刃牙道:「予想を裏切り期待に応える」 板垣恵介の真髄 アニメ化のキモは“足の踏み込み” 監督、プロデューサー、宣伝部長インタビュー

配信日:2026/07/19 8:01

アニメ「刃牙道」の一場面(C)板垣恵介(秋田書店)/刃牙道製作委員会
アニメ「刃牙道」の一場面(C)板垣恵介(秋田書店)/刃牙道製作委員会

 板垣恵介さんの格闘マンガ「刃牙」シリーズの第4部が原作のアニメ「刃牙道」。第1、2クールがNetflixで世界独占配信中で、第1クールが7月5日からTOKYO MXほかで放送されている。“地上最強の親子喧嘩(げんか)”が幕を閉じ、刃牙をはじめ、歴戦のファイターたちが耐え難い退屈に襲われる一方、その裏では東京スカイツリーの地下366メートル、剣豪・宮本武蔵を現代によみがえらせるという計画が進み、宮本武蔵と刃牙たちの激闘が描かれる。伝説の剣豪と現代の最強の格闘家による異次元のドリームマッチは、いかにアニメ化されたのだろうか。平野俊貴監督、アニメを手掛けるトムス・エンタテインメントの綿引圭プロデューサー、原作を刊行する秋田書店の横井佑来宣伝部長に制作の裏側を聞いた。

 ◇人間味のある宮本武蔵

 --「刃牙道」の原作の連載が始まったとき、宮本武蔵が現代によみがえるという予想外の展開も話題になりました。

 横井さん 僕は長らく板垣先生を担当させていただいていて、「刃牙道」は立ち上げのタイミングの担当でした。(愚地)独歩が空手の技として「手刀」などと言っているけど、宮本武蔵が聞いたらクスクス笑っちゃうだろうな、宮本武蔵と対峙することで物語が動きそうと言っていたところからスタートした物語でした。「範馬刃牙」の「地上最強の親子喧嘩編」の打ち合わせのときに先生から宮本武蔵の話があったんです。「範馬刃牙」が終わってから1年ほど空きがあり、その期間は別の作品を描いていて、「そろそろ描くか」という言葉をいただき、「刃牙道」が始まったと記憶しています。最初に聞いたとき、宮本武蔵ですか!?と驚くというよりも自然に入っていった感じだったんです。宮本武蔵は最強の象徴として紹介されることもありますし、先生としても「いつか描きたい」という気持ちがあったと聞いています。

 綿引さん 先生のあくなき想像力、発想の豊かさのすごさを感じますよね。原作が始まったとき、ちょうどアニメ「バキ」を作っていました。

 平野監督 「バキ」のアニメ制作が始まっていて、先を読むといろいろと変な色気が出てくるので、あえて先は読まないようにしていました。宮本武蔵と戦っていると聞いて、何!?となって、チラッと見たのですが、先生の絵のタッチもこれまでとアプローチが違う気がして、混乱するので読むのをやめました。そのときは、そこまでアニメをやるとは想像もしていませんでしたし。実際に読んで、どうしよう!?となりました(笑)。剣豪や刀をアニメで描くのはしんどいんです。止めが多いアニメですけど、しっかり見せるシーンも結構あります。めちゃくちゃなチャンバラではなく、腰を落としたアクションで、腰のタメなどもしっかり描かれています。これはまた大変だな……と。

 --宮本武蔵をアニメでどう表現しようとした?

 平野監督 原作に描かれていることをきちんと映像化することが前提としてあって、付け足しは一切していません。やっていて非常に面白いキャラだと思います。現代社会になじんでいるようでなじんでいない(笑)。キャラクターデザインもそうですし、色は結構こだわりました。最初は目が違う色だったんだけど、人間離れした感じが出ないので、目の色を変えたり、肌の色にもこだわりました。あとは、原作のポーズをうまく動かすことです。「範馬刃牙」の頃からずっとやっているので、間を埋めていく蓄積みたいなものもあるので、その中でやっています。

 横井さん 監督がおっしゃったように、浮世離れしているところもそうですが、先生自身がこれまでの宮本武蔵像みたいなものに対して、こんなはずではないというこだわりが現れています。キャラクターを作るとき、先生は姓名判断をするんです。宮本武蔵は、“求道的”なキャラクターとして描かれることも多いけど「そんなはずない」という気持ちがあったようです。もっと人間的でワガママで何でもほしがり、人間っぽい部分をしっかりと出していきたい。アニメになり、内田直哉さんの声が付くことで、すごく人間味が出ています。先生が思い描いている宮本武蔵がしっかり映像になっていると感じました。

 綿引さん 生まれたてのときは、端正な顔ですが、狂気性や人間性を帯びた顔になっていく。そこは大切に描かなければいけないと思っていました。内田さんの声で「出世したいのだ!!!」というセリフを言ったときに、本当にそうなんだなとも感じました。内側から本当にそうなりたいというのが自然に出ていて、改めて内田さんにやっていただいてよかったなと思っています。

 平野監督 宮本武蔵役は、内田さん以外の名前も出たこともあったけど、ぐるっと回って内田さんに戻った。僕は非常にうれしかった。内田さんの武蔵が正解だと思っていましたし。

 横井さん 内田さんの醸し出す恐怖感というかオーラのようなものがすごくフィットしていますが、武蔵はチャーミングなところもあるので、お会いするまでは想像できていなかったのですが、最初の収録の時にスタッフ一同で、「武蔵だ!」となって。今となっては、内田さん以外は考えられない。

 平野監督 アニメ「刃牙」シリーズはそういう声優さんが多いんですよね。

 --古谷徹さんのナレーションも欠かせません。

 平野監督 最初から僕の中で古谷さんならいけるという思いがありました。

 綿引さん 作品の顔になってますよね。聞けば「刃牙」っぽいとなる。「最凶死刑囚編」から作品に色を付けていただきました。

 ◇“間”を大切に

 --宮本武蔵は独特のテンポ感で存在しているキャラクターです。アニメ「刃牙」シリーズはキャラクターの“間”も大きな魅力になっています。

 平野監督 「刃牙道」に限らず、セリフの間が大切になってきます。尺の中でペロッとセリフが入るのではない。(声優が)素晴らしい芝居をしてくれるので、安心しています。編集にもこだわっています。それをやらない限り、自分のいる価値がないと思っています。そこをこだわっているから面白くなるという自負があるので、間を褒めていただくことは僕にとってすごくうれしいです。

 --アニメ化するのが難しい作品なのでは?

 平野監督 「原作通りだから楽だよな」と言われることもあるんですけどね(笑)。なかなか伝わらないのですが、これはこれで大変なんですよ。マンガのコマをそのままポンと入れられるわけじゃない、フレームがあるし、間をつなげるのが大変なんです。パズルとよく言うのですが、パズルを解くようなんです。絵コンテでも足の踏み込みを外す人がいるのですが、これは絶対に外せない。足の踏み込みはかなり意識しています。

 綿引さん もちろん足以外もいろいろあるのですが、これを外すと軽くなるんです。

 横井さん 先生はカタルシスを大事にしている。溜めて溜めて、解放された瞬間が一番気持ちいい。マンガでは“めくり”といって、グッと体をねじり、めくるとパンチの軌道を描く人もいますが、先生はめくったらボガーン!と当たってるシーンを描く。踏み込みのタメは、これがあって次のアクションになるので、そこがなくなると軽くなるのはその通りだと思います。

 平野監督 最初からそこを大切にしていて、その後もいろいろやってきたけど、結局は変わらずやっているんです。

 --キャラクターの造形、描き込みも唯一無二の作品です。

 平野監督 頑張って動かしてはいるけど、満遍なく動かすのは難しい。1話の中で見せ場をしっかり作ろうとしています。カロリーが高いんです。今の時代とは逆行しているけど、影も多いので。

 横井さん 先生は作画に掛けている時間がかなり長いですし、スタッフさんの数も圧倒的です。アニメでもデザインを監修していただいていて、「この筋肉の線の意味は……」とすり合わせました。

 綿引さん 「拳の力が強い人は手首が細いわけがない」「尻の筋肉は足にも関係しているので、盛り上がっていないといけない」と細かく説明していただき、そもそも「刃牙」が大好きでしたが、より理解が深まったところがありました。

 横井さん 先生は“筋肉スクラップ”を作っていますからね。ボディービル雑誌などを切り抜いていて、大臀筋や広背筋などのインデックスがあり、この部位を描くときは……と調べる。机の下には解剖図がありますし。

 綿引さん 体の部位のアップも多いですよね。アニメで漫然と描くと、ペタッとしてしまうので、迫力を持たせなければいけません。アニメーターさんの力量も問われる。CGを使ったり、チャレンジしたこともあったけど。

 平野監督 CGでもできるかもしれないけど、僕は昭和の人間だから、結局は手描きになる。

 ◇本部はもっと強かったはず…

 --第2クールで特に力を入れたところは?

 平野監督 全てに力を入れていますが、個人的な趣味だと花山薫が好きなので、花山対武蔵のところは特に力を入れています。昭和なキャラが好きなので(笑)。

 綿引さん 本部以蔵も愚地克巳も好きです。努力しながら成長していくので、アニメで見ていても楽しい。

 平野監督 (本部役の)屋良有作さんの芝居もすごくいいんですよ。

 --第2クールは、本部の活躍も見どころです。

 横井さん 先生も「範馬刃牙」の頃から、過小評価を与えてしまったキャラクターをもう一度持ち上げることが増え始めたんです。先生の中でキャラクター同士のぶつかり合いでどうしても弱かったり、馬鹿にされるキャラクターが生まれることがあるのですが、「ピクル編」の克巳や「刃牙道」では本部はもっと強かったはず……と持ち上げられたんです。

 --週刊連載を長く続けていることもあり、ドライブ感で描いているところもある?

 横井さん そうですね。たくさん打ち合わせをして、決めて作るということはしていません。先生は「カメラを持ってこの世界に降りていく」ともおっしゃっています。どこにカメラを向けるかを打ち合わせで決めている。先生の中に「刃牙」シリーズの世界が存在し、キャラクターが生きていて、そこにカメラを向ける。先生の頭の中はすごいことになっていて、想像できないですけど。

 --いい意味で裏切られる展開も魅力です。

 横井さん 創作において大事なのは「予想を裏切り期待に応える」ともおっしゃっています。読者の予想は裏切ることもあるけど、こうなってほしいという願望がハマったときに気持ちいい。本部を持ち上げるのも予想を裏切った展開だったけど、期待に応えています。

 アニメ「刃牙道」は、原作の圧倒的な熱量を一切の妥協なくアニメへと昇華させた。「予想を裏切り期待に応える」という板垣さんの真髄が、映像の端々からヒシヒシと伝わってくるはずだ。異次元のドリームマッチからあふれ出る“熱”を、ぜひ全身で感じてほしい。(阿仁間満/MANTANWEB)

提供元:MANTANWEB

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