4.0
不条理
「欲を出した人間が地獄に落ちる」的な漫画なのかと思っていたが、全く違った。
何の非もない一般ピーポーが、喪黒の悪意によって次々に地獄に落ちる話だった。
何だそりゃ、と思う反面、不条理を描くとはこういうことなんだな、とも思った。
私たちが慣れ親しんだ「昔話」的な勧善懲悪に対する辛辣なアンチテーゼであり、この時代にそれを平気でやっていたことが恐ろしい。
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8
32位 ?
「欲を出した人間が地獄に落ちる」的な漫画なのかと思っていたが、全く違った。
何の非もない一般ピーポーが、喪黒の悪意によって次々に地獄に落ちる話だった。
何だそりゃ、と思う反面、不条理を描くとはこういうことなんだな、とも思った。
私たちが慣れ親しんだ「昔話」的な勧善懲悪に対する辛辣なアンチテーゼであり、この時代にそれを平気でやっていたことが恐ろしい。
昨今流行りの有象無象のサバイバル漫画とは、一線を画すレベルの高さを感じる。
「ルール」はあるものの、よくある「ゲーム」的なタッチではないところに、新鮮さがある。
村に「地獄」が出現する、という設定の大胆さ、「ゾンビ」などではない、和風の異形のもののおぞましさ。
「蜜の島」でも感じたが、この作者は世界観を整えるための描き込みがとても丁寧で好感が持てる。
今後に期待の良質スリラー。
一気に読んでしまった。
原作の利なのだろうが、読ませるパワーがすごい。
恋人の失踪。父の癌が発覚。母の死。
立て続けに起きた不幸の中、見つけた謎のノート。
父は、母は、人殺しなのか?
母だと思っていた人の正体は?
そして、自分自身の正体は?
ノートの内容は、前半はサイコ的な恐怖を感じさせるが、後半は、ミステリとしての面白さをキープしつつも、叙情的な方向に移り変わってゆく。
それは、この作品のテーマそのものとシンクロする。
異常な殺_人者の告白から、異常な愛の物語へ。
このシフトチェンジが素晴らしい。
終盤、主人公の殺_人気質が覚醒し、自らの体に流れるおぞましい血によって、呪わしい運命を辿る、という展開も、ありだった。
でも、母の愛が、それを救った。
過ちから始まった愛。
秘密と偽りのもとに成立していた愛。
人を殺めることで誰かを守ろうとするような愛。
愛を手にする資格など持たないような者の愛。
自らは死に向かうことで、誰かの愛を生かすような、悲しい愛。
それでも、愛は、愛。
ラスト、車で走り去る二人を見送りながら、私は、そんなことを考えていた。
映画でも漫画でも、サバイバル系は、「メインの敵」以外に焦点があると面白い。
そういう意味で、この漫画は成功している。
その1…VS猿。
これがもちろんメインだが、「本当に猿なのか?」という謎もあり、一筋縄ではない。
その2…内部の人間の裏切り。
自分が生き残るために、仲間を売る奴らとの攻防。
その3…内部犯の可能性。
何と内部の人間に猿の仲間がいる可能性あり。
敵が人間ならともかく、猿の仲間??
謎めいた展開。
上手く回収してほしいけど。
その4…「山」の脅威。
舞台が険しい山なので、猿の他に、自然との戦い、という側面もある。
その5…疑心暗鬼からの仲間割れ。
誰も信じられなくなり、登場人物たちが正気を失ってゆく、という王道パターンだが、生命維持に不可欠な「水」の問題を絡めることで、この展開に説得力を与えている。
ということで、なかなか見所の多いサバイバルホラーになっていると思う。
子どもの頃、近所の駄菓子屋で一日早く発売される少年ジャンプを待ち望みながら生きていた頃、自分がどんなふうに漫画にドキドキしていたのかを、ちょっと思い出した。
大人として偉そうに漫画を「評価」するようになるずっと前の、可愛らしい昂りを思い出した。
そういう作品って、貴重だ。
個人的には、絵は全く気にならなかった。
そもそも絵の上手い・下手を論じられる立場に私はいないが、その漫画に「合う絵・合わない絵」は感じることがある。
この作品の場合、少なくとも「合わない絵」ではない気がした。
私があまり読まない種類の漫画だが、結構強烈に引き込まれた。
ストーリーのリアリティーは別にして、主人公の抱える不安や自己嫌悪や、「ここではない世界」に対する漠然とした切望や、木島に対する微妙な感情や、それを「打算」と言い切る潔さや悲しさは、とてもリアルに感じた。
岡崎京子の漫画でワニを飼う話があったと思うけど、カメに餌をやる本作の主人公が「岡崎」なのは、オマージュなのかな。
あと、タイトルが素晴らしい。
スタートで「こういう話かな」と思っていたのを、いい意味で、かなり裏切られた。
「フロム・ダスク・ティル・ドーン」というジャンル崩壊映画があるが、それをちょっと思い出した。
この手の作品は、ジャンルの切り替えが上手く決まらないと「何やねん」という悲惨な出来になるが、なかなかバシッと決まっていたと思う。
また、基本的にはリアリティーもクソもない話だが、主人公のキモい男の「最底辺だけは嫌だ」という信条は、その是非はともかく、現代の価値観としてなかなかリアリティーがあったし、何より、漫画の主人公の価値観として新しさを感じた。
個人的には、「僕たちがやりました」のトビオの「普通でいい」という価値観と双璧である。
そして、この魅力もクソもない主人公でどうすんだよと思いきや、人間に対する観察眼の鋭さや、常人離れした嗅覚という設定を巧みに生かして、意外とカッコよく見せた手腕は、見事と言う他にない。
惜しむらくは、まあ、表紙がひどい。
同じ「裏社会」モノということで、「闇金ウシジマくん」と比較されることがあるが、全く違う。
ウシジマくんは、徹底的に私情を捨てて生きている。
一方、本作の「ヒーロー」二人は、究極的に私情に走って生きている。
どちらがいいとか、面白いとか、そういうことではない。
ただ、私情に生きる二人の方が、いくぶん人間的であるし、また、弱い。
私情に生きる人間は、真に冷酷にはなり得ないからだ。
ウシジマくんを読んだときは、私情を捨てることこそが、この主人公が現代を生き抜くために身につけた必死の手段なのだと思い、胸が熱くなった。
そして、少し、悲しくなった。
「外道の歌」の二人は、時代性とは無縁の、ある意味では古典的な営みを送り続けている。
その愚直さに、胸が熱くなった。
そして、少し、悲しくなった。
ブラック企業の会社員と、かまってほしい幽霊の漫談的なコメディ。
一貫して「それどころじゃない」という主人公のスタンスがいい。
一般的なホラー作品では、幽霊が出てくることが一大イベントで、そのイベントを中心に作品が回る。
でも、「この書類を上げるまでは、幽霊どころじゃない」というのは、現実的には、結構あり得る状況だと思う。
そういう意味で、「普通の」ホラーの「お約束」に対するアンチ・テーゼみたいな漫画でもあるし、幽霊すら優先できない日本の企業社会ぶりに対する風刺みたいな漫画でもあって、なかなか含蓄は深いと思う。
おぞましい世界観は非常に丁寧に作り込まれていた。
不穏でおどろおどろしい土着的な日本の「村」の舞台を、ダークファンタジーのフォーマットに綺麗に落とし込んでいると感じた。
それだけに、終盤の失速と唐突な閉幕はひどく残念だ。
伏線も回収されぬまま、いくつもの謎を残したまま。
作品は途端に力を失い、地面に崩れ落ちてしまった。
まるで、糸の切れた操り人形のように。
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笑ゥせぇるすまん