タコピーの原罪:アニメ化の舞台裏 テレビではなく配信の理由 須藤孝太郎プロデューサーに聞く
配信日:2025/06/27 7:31

集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+(プラス)」で連載されたタイザン5(ファイブ)さんのマンガが原作のアニメ「タコピーの原罪」が6月28日午前0時にNetflix、Amazon Prime Video、ABEMAほか動画配信サービスで配信を開始する。原作は、2021年12月~2022年3月に「少年ジャンプ+」で連載され、短期連載ながら同時期に連載していた作品の中で最高閲覧数を記録した。話題作ではあるが、刺激の強いシーンもあり「アニメ化は難しいのでは?」というファンの声もあった。アニメを製作するのはTBSテレビだが、アニメはテレビ放送ではなく、配信という形で発信するのも異例だ。TBSテレビの須藤孝太郎プロデューサーに「タコピーの原罪」のアニメ化の舞台裏を聞いた。
◇原作の素晴らしさを最大限に生かす
地球にやって来たハッピー星人・タコピーが、笑わない少女・久世しずかと出会い、しずかの笑顔を取り戻すため不思議な力を持つハッピー道具で奔走する……というストーリー。学校や家庭の問題など小学生の無情な現実が描かれたことも話題になり、コミックスは全2巻ながら、累計発行部数が145万部を突破するなど人気を集めている。
プロデューサーを務める須藤さんは、2008年キングレコードに入社。「ポプテピピック」などの話題作を世に送り出し、2022年にTBSテレビに転職、5月に公開された劇場版アニメ「たべっ子どうぶつ THE MOVIE」の企画・プロデュースを手掛けた。
「自分がアニメを製作する際、これをどうやってアニメ化するのか?という難題にチャレンジしていこうとすることが根底にあるのですが、『タコピーの原罪』の原作を読んだ時、最初は全然思い浮かばなかったんです。マンガとしてすごく完成していますし、センシティブな表現もあります。面白さと危険さが隣り合わせになっていて、連載時、毎回レビュー数が増え、ネットミーム的に刺激的なところがSNSで広がっていくことに危うさも感じていました。ただ、原作者の方が最終的に伝えたいことは、そこではないのでは?と思っていました。“友情と対話の物語”であって、それを伝えるために、あえて刺激的な表現も使っているのではないだろうかと。2022年にTBSテレビに入社し、最初に立ち上げた企画が『タコピーの原罪』と『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』でした。両極端ではありますが、いずれもハッピーに向かっていく前向きになれる作品だったんです」
センシティブな表現もあることから、須藤さんは「これをアニメ化するならどうすればいいのか?」と悩んだ。
「TBSテレビ社内でも『できないんじゃないか?』という議論がありました。でも、センシティブなシーンを削ったり、隠して映像化するのは違うのではないかとも思いましたし、1クール、12話というテレビアニメのフォーマットに強引に落とし込むのも違うと思いました。素晴らしい原作をフォーマットに合わせて尺を伸ばすのではなく、原作の素晴らしさを最大限に生かすことを考え、最初から配信にすることを提案し、1話ごとの尺も決めずに、作品の良さが一番生きる作り方を目指そうとしました。anoさんのオープニング、Teleさんのエンディングにしてもテレビサイズと言われているフォーマットからは外れています。全てが『作品にとってベストになること』を目指しています。クリエーターの方が一番いいものを作ることが正解なので、そこを大事にしようとしました」
独占配信ではなく、さまざまな動画配信サービスで全方位に配信していく。テレビアニメを配信する際は珍しくないが、配信だけの作品では極めて異例だ。
「ほとんど聞いたことがないですよね。もちろん、独占配信の方がビジネス的にはうまくいきます。どことマッチするかは、やってみないと分からないところもありますし、作品を一人でも多くの人に観ていただきたい。その結果話題になり、ビジネスが追い付いてくるイメージです。自分は新しいことをやるのは好きなので、そこも挑戦していこうとしました。前例という言葉がとにかく嫌いなんです」
テレビ局が製作する映画や劇場版アニメはある。ただ、配信だけのアニメというのは珍しい。配信の一般化によって、アニメの楽しみ方は多様化しているが……。
「放送をすることが全てではないし、自分はそこにあまりこだわりがないんです。放送することが作品に対してデメリットになるのであれば、別の道を探っても全然いいと思っています。放送枠があり、そこに向けて番組を作ることも放送局としては大切で自分の命題でもありますが、それと同じくらいTBSテレビは大切にしていることがあって、それはコンテンツを世に届けて、何かを感じてもらったり、その人の人生をより豊かなものにしてもらうことです。一昔前だったら、TBSテレビで作っているのだから、放送することが前提になっていましたが、時代は変化していて、今はコンテンツを作る集団であることがベースになってきています。番組ではなくて映画でもいいですし、映像ではなくて舞台、イベントでもいい。その中で、『タコピーの原罪』を配信でやっていくという取り組みがあってもいいはずです。放送局でありながら放送しないという選択肢も、その文脈でいくと決してイレギュラーなことではないと思っています。原作の良さを最大限生かしつつも、誰しもが見られる配信という今回の形が大事だと思っていて、集英社さんも原作者の方も同じような考え方でした。ビジネスはもちろん大事なのですが、この作品をきちんといろいろな方に見てもらって、感じ取ってもらうことが大事だという思いが根底にあります」
◇相互理解、対話の物語がこの時代に絶対に必要
「本当にアニメ化できるのか?」という声もあった。刺激的な部分だけが一人歩きしてしまう危険性もある。しかし、しっかりテーマを持って取り組むことで、作品の本質をアニメで表現しようとしている。
「迷った時、制作現場も宣伝も、原作を読んでるファンの人たちがどう感じるか、に立ち戻ろうとしています。話題作ですし、一部を切り取ってマス向けに発信するのは違うと思っていて、原作を読んでる人に『こういうアニメを求めていたんだ!』と思っていただけるように、原作の持っている世界観や質感を再現しようと真摯に向き合っています。物理的な話ですが、なんとなくテーマを持たないで、とりあえずやってみながら最適解を探していくのも、一つのやり方であることは理解しています。ただ、それだと途中で迷った時に立ち返るものがないので、なんでこれをやっているんだろうと行き詰まった時が一番辛いですよね。このテーマを伝えたいから我々はこの作品に向き合っていて、世の中に発信していくんだ、という強い意志をブラさないようにしています。それがなかったら、途中で諦めていたかもしれません。相互理解、対話の物語が、今この時代に絶対に必要だという想いが、このプロジェクトに関わる全員の共通認識になっています」
アニメ「タコピーの原罪」の制作を担当するエニシヤは2018年に設立された比較的新しいアニメ制作会社だ。Eveさんやまふまふさんのミュージックビデオ、CMやPVの制作実績はあるものの、シリーズアニメの元請制作は初となる。
「そもそも、エニシヤさんと一緒に企画を立ち上げ、エニシヤさんと一緒に集英社さんへのプレゼンをしました。3年前、エニシヤさんとディスカッションの場があって、そこで一緒にやってみませんか?という話になりました。確かにエニシヤさんにシリーズアニメの実績はありません。ただ、誰しも最初は実績がないものですし、自分はあまりそういうことは気にしないので、一緒にやり遂げる“強い想い”を大事にしています。監督やスタッフの方の“想い”がブレないように、アニメ化していきたいと考えています。『タコピーの原罪』を最高のクオリティーで世に出すことが次につながっていくはずだと思っています」
アニメ化は難しい作品かもしれない。だからこそ「ブレないこと」を大切にしなければいけない。スタッフが“想い”を共有することで、最高のクオリティーを目指した。
「例えば、すごく優秀なアニメーターの方を連れてきたとしても、なぜこの作品を膨大な時間を掛けて作るのか、テーマを理解していないと意味がありません。集まったメンバーが、この作品をいいものにする、作品の魅力をしっかり伝えていくという“想い”があふれていたので、エニシヤさんとぜひご一緒させていただきたいと思ったんです。その“想い”がある限り、最後まで駆け抜けられるはずです」
「大変なことも多いのでは?」と聞いてみると……。
「実はあんまりないんですよね。もちろん、調整ごとなどの大変さはありますが、最初に原作者の方を含めてじっくり方向性について話をしましたし、大変なことも、作品を作る上では必要不可欠なことなので、大変だと思わないようにしています。自分は制作の実務的なところは出来ないので、その分どうやったら現場の方々が最後まで駆け抜けられるかを大事にしています。それがプロデューサーの本質だと思っています」
「タコピーの原罪」のアニメ化には、さまざまな挑戦があったようだ。衝撃的な一面に注目されることもあるが、ただそれだけではない“想い”が詰まっている。その“想い”を受け取ってほしい。
提供元:MANTANWEB