければ他人を思いやることなんてできない、それはその通りだと思う。紫苑の中にはずっと憧憬と羨望と欲求があったのは描かれていたけど、善良で正義感の強い人間につっかかってしまうのはそれを認めたくなかったからか。賢いのだからわかりそうなものなのにとも思ったけど、プライドが高ったのもあり、そうやって自分の心を守ってきたのね。
だけど紫苑はその拗らせを最悪の形で晴らそうとした。
どんな事情があっても許されることではない。この一点においては紫苑に同情はできないし、人格形成の過程がどうというよりは、生来の性質に問題があったとしか思えない。でもそれを正してくれる人がいなかったのは不幸だった。
気持ちが晴れず、ようやく自分の中の醜いもの情けないものと向き合うことになった紫苑。そしてそれを初めて認めて、他人に打ち明けることができた。
それは木蓮が紫苑を責めず軽蔑もせず、許して(木蓮の様子では許すも許さないもなさそうだけど)受け入れてくれたから。相手が木蓮ではなかったら、紫苑はやってしまったことの罪悪感に苛まれ続けるか、もしくはやってやったという高揚感のあとの虚しさだけだった気もする。
木蓮がどういうつもりで申し出を受けたのか、なぜ拒絶したのか、相手が紫苑だったからなのか、他の面子でもそうだったのか、そのあたりのことはまだわからない。
だけど、木蓮は、紫苑が勝手に思ってるような幸せなだけの人生ではなく、キチェスであることの制約というか苦しみみたいなものを背負ってきたのもわかる。木蓮の中で何がどうなったのかは全然わからないけど、拒絶は紫苑を受け入れられないとかではなさそうだし、紫苑のおかげで救われたこともあるように見える。
輪が全ての記憶があるわけではないことに気付く描写があったけど、このあと二人の間にあるであろう心の交流を覚えてないのか、それとも木蓮の本心を知らないままなのか。
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ぼくの地球を守って
128話
第123話