小新井涼のアニメ考:最終回 10年で大きく変わったアニメ界
配信日:2024/12/18 20:30
週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴し、アニメを使った町おこしのアドバイザーなども務めるアニメコラムニストの小新井涼さんのコラム「小新井涼のアニメ考」が約10年の歴史に幕を閉じる。最終回の今回は10年間のアニメ界の流れと同コラムの歩みを振り返ってもらった。
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2014年に開始し、毎月連載させていただいていたこのアニメコラムですが、今回で最終回を迎えることになりました。約10年強に渡り、アニメ関連の話題に触れてきた当コラム。最終回を機に、これまでの歩みや印象に残っている出来事などを、改めて振り返ってみたいと思います。いつもより自語りも多くなっておりますが、どうかお付き合いいただけましたら幸いです。
当コラムの歩みを振り返ると、連載開始からしばらくは、コスプレや2.5次元作品といった、当時はまだ今程一般的ではなかったアニメ関連の文化を、それらにあまり触れたことの無い人達にも向けて、自身の経験を基に紹介することが多かったように思います。これはアニメファンだけでなく、ポップカルチャー全般に興味のある幅広い読者層を持つ、MANTANWEBさんでの連載だからこそできた切り口でした。
その後、アニメを取り巻く世間の環境が大きく変わるとともに、コラムの方向性も変化していったのは、間違いなく2020年前後に生じた「鬼滅の刃」の社会的なブームやコロナ禍でのビデオ配信サービスの普及後のことです。実際にそれ以降は、あまり知られていないディープなアニメ文化を紹介するというよりも、次々と生じるアニメ関連の社会的な盛り上がりを解説することが増えていきました。
しかしそうした近年の社会現象というのも、何の前兆もなく突然生じるものではありません。解説を行う際には、当コラムで2010年代から継続的にアニメ関連の話題を観察してきたことによる積み重ねが、その要因や背景を考える上でもかなり活かされてきました。
そうして10年以上続けさせていただいた当コラムですが、私事ながら実は生まれて初めて連載を持たせていただいた場所だったのもあり、コラム執筆のノウハウについても、連載開始時からずっと担当していただいた編集長から沢山のことを学ばせていただきました。
中でも特に印象に残り、今でも個人的に執筆の指針としているのが、“誰か一人を悪者にしない”という執筆の方向性です。例えば、何かアニメ関連で争いや対立が起きた際に、人々の怒りや悲しみを扇動し、原因とされる個人や対立のどちらか一方を名指しでさらし上げ、怒りに任せて責め立てるのは簡単ですし、ネットではそういう記事の方が数字を取れることもあります。しかしそうした際に、誰か一人や一方だけを悪者にするのではなく、一歩ひいて、対立するそれぞれの立場や意見から、その事件や争いの全貌を捉えて文章化することもできるのだと、この連載を通して学ぶことができました。
きれいごとのように言われてしまえばそれまでですが、炎上やネット上での論争も絶えない今だからこそ、こうした見方は、そもそもアニメの楽しさを伝えることを原点としている自身のコラム執筆時の指針として、今後も大切にしていきたいと思っています。
そんな当コラムの一番の特色としては、筆者の年代・性別から、この10年強のアニメ界を見つめ続けてきたアニメコラムは他に無かったという点があげられるかもしれません。実際に、初期の内容を振り返ってみると、“隠れオタク”という今ではめっきり使われなくなった言葉や、“今後はソシャゲ原作のアニメが増えていくかも”といった今では当たり前となった現象も、当時のリアルタイムの記録として残っていました。こうした記録は、筆者の独断と偏見は大いに混じっているものの、2010年以降のちょっとしたアニメ史として、手前味噌ながらそれなりに資料価値もあるのではないかと思っています。いつかチャンスがあったら、改めて編纂のうえ書籍化などが出来たらいいなと密かに思っているのですが…編集長いかがでしょうか。
なんにせよ、そうして10年以上アニメ関連の出来事をみつめ、記録を残してくることが出来たのは、なによりも連載の場をくださったMANTANWEBさんや編集長、そのご縁をくださった皆様、そしてコラムを読んでくださった方々と大好きなアニメのおかげです。この場を借りて、心より御礼申し上げます。これまで本当にありがとうございました。自分はきっとこの先も、変わらずアニメコラムを執筆し続けていくので、またどこかでお会いできることを心から願っています。
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こあらい・りょう=KDエンタテインメント所属、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約10年前から継続しつつ、学術的な観点からもアニメについて考察・研究し、大学や専門学校の教壇にも立つ。アニメコラムの連載をする傍ら、番組コメンテーターやアニメ情報の監修で番組制作にも参加している。
提供元:MANTANWEB