解説:「宇宙戦艦ヤマト」新作が作られる理由 「3199」に受け継がれる魂
配信日:2025/05/06 13:01

人気アニメ「宇宙戦艦ヤマト」のリメークシリーズの最新作「ヤマトよ永遠に REBEL3199」。「宇宙戦艦ヤマト」はアニメの歴史を変えた名作で、「3199」は名作の魂を受け継いだ。 「3199」に受け継がれたものとは? 「3199」を手掛ける福井晴敏総監督の言葉から読み解く。
◇ヤマト=戦艦大和=大戦中の日本 現実とリンク
「宇宙戦艦ヤマト」は1974年にテレビアニメ第1作が放送され、それまで“子供のもの”とされ、“テレビまんが”とも呼ばれていたアニメのファン層を大きく拡大し、劇場版アニメも大ヒットするなど社会現象となった。「宇宙戦艦ヤマト」が始まってから約5年後、1979年には「機動戦士ガンダム」が始まる。「ヤマト」「ガンダム」は日本のアニメの歴史を大きく変えた。今も共に新作が制作されている。
「『ヤマト』が今も新作が作られているのはなぜか?を考えた時、『ヤマト』というタイトルが大きいと思います。ヤマト=戦艦大和=大戦中の日本、というように現実とリンクしているんです。日本以外には、絶対ないものです。大戦中に活躍できず、沈んだすごく強かったはずの戦艦が、地球の危機に際して、改造され、宇宙に行く話です。大戦中の鬱憤を晴らすかのように活躍する話かと思ったら、そうではない。相手を絶滅させてしまったことに対して悔恨の涙を流します。戦後の人間が戦時中の日本をどう受け止めるかは、あの時代まであまりできていなかった。戦後、若者たちの学生運動のようなムーブメントがあったけど、その後に“しらけ世代”とも言われるような、考えるだけ無駄となるような若者が増えていった。真空地帯に置かれた若者を引きつけるようなものが『ヤマト」』はあったんだと思います。「ヤマト」は、日本の話であることが大きかったはずです。そこが『ガンダム』との違いで、『ヤマト』がなくて、いきなり『ガンダム』だったら、ブームになっていないと思います」
「宇宙戦艦ヤマト」は、戦争を想起させるが、ファンタジーでもある。
「『ヤマト』は、爆発したら、宇宙なのに煙がモクモク上がるけど、大戦中の日本を想起させるために必要な描写なんです。あれは完全な演出です。古代進がケガをした仲間の肩を担いで、煙が上がるシーンも戦記もののようです。『ヤマト』の前に『アニメンタリー 決断』という作品もありましたが、あの質感を意図的に宇宙に持ち込んでいるわけです。戦艦大和が宇宙で活躍するという寓話を成り立たせるための描写だった。戦艦大和の造形から離れた初期デザインのままだったら、おそらくああいう演出になっていない。造形に引きずられて、ベースの物語もあると考えた方がいいかもしれません」
◇SNSの台頭、民主主義の危機 時代性を表現する
リメークシリーズは、第1作をリメークした「宇宙戦艦ヤマト2199」が2012年~13年に劇場上映された。「2199」は、出渕裕さんが総監督を務めた。福井さんは、2017~19年に劇場上映された「2199」の続編「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」、2021、22年に劇場上映された全二章の「宇宙戦艦ヤマト 2205 新たなる旅立ち」にシリーズ構成、脚本として参加。福井さんは「3199」で総監督を務め、シリーズ構成、脚本も担当している。
「初代『ヤマト』は、日本にとってあの大戦が何だったか? そこから何を学んだのか?がテーマにありましたが、この時代に大戦を振り返るのは違う。『2202』で引き継いでからは、震災後の日本をテーマにしています。震災だけでなく、SNSの台頭、民主主義の危機など時代性を取り入れています。初代『ヤマト』は当時、大人も一緒に見ていました。ソバ屋に行ったら、夕方に再放送をしていて、おじさんが見ているんです。ほかのアニメは見ないけど、何かが引っかかる。社会派だったからなんです。日本人らしい人たちが出てきて、大戦を想起させるようなことが起きている。下町のソバ屋のおじさんたちにそこが通じたんだと思うんです」
福井さんは、リメークシリーズで“社会派”の魂を受け継いだ。
「今の40、50代に寄り添って、共感できるようなものを目指そうとした。初代『ヤマト』の放送当時、子供だった方をターゲットにしました。その方たちの子供がハイティーンになったり、成人しているので、次の世代にも見てもらえる。そこを狙っています」
「3199」は、社会を映す鏡のような作品だ。さまざまな情報に翻弄され、何が真実なのかが分からなくなる……という人類が直面している問題が描かれているようにも見える。
「『3199』は『2205』の時にある程度やることを決めていて、結構前に構想していたので、世界が『ヤマト』に近付いてきたのかもしれません。こんなに生々しい話なのか……と近接してきた。我々に先見の明があったわけではなく、『ヤマト』が元々持ってる寓話性、風刺性が引き当てたところもあると思っています。『ヤマト』に引き寄せられたんです。『ヤマト』だからだからできているのか? 『ヤマト』だからそう見えているのか? そこは分からないところでもあるのですが」
「ヤマトよ永遠に REBEL3199」は、全七章で、第三章「群青のアステロイド」が上映中。第四章「水色の乙女(サーシャ)」が10月10日から上映される。
提供元:MANTANWEB