松坂桃李&染谷将太:「ひゃくえむ。」インタビュー “100m”に全てを懸ける男たちに共感 「緊張を楽しめるようになりたい」 作品の中で“生きる”ために
配信日:2025/09/20 8:01

テレビアニメ化もされた「チ。 -地球の運動について-」で知られる魚豊さんの連載デビュー作が原作の劇場版アニメ「ひゃくえむ。」が、9月19日に公開された。陸上100メートル競技を題材にした作品で、“100m”というたった10秒の一瞬の輝きに魅せられ、全てを懸ける者たちの狂気と情熱が描かれる。同作の2人の主人公で、生まれつき足の速い“才能型”のトガシと、トガシとの出会いから100m走にのめり込んでいく“努力型”の小宮の声優を務めるのが、俳優の松坂桃李さんと染谷将太さんだ。2011年公開の映画「アントキノイノチ」以来、約14年ぶりの共演となる2人に作品への思い、収録の裏側を聞いた。
◇なぜこれほど共感、共鳴してしまうのか 「ひゃくえむ。」の魅力
--原作の印象や、魅力を感じたところは?
松坂さん 僕はこのお話をいただいてから「ひゃくえむ。」を初めて読んだのですが、「なんでこんな面白いものをもっと早く読まなかったんだろう」と思いました。でも、逆にこのタイミングで読めたからこそ「これ面白い!」という熱量のままいけたので、それはそれでよかったかなと思います。自分は100メートルのスプリンターの経験がないのに、なぜこれほど登場人物の人生観や、懸ける思い、情熱、挫折の気持ちに共感、共鳴してしまうんだろうという感覚でした。
染谷さん 自分もお話をいただいて原作を手にして、描かれていることが他人事じゃないなと。登場人物が指摘されるセリフがあったら、自分が指摘されているような気持ちにはなって「これ、俺のことか?」という気分になるくらいすごく没入して読んで、とても感動しました。
--どのキャラクターやセリフに共感した?
松坂さん 海棠のように年長者でもずっとスプリンターとしてあり続ける精神性みたいなものに憧れます。しがみついている感じではないですけど、あそこまで行くと美しさすら感じるというか。その姿が僕は好きです。
染谷さん 陸上界の絶対王者の財津の講演会での言葉は、すごく衝撃的でした。「いかなる試合でも敗北を恐れず内容を重視する。同時に敗北に震え結果を欲します」というセリフがあり、ただ緊張すらも楽しめ、という。それは役者としてもすごく同じように「緊張、楽しみたいなぁ」と。
松坂さん 確かに、楽しめるようになりたい。
染谷さん とても心を動かされました。
--トガシと小宮は、友達でありライバルであり、同志でもあるような一言では言い表しにくい関係性です。2人の関係性をどのように感じながら演じた?
松坂さん 小学生の頃、トガシは生まれつき足が速かったからもてはやされていましたが、初めて小宮の走りを見た時に「あっ!」と思ったり、小宮はトガシの中でずっとどこかに居続ける存在というか。それがどんどん成長して、互いにスプリンターとして活躍していく中で、小宮の存在がどんどん大きくなって、友達から関係性がちょっとずつ変化して、ライバル、脅威的な存在になって、最終的には同じレース場で走る中で、そういう関係性を超越したかのようなところまで行き着く。そういう2人なのかなと思います。
染谷さん この2人の関係は本当にエモいなと思いました。たまたま会った2人がたまたま影響し合う。小学生の時にトガシと勝負して、負けて、小宮は突然転校しちゃうんですけど、その衝撃も含め、お互いがお互いに爪痕を残したまま時間がたって、また再会する。その時に変わらないものが土台にあるけれども、お互いの変わった部分も受け止め合っている瞬間がとてもすてきで、いびつだけど美しいなと思いました。
--もし、自分の前にライバルと呼べるような存在が現れたら?
松坂さん 刺激をもらうと思います。こういう監督と一緒にやるんだ、こういう作品を自分もやってみたいと思ったりもするでしょうし、それが刺激になって自分を鼓舞するいいきっかけになったりするし、士気は上がるんじゃないかなとは思います。
染谷さん 10代の頃は、オーディションに行くと、自分と割りかし近いキャラクター性の方と一緒になるじゃないですか。すると、前のオーディションではこの方はこういうお芝居をしていたけど、今回はこういうお芝居しているなと見るじゃないですか。それはすごく印象に残りますし、勉強にもなりますし、刺激をもらっていました。
◇実写ではできない表現の面白さ 刺激的な収録
--松坂さん、染谷さんは約14年ぶりの共演となります。久々の共演が「ひゃくえむ。」のトガシ役、小宮役だったことに対して、どう感じていますか。
松坂さん 久しぶりに染谷君と一緒にできるのは、めちゃくちゃうれしいと素直に思いました。
染谷さん 本当にすごくうれしかったです。桃李君の出ている作品はずっと見ていて、またいつかご一緒したいとずっと思っていました。なかなかご一緒する機会はなかったんですけど、すぐ近くにいる感じはしていて。そんな桃李君と「ひゃくえむ。」のこの関係性でご一緒できるのが、めちゃくちゃうれしかったです。
--トガシと小宮として掛け合った感想は?
松坂さん すごく小宮の声のトーンだと思いました。原作を読んでいた時の小宮の空気感みたいなものがそのまま横から聞こえてきたので、「わー、小宮だ」と。
染谷さん 僕も一緒です。桃李君がトガシをやると聞いた時から、「わっ、トガシじゃん」って(笑)。
松坂さん (笑)。
--収録で声の演技ならではの難しさ、面白さを感じたことは?
松坂さん 僕らがやっている実写の映像にはない表現方法というか、既に出来上がっているものに対して声を乗せていく。キャラクターの動き、アニメーションに対して、その空気感に溶け込むように声を合わせていくんですけど、その感じが難しくもあり、ハマった時の面白さみたいなものがあるのかなと思いました。公開されてみないと分からないところもありますが。
染谷さん やはり編集されているものに自分が乗っかっていくというのは普段とは全然違う作業なので、難しいと思いつつも、逆に言えば実写じゃできない感情の変化を作れるのはすごく面白いなと。やはり難しいが上回っちゃうんですけど、それはすごくすてきだなと思いました。
--「ひゃくえむ。」に声優として参加して、自身の中で発見や新たな気づきになったことは?
松坂さん 収録する時に監督が「掛け合いが大事」とおっしゃっていて、実際に染谷君や、ほかのキャストの方とも掛け合いをさせていただきました。僕は声優さんが実際にやっている姿を生で見たのが初めてだったので、「こういう感じでやるんだ……!」と、いい刺激になったというか、勉強になりました。例えば、海棠役の津田さんは、長いセリフのシーンでは、完璧に全部(セリフが)入っている状態で(台本を)ほぼ見てなかったんです。
染谷さん そうなんだ……!
松坂さん そう、ほぼ見てなくて、バーッとしゃべっていて「あ、なるほどな、そうだよな」と思って。
染谷さん でも、俺らが覚えても多分ちょっと違いますよね?
松坂さん 違う、絶対違うと思う。
染谷さん 難しいですよね。
松坂さん そこはすごい勉強になりました。
染谷さん 自分も現場は刺激的でしたね。声優の皆さんとやらせていただいて、セリフの尺というルールの上で、いかに監督の演出を具現化していくかという、その表現力はやっぱりすごいなと思いました。あと、今回ロトスコープという実際に実写で撮ったものを絵にしていくという表現も相まって、アニメなんだけれどもアニメだけではない、実写にもアニメにもないようなすごく面白いショットが見られて、音もそうですし、たくさんの魅力の要素が詰まっているなと思いました。
◇互いの役者としてのすごさ
--今回の「ひゃくえむ。」での共演も含め、お互いの役者としての印象を教えてください。
松坂さん 染谷君は、本当にその作品の意図を100%理解して、そこに染まってやっている感じがすごくするので、きっと監督も頼りにしているのだろうなと感じます。いろいろな監督と作品をやられているのを横目に見ていますけど、やっぱすごいなと。またいつか実写でも一緒にお芝居したいなと思っています。
染谷さん 全く同じなんですよね。桃李君は本当に幅広くいろいろな作品に出られていますが、毎回その作品の中にちゃんと入って、いい意味で全然浮いてないという。ちゃんと作品の中で生きている人になれているのは、本当にすてきだなと、この14年間いつも思っていました(笑)。自分も実写でもまたご一緒させていただけたらうれしいです。
--「作品の中に入る」「作品の中で生きる」上で心掛けていることは?
松坂さん 台本をいっぱい読むかもしれません。たくさん繰り返し読みます。例えば、昨日読んだシーンを、きょうまた読み返した時に、違う印象になったり、違う考え方が生まれたりするので、繰り返し繰り返し、現場に入るまでになるべくたくさん読むという。あと作品によって、殺陣や楽器の練習など習得しなきゃいけないことがあったら、役や作品のことを考えながら練習して、集中力を高めていくとか、そういう感じです。
染谷さん 自分も一緒ですね。あとは人の話をよく聞く。
松坂さん 大事!
染谷さん 人が言っていることをちゃんと細かくよく聞くことが、その作品に入るヒントなんだと思っています。監督であったり、皆さんが「何をしようとしているのか」ということをよく聞いて、よく見ることがすごく大事かなと思っています。
“100m”に懸けるトガシ、小宮たちの生き様を生々しく描く「ひゃくえむ。」。松坂さん、染谷さんら声優陣の熱い演技をスクリーンで体感したい。
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