rokaさんの投稿一覧

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31 - 40件目/全107件
  1. 評価:5.000 5.0

    ざわつく心の空の色

    説明不能の「心がざわつく」思春期コミック、というのが売り文句だが、このコピーは完璧だと思う。

    漫画の表現として、圧倒的に斬新だ。
    この唯一無二ぶりは、突出している。
    本作と似ている漫画を読んだことがない。
    というか、きっと、無理なのだ。
    例えば、「ドラゴンボール」や「スラムダンク」や「ジョジョの奇妙な冒険」を真似することは出来ても(そのクオリティーは別にして)、この漫画を真似することは、多分、出来ない。
    それほどまでに、突き抜けたオリジナリティーである。

    そして本作は、おそらく私が読んだ全ての漫画の中で、最も説明が困難な作品でもある。
    「どんな漫画なのか」と問われても、私は、答えられない。
    また、「読んでどんな気持ちになったか」と問われても、答えられない。

    悲しみとも、苛立ちとも、怒りとも、切なさとも、歯がゆさとも、違う気がする。
    それでいて、その全てがあるような気もする。
    敢えて言うなら、まさに「心がざわつく」ということになるかと思う。

    もしかしたらそのざわつきは、決して言葉に出来ない想いに囚われながら我々が過ごした、思春期という時代そのものの影なのかもしれない。
    私たちがこの作品の中に見るのは、かつて自らが抱いていた、名前も行き場もない、若い想いの欠片なのかもしれない。
    そういう意味では、これほど克明に「あの時代」を描いた漫画というのは、他にないのではないかと思う。

    そういえば、「あの頃」に私たちが眺めていた心の空は、白にも黒にも染まらないまま、何となく、灰色だったような気がする。

    • 7
  2. 評価:5.000 5.0

    これ以上は、何も

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    前近代的な村に赴任してきた主人公の駐在が、村の人間が人を喰っているのではないかという疑惑を追うサスペンス。

    カニバリズムの異様性が醸し出す不穏な緊張感と、「八つ墓村」的な村の閉鎖性が煽る緊迫感、このダブルパンチがなかなかスリリングで、一気に読ませる。

    絵も、作品との相性はばっちりで、ちょっと劇画の香りを漂わせつつ、抜群の迫力がある。
    特に、登場人物の表情の雄弁さは素晴らしい。
    泥臭く、破壊力があって、しかも、繊細だ。

    主人公の娘が口をきけない理由、布を被った謎の大男(横溝正史の「犬神家の一族」へのオマージュかもしれない)、「後藤家には関わるな」という村の掟の秘密など、ストーリーの随所に魅力的なアイテムが散りばめられており、文字どおり、一部の隙もない。

    また、サスペンスでありながらなかなかドラマチックでもあり、特に、妻と娘を先に村から逃がして自分は村に残ろうとする主人公の決意のシーンは素晴らしい。
    こういうのって、普通だと「いや、逃げたらええですがな」という突っ込みどこなのだが、そういう「お約束」的な文脈を超越した、作品としての気高さに、私は泣いた。

    ストーリーの面で、何と言ってもポイントが高かったのは、あくまで皆「人間」という枠内で作品を編み上げた点だ。
    こういうタイプの作品は、往々にしてゾンビやらのモンスターが怪異の正体になる傾向にあり(別にそれを全否定するつもりもないのだけれど)、正直、途中までは「どうせ村人がゾンビ化しますんやろ?」と思いながら読んでいたのだが、いい意味で、完全に読み誤っていた。
    人を喰う村がある、というだけの設定から、よくぞここまで築き上げたと、手放しで称賛せずにはいられない。

    そして、村人たちの造形も、単なる異常者、ではない。
    時代に取り残された村という小さな世界の中で、また、因習と血脈というある種の呪いの中で、それぞれの村人が死に物狂いで何かを守ろうとしながら生きる姿もまた、私の胸を打った。
    主人公、その家族、村人たち、捜査関係者、その全ての姿を、思いを、真摯に描こうとする、作者の立ち位置が美しい。

    完璧だ。
    私は、サスペンス漫画に、これ以上は何も望めない。

    • 332
  3. 評価:5.000 5.0

    料理漫画界の異端児

    主人公が悪漢である、という漫画は、特別に珍しくもない。
    しかし、それが料理漫画となると話は別だ。

    料理漫画の主人公は、料理を美味しく食べてもらいたい、純粋・素朴・爽やか系のキャラが普通だ、というか、そうであるべきだろ。
    審査員にマジック_マッシュルームを食べさせて幻覚を見せ、謀略によって対戦相手を陥れ、「料理は勝負だ!勝てばいいんだよ!」などと叫ぶ山猿のような面構えの悪漢が主役を張る料理漫画なんて、そうそうあるはずがない。

    何が凄いって、この漫画には、五番町霧子と小此木タカオがいることだ。
    名門料理店の志高き跡継ぎと、料理は素人だが好感度は抜群の好青年。
    普通の料理漫画なら、この二人のどちらかを主人公にする。
    しかし、その二人を蹴散らして、秋山醤(ジャン)、なのである。
    何だよそのチョイス。

    しかし、秋山醤、この異端児が、たまらなく魅力的である。

    それはもちろん、彼が作る料理の抜群のインパクトも理由ではある。
    羊の脳味噌を使った茶碗蒸しだの、鳩の血の卵だの、読んだのは十年以上も前なのに、醤が「魔法」とうそぶいた料理の数々は、今でも鮮明に思い出せる。
    ちなみに、この漫画の料理には、突飛ではあるが、決して出鱈目ではない、と思わせる説得力があり、その点もポイントが高い。

    また、脇役がパリッと立っていることも大きい。
    前述の霧子や小此木もあるが、凄まじいのは蟇目檀や五行道士といった悪役の造形で、彼らの存在によって、醤がきちんとヒーローになれている部分は大きい。
    毒をもって毒を制す。

    そして、賢明な読者であれば、気づく。
    どれほど口と態度と性格が悪くても、醤もまた、料理を愛しているのだ、ということに。
    ただ、例えば霧子とは、その愛し方が違うだけなのだ。
    例えば素行と発言は最悪でも、リアム・ギャラガーが、確かに音楽を愛していたように。

    料理漫画としては完全に異端だが、私は、最も好きな料理漫画である。

    • 3
  4. 評価:5.000 5.0

    異形の傑作

    作品を支えるバックグラウンドの知識量、情報量が圧倒的である。
    考古学、民俗学、宗教学、あと何なのか知らないが、漫画としてはほとんど常軌を逸したレベルだと思う。

    正直、あまりに情報量が多すぎるゆえ、どうしても「文字」に頼った説明が過多になっている感はあり、「漫画」としてはどうなんだ、と感じるところもあった。
    そういう点で言えば、例えば「ギャラリーフェイク」という漫画なんかは、確かな含蓄がありながら、マニアックに走りすぎないバランス感覚があった。
    本作は、違う。
    ひたすらマニアックに、振り切っている。
    しかし、ここまで徹底されると、一種の敬意を込めて、「あり」と認めるしかないとも思った。

    絵の表現は、決してわかりやすい上手さではないが、有無を言わさぬ妙な迫力と説得力があり、作品のトーンには、非常によくマッチしていると思う。

    ずば抜けた含蓄に裏打ちされて、もはや漫画ではない別の何かであるかのような妖気の漂う、異形の傑作。

    • 6
  5. 評価:5.000 5.0

    少年ホラー漫画という発明

    ホラーと相性がいいのは基本的に少女漫画であって、少年漫画ではないと思う。
    いくぶん偏見込みで言えば、おどろおどろしい情念や執着みたいなものは、やはり、女性のほうがよく似合う。
    「幽霊」と聞いてパッと思い浮かべる絵というのは、多くの人が、女性なのではなかろうか。
    そういうことである。

    単純に、絵の問題をとっても、「少年漫画の絵」でホラー、というのは難しい。
    鳥山明や尾田栄一郎や青山剛昌の絵で描かれたホラーなんて、何かピンとこない。
    ちなみに、荒木飛呂彦はピンときすぎて困る。

    だから、この漫画は異色であり、傑作であると思う。
    はっきり言って、「ぬ~べ~」なんか(というのは失礼だが)より怖いホラー漫画や面白いホラー漫画は、腐るほどある。
    しかし、ホラー漫画というジャンルを、少年漫画のフォーマットにこれほど見事に落とし込んだ作品というのは、他になかったのではないか。

    あくまで「少年漫画の絵」であり、極めて典型的な、そして健全な、少年漫画としてのヒーロー像があり、バトルがあり、ギャグがあり、ラブコメがあり、しかし、ギリギリのところでホラー漫画でもあるという、その奇異でとっちらかったバランスは、非常に素晴らしい。

    夢中になれた少年時代の感謝を込めて、星をひとつ足した。

    • 12
  6. 評価:5.000 5.0

    夢の後で

    二十年前、オリジナルの金田一少年が大好きだった。
    あらゆる意味で、私にとって特別な漫画だった。
    漫画のキャラクターの中で、本当に友達のように感じられたのは、金田一君が最初で最後だったんじゃないかと思う。

    本作の中で、金田一君は、私と同じように歳をとっていた。
    かつての金田一ファンからの厳しい声は、もっともであるとも思う。
    「わざわざ37歳にした意義を感じない」、
    「金田一の歳のとり方に魅力がない」、
    「17歳から進歩がない」、
    「17歳ならいいけどこんな37歳は嫌だ」、
    「美雪と結婚していないことに失望した」、
    「金田一の人生に夢がない」、
    そういう批判、全て、理解できる。

    でも、どうだろう。
    37歳になった私たちは、かつて自分が思い描いていたほど、立派な大人になれただろうか。
    野球部のエースはメジャーリーガーとして海を渡っただろうか。
    クラスのマドンナは大女優になっただろうか。
    「いや、漫画なんだから、もっと夢があってもいいじゃん」。
    そうかもしれない。
    しかし、この金田一は、もう少年漫画ではない。
    夢に向かってどう生きるか、という漫画である必要はないと私は思う。
    夢の後をどう生きるか、という漫画であっても、いいのではないか。
    だって、ほとんど全ての人々にとって、「夢の後」の人生の方が、ずっと長いのだから。

    いつの間にか、周囲の期待からも漠然と描いていた夢からも遠く逸れて、私たちはそれでも、あの頃とは別の何かを懸命に守ったり、日々の中から小さな幸福を拾い上げたりしながら、生きているのではなかろうか。
    私には、敏腕探偵にもエリート刑事にもならなかった金田一君が、ブラック企業の中間管理職を務めるクソ面白くもない日常の中で、埋もれたり流されたりしながら、それでも必死にもがいて、懸命に生きようとしているように見えた。
    それは、いつの間にか37歳になった私の姿であり、私たちの姿であるような気がした。

    「もう謎は解きたくない」、あの金田一君がそんなことを言うなんて、余程のことがあったのだろう。
    だが、ある意味では、私たち皆がそうだ。
    二十年の間に、皆、色々あったのだ。
    でも、ともかく、生きている。

    私も、金田一君も、かつて持っていたものの多くを失い、残されているのは、欠片くらいのものかもしれない。
    でも、欠片はまだ、残っている。
    ならば、その欠片が、全てではないか。

    • 260
  7. 評価:5.000 5.0

    優しく楽しい嘘のミステリ

    人の嘘が「聞こえて」しまう能力を持つ少女が、探偵の助手として活躍するストーリー。

    設定だけ聞くと、「嘘を見抜けるなら事件は秒殺で解決だろ」という反則レベルの特殊能力なのだが、そのあたりはなかなか巧妙に練られていて、変則ミステリとして非常に面白い。

    また、嘘がテーマの作品だけあって、作中で描かれる嘘は実に多様で、単に「暴かれるべき悪」としての嘘ばかりでなく、いくつもの優しい嘘、楽しい嘘が、全編を彩る。

    私は絵に関しては門外漢だが、それでも、本作の細やかな美しさと可愛らしさには感心させられた。

    ミステリとしては「甘め」で、本格推理モノ、というわけでは決してないのだけれど、作品の雰囲気にはマッチしていて、ちょうどいい塩梅である。

    いやはや、実に楽しい、嘘の話であった。

    • 70
  8. 評価:5.000 5.0

    反則か、発明か

    ごく短いエピソードの寄せ集め的な漫画、と書くと短編集かと思われるかもしれないが、違う。
    こんなものは「短編」とすら呼べない。
    ストーリーはないに等しく、誤解を恐れずに言えば、ほとんど漫画の体をなしていない。
    反則ギリギリの作品であり、これを受け入れられない読者はたくさんいると思う。

    だが、怖い。

    この作品は、「瞬間」を捉えることに特化している。
    それによって、ホラー漫画として稀有なリアリティーを獲得することに成功している。

    世の中には色んなホラー漫画がある。
    街にゾンビが溢れたり、心霊スポットで貞子ちゃんみたいなのが出てきたり、排他的な村でレザーフェイスみたいなのに襲われたり、何でもいいのだが、いくら作品が魅力的で、それに没入できたとしても、ふと我に返ると、いい大人であれば、誰もが思ってしまう。
    「でもまあ、こんなこと、現実にあるわけないねんけどな」と。

    だが、この作品は、違う。
    ストーリーを放棄しているがゆえに、「何かわけのわからないものが見えた」という「瞬間」だけを描いているがゆえに、「こんなことなら、あるかも」という実に気味の悪いリアリティーを生んでいる。

    ずるいだろ、そんなの。
    一方では、そう思う。
    「反則」と書いたのはそういう意味だ。

    しかし考えてみれば、タイトルからもう、作者はそれを表明している。
    これは「物語」などではなく、あくまで「種」なのだ、と。

    その種は、漫画の中ではなく、私たちの現実の中で芽を出し、日常のふとした瞬間を侵食する。
    私たちは、夕闇の帰り道に、深夜のベランダに、カーテンの隙間に、この漫画で見た、幽霊かどうかも不確かな、何かわけのわからないものの影を見るだろう。

    その仕掛けはほとんど発明と言って然るべきで、ムカつくほど感心した。

    • 10
  9. 評価:5.000 5.0

    見事なホラー/記念

    独特で、異色で、それでいて本格的、という見事なホラーだと思った。

    表題作はパリッと筋の通ったサスペンスホラー、「ゴンベさん」はどこか温かみのあるホラー。
    しかし、私は、何といっても「47C6」が怖かった。

    核の部分で、わけがわからなかったからだ。
    「47C6」は、物語になっているようで、なっていない。
    主人公はある種の「納得」を手にするが、読み手にその納得は届かない。

    ホラーって普通は逆だろう、と思う。
    主人公はわけのわからないものに翻弄され、恐怖する。
    だが、読者である我々は、ホラーを俯瞰の視点で見て、ある部分、納得する。
    主人公にはわからないが、読者にはわかる。
    普通は、だ。
    しかし、「47C6」は、全く逆だ。
    主人公だけが、何かを悟り、そこには達観すら見てとれる。
    読者だけが、わからない。
    だからもう、私はただ、恐怖するしかなかった。
    その、作品から拒絶されたかのような読後感は、絶妙に嫌な引っかかりを残し、そして、不思議と魅力的だった。

    わけがわからないということは、本当に恐ろしい。


    さて、個人的なことで恐縮だが、本日、初めてレビュワーランキングで1位になった。
    とても嬉しかったので、このレビューは、その記念を兼ねる。
    この漫画のレビューは誰も読んでいないかもしれないが、票を入れてくれた方々に感謝する。

    別に、何を成し遂げたわけでもないけれど、今日もそこに素晴らしい漫画があって、嗚呼、何ていい日だろう。

    • 12
  10. 評価:5.000 5.0

    発明としてのパロディ、完璧なカオス

    芥川、漱石、鴎外、太宰など(トルストイやカフカといった海外の作品もある)の著名な文学作品を、ごく短い漫画にまとめた形式の作品。

    もちろん、長編小説(あるいは短編でも)を10ページ程度の漫画に収めることにそもそも無理があるので、一種のパロディとして読むしかないのだが、その目のつけどころというか、漫画としての新しさには感心した。
    これはもう、ひとつの発明だと思う。

    読んだことのある作品については、「確かにこんな話だったな」と懐かしく思い出したり、「そうまとめてきたか」とちょっとした驚きがあったり。
    また、未読の作品については、何となくわかった気になる(本当はわかるわけないんだけど)という、妙な楽しさがあった。

    そして、何が凄いって、絵柄である。
    要するに水木しげるの高レベルな模写なのだが、登場人物だけではなく、背景や描き文字(ジョジョでいうと「ゴゴゴゴ…」みたいなアレ)まで寄せてくる徹底ぶりには度肝を抜かれた。
    私は水木しげるの大ファンなので、もう永遠に読めなくなってしまった彼の新作を読んでいるようで、何やら得をした気分になった次第である。

    クラシックな文学作品の要約されたパロディを、よりによって水木しげるの絵柄で読むというのは、一瞬、自分の居場所がわからなくなるような、ほとんど完璧なカオス体験であり、私は大満足であった。

    • 12

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