芦田愛菜:体当たりで表現した“叫び” 「こんな声も出るんだ」 「果てしなきスカーレット」インタビュー
配信日:2025/11/20 7:01
「時をかける少女」「サマーウォーズ」などで知られる細田守監督の最新作となる長編アニメーション作品「果てしなきスカーレット」が、11月21日に公開される。同作のテーマは「復讐」「生と死」。主人公の王女・スカーレットは、国王である父を殺した敵(かたき)への復讐に失敗するも《死者の国》で再び宿敵に復讐を果たそうとする。主人公・スカーレットの声優を務めるのが、俳優の芦田愛菜さんだ。芦田さんは「今まで演じた役の中で一番苦悩が強い」というスカーレットにどのように向き合ったのか。収録の裏側や作品への思いを聞いた。
◇復讐に燃える王女を「演じてみたい」 強さともろさ
「果てしなきスカーレット」は、細田監督が原作、脚本を手掛ける。舞台は中世で、復讐に燃える王女が《死者の国》を旅する……という世界観は、これまでの細田監督作品とはかなり毛色が違い、制作発表当初から話題を集めた。芦田さんも最初にシナリオを読み、「すごく新しい細田監督の作品」と感じたという。
「復讐であったり、すごくダークな人間の心が描かれる作品だと思いました。でも、それは、ネガティブだからこそすごく強い感情で、人間の原動力にもなる。私はそういう感情にひかれるところがあるので、スカーレットという役を演じてみたいと思いました。監督が込められている作品へのメッセージもとても深くて、それをうまく表現できるか不安もあったのですが、一緒に作らせていただきたいなと思いました」
スカーレットは中世デンマークの19歳の王女。現在21歳の芦田さんとは年齢も近い。演じる上では、まず細田監督と「スカーレットに近づいていくためのお話を最初はよくさせていただきました」と振り返る。
「スカーレットは、中世を生きる19歳で、現代を生きている19歳とは取り巻く環境が違い、王女としての自覚や覚悟もある、というようなお話をいただきました。そこで、中世を生きたエリザベス1世やジャンヌ・ダルクの本や作品を見て、イメージを膨らませることが最初の一歩でした」
エリザベス1世やジャンヌ・ダルクの作品に触れ、芦田さんが感じたのは彼女たちの二面性だった。
「彼女たちは背負っているものがとても大きくて、『強く見せなきゃいけない』『強くあらなきゃいけない』と思っていたのかなと想像したのですが、そこがすごくスカーレットと重なる部分だと思いました。それと同時に、19歳の私と同世代の少女らしさやもろさ、誰かに甘えたい気持ちも、きっと人間として持っている気持ちなのかなとも感じたので、その二面性をうまく表現できたらいいなと思いました」
◇これまで演じたことがない深い苦悩 吹っ切れた瞬間
今作は、細田監督作品初の試みとなるプレスコアリング(プレスコ)という手法で制作された。声を先に収録し、その声に対してアニメを制作していく手法で、芦田さんは一人で収録に臨むことになった。スカーレットを演じる中では難しさを感じ、悩むこともあったという。
「スカーレットは、今まで演じた役の中で一番苦悩が強いというか。すごく苦しんで悩んでというその思いは、演じたことがないくらい深いものだったので、どこまでスカーレットの気持ちに落とし込んでいけるかというのは、すごく難しかったし、悩む部分でした」
そんな芦田さんが「吹っ切れた」のは、スカーレットが《死者の国》で嘔吐してしまうシーンだったという。
「あのシーンで、普段は出さないような声を出して、吹っ切れたというか、スカーレットのいる厳しい世界に近づけたような気がして。そこから『もう体当たりでやってみよう』と。スカーレットも、向かってくることにすごく体当たりで、土壇場でなんとか生きていくような役なので、そこが重なってスカーレットに気持ちを近づけやすくなりました」
収録で特に挑戦となったのは、叫ぶシーン。スカーレットは父の死に絶望し、復讐に怒りを燃やし、《死者の国》では屈強な男たちと格闘するなど叫ぶシーンが多い。
「それぞれ感情が違う叫びで、それは悲しみの叫びなのか、迷いの叫びなのかと。多分スカーレットは叫びたい気持ちも持っていて、すごく追い詰められたギリギリの声もあって、どう演じ分けたらいいのかなと、すごく難しかったです。アクションシーンでは、実際に体を動かしてみてやってみることもあって。そのせいか、使わない筋肉を使って翌日筋肉痛になったりもしました」
◇“聖”岡田将生の優しさを隣で感じて
プレスコの後、《死者の国》でスカーレットと共に旅をする現代の日本人看護師・聖役の岡田将生さんと共にアフレコをする機会もあった。
「スカーレットと聖はすごく対照的で、スカーレットは現実主義で、戦うことで自分を奮い立たせている一方で、聖は理想主義者で、平和を求めて、戦いをやめてほしいという思いを持っています。スカーレットの強さと聖の優しさの対比は、岡田さんと一緒にやらせていただくことで、より意識しました。掛け合いの中で両極端な二人がすごく浮かび上がってくるように感じました」
芦田さんは、「本当に岡田さんが聖にぴったりで、重なって見えた」といい、「聖の優しさを隣で感じることによって、私もそれに反発するようなスカーレットの声はどう出せばいいだろう?と想像しやすくなりました」と語る。
聖は、スカーレットに成長、変化のきっかけを与えるキャラクターでもある。芦田さんは聖の「死ぬのに慣れて麻痺(まひ)したら、きっと大切な何かを失う」というセリフが印象に残っているという。
「聖は看護師さんなので、人の不幸に立ち会うことも多くて、それに慣れていったら……というセリフなのですが、同時にいろいろな人の心の部分にも通じると感じました。心が傷つくことに慣れてしまったり、あるいは慣らす、自己防衛のために心を閉ざしてしまうと、人の温かい心の部分もなくしてしまうような気がする、という言葉にも取れるような気がして、すごく印象に残っています。現代世界にもすごく通ずるセリフや思いのある作品だなと感じました」
◇スカーレットの歌に込めたもの
芦田さんが体当たりで挑んだ「果てしなきスカーレット」。スカーレットたちキャラクターから「教えてもらった」ことも多いという。
「生きること、愛について、自分はどう思うんだろう?とすごくたくさん考えさせてくれる作品だったので、スカーレットたちから教えてもらうこともたくさんありました。演技の面では、事前に家で練習して、想像していくのも大事だけど、体当たりでやってみないとできないこともあるということをすごく感じました。実際にブースの中でやってみて『自分はこんな声も出るんだ』と思うこともありました」
今作では、芦田さんがエンディングテーマ「果てしなき」をスカーレットとして歌っていることも話題になっている。
「スカーレットの気持ちで歌わせていただきました。歌って、言葉では言えない本音みたいな部分が現れるのかなということを意識していて、すごくりりしさのあるスカーレットですが、そうではなくて、彼女の真の部分にある繊細さ、優しさがにじみ出るように歌えたらいいなと思いました。本当にすごく優しい歌なので、最後まで見終わっていただいた後にあの歌が流れることによって、中世のヨーロッパから未来へ思いをはせていくというか。少しずつ、自分たちの今生きている現代、そして自分が生きていく未来に思いをはせていけるような楽曲なのではないかなと思います」
芦田さんは「《死者の国》という現代とはかけ離れた世界観に見えると思いますが、その中には今を生きている私たちにもどこか通ずるものがあって、心に残るセリフ、シーンがあるんじゃないかなと思います。未来への希望、光を見いだしていただけるような、そんな気持ちになっていただけたら」と思いを込めた。
提供元:MANTANWEB











