劇場版「チェンソーマン レゼ篇」:ドラマのあるアクションシーン レゼを可愛く見せるために 吉原達矢監督&中園真登副監督インタビュー(2)
配信日:2025/09/19 7:02

インタビュー(1)の続き 藤本タツキさんの人気マンガが原作のテレビアニメ「チェンソーマン」の続編となる劇場版「チェンソーマン レゼ篇」が9月19日に公開された。「レゼ篇」は、2022年10~12月に放送されたテレビシリーズのラストにも登場し、話題になったレゼと主人公・デンジの物語。デンジが憧れのマキマとのデートで浮かれている中、雨宿りをしていると、カフェで働く少女レゼと出会う。劇場版は、テレビシリーズでアクションディレクターを担当した吉原達矢さんが監督、同じくテレビシリーズにチーフ演出として参加した中園真登さんが副監督を務める。原作でも人気のエピソードである「レゼ篇」をどのようにアニメ化しようとしたのか。アクションシーンのこだわりなどを吉原監督、中園副監督に聞いた。
◇格好いいだけではないバトルシーン 台風、爆破のこだわり
--「レゼ篇」では、台風の悪魔やボムが登場し、バトルシーンにも注目が集まっています。バトル、アクションシーンのこだわりは?
吉原監督 アニメの一番の強みは音、動き、色味ですので、最も原作から盛れる要素がアクション部分やドラマの時間の使い方の部分だと思っています。「レゼ篇」においても、台風の悪魔が登場し、よりスケール感のある演出、アクションシーンが作れそうだなと考え、アクションディレクターでもある重次創太さんに「原作より、もう2、3段ギアを上げてほしい」というようなお願いをしました。デンジとビームが真剣に立ち向かっていく中でも、ちょっと砕けた表現があり、見ている人たちも気を張り詰めすぎずにリラックスしてより楽しめる要素になっているんじゃないかなと思っています。
中園副監督 今回いろいろなアクションがある中でも、単純に格好いい戦闘シーンを見せるだけではなく、キャラクター同士のやり取りの応酬を織り交ぜながらドラマとしても見られるアクションシーンが出来上がっているのではないかと思っています。
吉原監督 今回シネスコ(シネマスコープ、横2.35対縦1の画角)という画面のサイズということもあり、画角の広さをフルに活用していただいた、スケール感、奥行きのあるアクションシーンになっています。爆発、台風というスケール感も音響効果的にも劇場向きで、劇場環境と「レゼ篇」は、非常に相性がいいと感じています。
--ボムによる爆発のシーンはどのように表現しようとした?
吉原監督 「レゼ篇」は、夜に戦って爆発が光るというような、かなり映像映えするシチュエーションが多いんです。その中でも爆発の色味にこだわりました。爆発では、オレンジ、黄色がよくあるパターンなのですが、オレンジ、黄色のカラーのバーの中でも美しいところを選択して、より映えるようにしています。シーンによって、爆発の色味自体をガラっと変えて、見ている人たちに単純に同じような爆発が連発して見えないようにさせていただいた次第です。
中園副監督 アクションシーンに関しては、アクションディレクターの重次さんが上げた絵コンテに書いてあるアイデアがとても面白くて、マンガには描かれていないボムのアクションは、原作を読んだ人にも新鮮に映るのではないかと思っており、映画ならではのスペクタクルを感じられるアクションシーンになっているんじゃないかなと思います。
◇レゼとマキマの対比 “色”で魅せる
--「レゼ篇」では、レゼが非常に魅力的なキャラクターとして登場します。レゼを描く上で大切にしたことは?
吉原監督 レゼは終盤において、劇的に変貌するのですが、とはいえそこに至るまではレゼの裏に宿したものが透けないように、純粋にデンジに接しているように見える、純粋な可愛さを前面に出すように演出としては心掛けました。
--PVでも描かれているレゼがプールにいるシーンも美しいです。肌の見せ方、光の具合も工夫されているのでしょうか。
吉原監督 そうですね。「レゼ篇」を作るにあたり、全編にわたってカラースクリプトをりくさんという方に担当していただいています。プールのシーンも、りくさんの色作りをベースにさせていただいています。美術さんに発注する前に、スタッフ間で色の完成画面を共有する行程をワンクッション設けさせていただいている感じです。
--具体的には、どのような色使いに?
吉原監督 アニメの背景や色は、今までアニメの歴史が積み上げてきた、彩度や明るさのベースのようなものがある程度あるとは思うのですが、近年のアニメは色数、色の使い方のバリエーションがかなり増えて、イラスト寄りだったり、写真のような色使いだったりと、振り幅が大きくなっています。今回の「チェンソーマン」もそれにのっとって、原作的な絵作りをしつつ、色味でもイラスト寄りのアプローチを加えられるんじゃないかということで、りくさんにアイデアをいただきました。
--「レゼ篇」では、レゼとは対照的なもう一人の女性として、マキマが登場します。
吉原監督 序盤のデンジとマキマのデートシーンや、デンジとレゼとの電話ボックス内での出会いのシーンは、中園さんが演出をご担当されました。マキマが大人びた感じで、デンジと精神年齢的にかなり差がある一方で、レゼとデンジは年齢の近しいテンション感で、二つの関係性が対となるような、対照的なものとして見れるような形に組んでいただけるようにお願いしました。
中園副監督 マキマさんは大人の女性で、映画館デートという大人のデートの仕方をするのに対して、レゼとのデートはカフェで話す以外に夜の学校に忍び込んだり、夜のお祭りに行ったりと、ちょっとワルな感じというか(笑)。その違いに対して、デンジのリアクションや受け取り方の変化、機微をしっかり描こうとしました。マキマはデンジにとっての絶対的な女神、憧れの象徴であるということと、レゼの身近な同年代の女の子感との対比を気にしつつ演出させていただきました。
--レゼとマキマの対比はどのように表現されたのでしょうか。
中園副監督 レゼとデンジがいる喫茶店内は、柔らかな光というか、穏やかな空気、時間なのに対して、マキマとのデートの時は、どちらかというと、ちょっとコントラストが強く、劇的なライティングになっています。行動の内容としては、マキマのほうがおとなしく、レゼのほうは動きがあるのですが、色味に関しては行動とは裏腹だったり。りくさんがカラースクリプトを作ってくれたおかげもあって、いい感じのバランス感になっています。
◇制作現場の熱量 驚きと発見 挑戦も
--「レゼ篇」の制作で印象的だったことは?
吉原監督 MAPPAの制作の方々の熱量が、非常に高いレベルにあるなと思いました。やる気もそうなのですが、行動力、実行力が非常に高く、こちらとしてはとても助けていただいているところが多くあり、一人一人が心強い存在であるなと思っています。今回「チェンソーマン」に関わらせていただく上で、いろいろな方のアイデア出しの熱量が高く、それがすごく新鮮で、楽しかったです。みんなでお互い高め合っているような感覚でした。
中園副監督 メインアニメーターとしてクレジットされている庄一さんの姿が印象的でした。「チェンソーマン」のテレビシリーズの際にMAPPAに入社され、「レゼ篇」でメインアニメーターとして、特に教室シーンを全般的にやられていて、すごく感動しました。自分は前半の「レゼをどう可愛く描けるか」を重要視するパートの演出でもあったので、庄一さんが描いたレゼのリアリティーや、「レゼってこんな仕草もするんだ?」という驚きと発見を間近で感じることができました。原作にある可愛さに加え、アニメだからこその仕草、動きで見せるということをしっかりやられていて、そこは本当に注目ポイントだと思います。
--最後に、今作でご自身にとって挑戦となったことは?
中園副監督 自分としてはこういう立場で映画に携わるのが初めてだったので、「チェンソーマン」を映画としてどう構築するのかというのが、本当に挑戦でした。副監督という立場ではありますが、いちスタッフとして、ほかのスタッフの方とどう連携して、一つの作品を作っていけるのかと。これまでのテレビシリーズとはまた違う経験をいろいろさせていただいて、挑戦の毎日ではあったのかなと思っています。
吉原監督 マンガの「チェンソーマン」をアニメに変換して構築する部分で、テレビシリーズの流れもありますが、より魅力的に見せるべく再構築したところも多かったように思います。作画、仕上げ、撮影、美術などの各工程においても、あらゆることが挑戦でした。その挑戦の一つ一つが、完成画面を見て実感に変わりました。ぜひ楽しんでいただきたいです。
※吉原監督の「吉」は「土+口」が正しい表記。
提供元:MANTANWEB