さよならララ:人魚姫が琵琶湖によみがえる 斬新なオリジナルアニメ誕生の裏側 「インスタントに消費できるアニメは作りたくなかった」 小出卓史監督インタビュー

配信日:2026/07/11 10:01

アニメ「さよならララ」の一場面(C)キネマシトラス/「さよならララ」製作委員会
アニメ「さよならララ」の一場面(C)キネマシトラス/「さよならララ」製作委員会

 キネマシトラスの15周年記念作品となるオリジナルテレビアニメ「さよならララ」が、7月5日から毎週日曜深夜0時半からTOKYO MXほかで放送されている。童話「人魚姫」を題材としたアニメで、人魚姫ララが200年のときを経て、現代の琵琶湖によみがえる。監督を務めるのは、本作が初監督作品となる滋賀県出身の小出卓史さんだ。「人魚姫」「琵琶湖」という斬新な設定のアニメはどのように生まれたのだろうか。小出監督に聞いた。

 ◇自分の人生に関係ある作品を作りたかった

 小出監督にとって「さよならララ」は念願の初監督作品となった。

 「私はキネマシトラスの生え抜きで、アニメーターになったときから十数年ずっと仕事をしてきました。『監督をやりたい』と入ってきたので、いつかという思いがありました。この作品の前に携わっていた作品が終わったタイミングが2021年の夏頃でした。当時のキネマシトラスの社長で創業者の小笠原(宗紀)さんから『監督やってみないか』という誘いを受けたのがきっかけです。そのときは自分と、キャラクターデザインの谷(紫織)さん、それから別作品で制作やプロデューサーだった森山(菜月)さんが一緒に呼ばれました。『原作でもいいし、オリジナルでもいい』という話で、すぐに『オリジナルをやりたいです』と言ったのが始まりでした」

 初監督作品にしてオリジナルアニメというのはリスクも高いはずだが、あえて挑戦しようとした。

 「アニメ業界でオリジナル作品を作るチャンスはなかなかないんです。さらにいうと、初監督でオリジナルをいきなりできることもない。不安ではあったのですが、原作があると作れないような映像の作り方やストーリーがあると思っていて、以前より自分で世界観を作ったり、映像やストーリーの方針を決めたりしてみたかったんです」

 「人魚姫」がモチーフのアニメはあっても、琵琶湖に人魚姫がよみがえるという設定が斬新だ。

 「地方を舞台とするのは、そんなに斬新なアイデアでもないと思っていて、素朴に地方を選んだところもあります。東京を出せば、しっくりくる方もいるかもしれませんが、自分はあまりしっくりこなかった。滋賀県が自分の地元ですしね(笑)。いわゆるご当地アニメは、観光地を出して、一緒に地方創生をしようという話になってきますが、そういうものを描きたかったわけではなく、地方の空気感を作品に取り込みたかったという気持ちのほうが強いと思います。それに『自分の人生に関係ある作品』を作りたかった。自分の実感のある場所を出したくなったんです」

 ◇タイトルが一番の核

 「人魚姫」は古典であり、これまで数々の映像作品が制作されてきた。古典を令和の時代にアニメとして表現する意義をどのように考えているのだろうか。

 「『人魚姫』は古典ではありますが、ストーリーの細かいところを覚えている人はそんなに多くはないと思っています。細かいことは知らないけど、なんとなく知っている。そういう作品には“強さ”があると思っています。作品は常にその時代背景とセットになってるからこそ、現代の人にとっても意味のあるものになってほしいなと思っていますし、著者であるアンデルセンも含めて作品に敬意を持って作っています。作品の大事なところやヒントは『人魚姫』の中にあるので、何度も参照して作った作品ですね。人間と人魚の境界を描く作品である『人魚姫』ですが、その境界を越えられない作品でもあることを、今回の『さよならララ』ではどう描けばいいかと考えていました」

 「さよならララ」というタイトルも意味深で、さまざまな解釈ができる。このタイトルが重要な意味を持つという。

 「まだ、第1話が放送されたばかりなので、言葉を選びながらになりますが、『さよならララ』というタイトルが一番の核です。ララを追い続けること。そこに視点を置きながら、皆さんこのアニメを見ていただけるとうれしいです。『人魚姫』のアニメを制作することと決めてから、例えば主人公の名前がララで、『さよならララ』というタイトルはどうだろうかと早い段階から考えていました。構成会議に入る前、企画書ができる少し前に決まっていたんです。その後にタイトル会議もやった上で、結局『さよならララ』になりました。オリジナルを作るうえでタイトルやキャラクターの名前は重要ですが、そこから始まった以上、元に戻ってくるのは必然だったのかなと、結果的には思います。具体的なラストを見据えたのではなく、抽象的に生まれてきたものだからこそ、付けたかったタイトルが最初に出てきていたのかもしれません」

 ◇どこか懐かしいルックはなぜ生まれた?

 放送前に映像が公開されると、1980、90年代のセルアニメ風のどこか懐かしいルックも話題になった。

 「初めから懐かしいアニメを作ろうとしたわけではないんです。ずっと一緒に仕事をしているキャラクターデザインの谷さんとは『線や色が強いアニメを作りたい』という話をずっとして。副監督や演出をする中で、撮影さんや色彩さんと『色をしっかり設計する。色をしっかり出すことは重要ですよね』と話をしていたところにも起因しています。色を抑えめに作って、撮影で色を調整するやり方があって、それはある種、アニメのワークフローでは、直しやすい、リテークで色を変えやすいという利点があります。一方、最初からキャラクターの色をしっかり出すと、撮影で調整しづらかったりもしますが、その分“強い色”が出せたりします。色の設計が強いアニメには、そういうやり方でしか出せないパワーがあると、個人的には考えています。そうした中で、大変ではありますが、線と色を強調するやり方を選びました。その結果、昔のセルアニメっぽくなったところもありました」

 オリジナルアニメということで小出監督にとって挑戦ばかりの作品となった。

 「オリジナルアニメといってもさまざまな作品があって、例えば『有名な脚本家さんでやります』『スポンサーの玩具を売りたい』など前提があることもあります。『さよならララ』は全然そうではなくて、完全にゼロベースなんです。ゼロから企画書を作っています。なかなかないことです。それが大変で、企画だけで1年半を浪費しました(笑)。ライターの川原(杏奈)さんに参加していただくまでに1年半から2年かかっていますから。『これを売りたい』『このマーケットを作りたい』という狙いがあると、現場論としてアニメを作りやすい上に、宣伝もしやすい。でも、インスタントに消費できるアニメは作りたくなかったんです。僕らのアニメは、キャッチのさせ方も難しいし、どんなイメージにも受け取れる可能性があります。しかし、視聴者であるお客さんたちに一つ、お願いしたいことがあるとしたら、座ってゆっくり見ていただきたいです」

 若手クリエーターによる“完全にゼロベース”のアニメということもあり、試行錯誤の連続でもあった。

 「監督は何だってできるんですよね。アニメのワークフローの中でも一番多種多様なことができ、仕事を選ぶことができるのが監督だと思います。全話の絵コンテを描く監督もいたり、絵コンテを描かない監督もいたり、アフレコ、ダビングや脚本会議にしかいかない監督もいたり……とさまざまです。だからこそ、監督としてどこまでコントロールして、どこまで持っていけば作品に効果があるのかは、ずっと悩み続けました。答えは自分の中ではありましたが、答えがあっても、やってみたらこの答えは違ったな……ということも多かった。例えば、さまざまなカットを1カット単位でチェックしますが、場合によっては、一つのカットを頑張ってもしょうがなかったなと感じたり……。そういう悩みは、自分のキャリアの無さから生じるものなんだと思いますが、とにかくがむしゃらに作りました」

 「さよならララ」は、キネマシトラスの設立15周年記念作品でもある。キネマシトラスは、「メイドインアビス」「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」「盾の勇者の成り上がり」「わたしの幸せな結婚」など数々の話題作を送り出してきた。キネマシトラスでキャリアをスタートした小出監督はその魅力をどのように感じているのだろうか?

 「最初は15周年記念作品というわけではなかったのですが、結果的にそういうことになりました。自分で言って、その枕詞を付けてもらったんですけどね(笑)。キネマシトラスは、当時社長だった小笠原さんたちが小さなスタジオを始めて、人が増えていって、常時2、3作品を動かすような大きなスタジオの一つになりました。今、どこのスタジオも内製化を進めたり、自分たちの会社の色を出そうとしていますが、キネマシトラスもそうです。そして、それもまだ始まったばかり。まだ15年ですからね。いろいろな作品を作っていき、また変化していくでしょうし、今は過渡期なのかもしれません」

 ゼロベースでスタートした「さよならララ」もまた毛色が違う作品なのかもしれない。「第1話でララを0歳から描いており、これからのララの人生を見てほしいなという思いで作っています。次週からもララがどうなっていくか、ぜひ楽しみに見てほしいです」と話す小出監督。「ララを追い続けること」が、この作品を見る上での大切な視点なのかもしれない。ゼロベースから生まれた人魚姫の物語は、これからどんな物語をたどっていくのだろうか。(阿仁間満/MANTANWEB)

提供元:MANTANWEB

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