お嬢様を失った後のカイドの姿が本当に痛々しい……。15年、彼はこんな自責に苛まれていたんだなぁと。カロンや他の使用人たちが、いつしかカイドを案じる側に変わったのも分かる。
カイドは本当はお嬢様だけは処刑したくなくて命を救いたかった。だから彼はお嬢様を北の修道院へ送ろうとした。自分の故郷にある修道院へ。かつて交わした故郷へ連れていく約束の代わりに。
その事に気付いて、自らその道を閉ざしたのはお嬢様の側。だからシャーリーは自分を嘘つきだと責めて、自分を失って苦しんできたカイドに謝罪している。何故ならば、自分を生かすと言う事が、カイドの新しい領主としての妨げになることを彼女は分かっていたから。前領主の一家は憎まれて処刑されなければならない。少しでも情を残せば、彼らを討ってライウスを救ったカイドに疑問を抱く人間が出るかもしれない。そんな中でよりにもよってカイド本人が前領主の娘に情けを掛ければ、それはそのままカイドへの不審に繋がりかねない。……だから、お嬢様はおかしてもない罪を告白し、カイドが自分を救えない状況を作り出した。断頭台でも最後まで悪女を演じて、処刑される自分に一切の同情が向かないようにした。
本当は個人としてのカイドは叫んで駆け寄りたかったんだと思う。お嬢様を死なせないでくれ、その方はそんな非道な方じゃないんだと。けれど貴族として民を救い、新しい領主としてライウスを守らなければならない彼には許されない事だった。ここで躓けばライウスは再び立ち上がれない、それだけの余力はもうないと分かっていたから。そうなれば沢山の人間が飢えて死ぬと分かっていたから。個人の願いと領主としての使命。その二つでカイドは沢山の命がかかった後者を選び、そちらを選ぶしかなかった自分を責めながら生きてきた。せめて、この時に愛する人を犠牲にしてライウスを救う選択をした事が、正しかったと言えるように。
その余りに辛い15年の間の1場面がこのお話で。カイドはこの後もずっと、こんな苦しい時間を過ごして来たんだろう……
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狼領主のお嬢様
041話
番外編