神谷浩史:「劇場版モノノ怪」 薬売り役「引き算の芝居」の挑戦 第二章「火鼠」は「泣けるんです」
配信日:2025/03/13 20:01

2007年にフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放送された人気テレビアニメ「モノノ怪」の完全新作劇場版三部作「劇場版モノノ怪」の第二章「劇場版モノノ怪 第二章 火鼠」が、3月14日に公開される。2024年7月に公開された第一章「唐傘」に続き、主人公の薬売りを演じる神谷浩史さんは「薬売りは相変わらずケレンがすごい(笑)」「足し算ではなく引き算で薬売りを構成したいというのは第一章の時から考えていたことですが、第二章ではそれがより顕著かもしれない」と語る。演技のこだわり、第二章への思いを聞いた。
◇悪者的キャラが登場する第二章 母親の情に「泣ける」
「モノノ怪」は、2006年にノイタミナで放送された「怪 ~ayakashi~」の一編「化猫」のスタッフが再集結して制作。薬売りがモノノ怪に立ち向かう怪異譚(たん)で、スタイリッシュなキャラクターデザイン、和紙のテクスチャーなどCG処理を組み合わせた斬新な映像が話題となった。「劇場版モノノ怪」三部作では、女たちの情念が渦巻く大奥を舞台に、薬売りが“モノノ怪”の正体を追うことになる。
神谷さんは、第一章「唐傘」を振り返り、「予告映像を拝見した時に『これはすごいな』って思ったんですけど、まさかあのクオリティーが90分続くとは。画面の情報量が多くて、『正気かよ』と思いました(笑)。公開後の反響というものは意外と僕の耳には届かないんですが、監督たちスタッフの皆さんに『薬売り、かっこよかったです』というふうにおっしゃっていただけたのは、ありがたかったですね」と語る。
第二章「火鼠」では、天子の世継ぎを巡り、大奥の家柄同士の謀略と衝突に焦点を当てたストーリーが展開する。神谷さんは、中村健治総監督から「第一章と比較すると第二章は非常に分かりやすい話になります」と言われていたといい、台本を読み「その通りだと感じました」と語る。
「『モノノ怪』は、各話ごとにキーとなるモノノ怪がいて、それを誰かが呼び寄せてしまい問題が起きる、という物語になっています。つまり、モノノ怪を呼び寄せた原因となる悪者的な存在がいるわけです。ですが、第一章ではその悪者がいなかった。特定の誰かが悪いわけではなく、それぞれが置かれた立場や状況の中で動いた結果として生じてしまった事態だったので、言葉では説明しづらい難解な部分があったかもしれません。そういった面で、第二章ではモノノ怪を呼び寄せた原因だったり、いわゆる悪者的なキャラクターが描かれているので、物語として分かりやすくなっていると思います」
第二章は、「母と子供の関係」がテーマの一つとなっているという。
「こんなこと言うとすごく安っぽいんですけど……泣けるんです。人間の情というか、母親の情ですよね。やっぱり全ての人間は母親から産まれているがゆえのものなのかもしれないですけど、母親の気持ちみたいなものがすごくダイレクトに伝わってきて、とてもいい話でした」
◇老中たちを演じるベテラン声優陣が「たまらない」
第二章では、天子からの寵愛を一身に受ける町人出身のたたき上げの御中臈・時田フキと、老中の娘・大友ボタンがメインキャラクターとして登場する。日笠陽子さんがフキ、戸松遥さんがボタンをそれぞれ演じる。総取締役だった歌山の後任となったボタンは、規律と均衡を重んじるあまりフキと衝突することになる。
「フキとボタンは、反目し合っていて、真逆の性格のように見えますけれども、根っこの部分では、どちらも頭のいい女性なんだろうなという気はしています。老中たちが思考停止になって『こういう慣習だから』という理由で物事を進めようとする中で、フキとボタンは納得できない部分はちゃんと解消したいという信念が見受けられる。自分が納得したいというのが行動理念になっている気がするので、その部分を若さとして表現できている2人と、思考停止になっている老人たちという対立関係が見える。そこに対して、日笠も戸松ちゃんも本当に巧みにアプローチしているなという印象です」
フキやボタンとは対照的に描かれる老中たちも「印象的だった」と語る。ボタンの父である老中大友役の堀内賢雄さん、歌山役の相馬康一さん、勝沼役の楠見尚己さん、藤巻役の堀川りょうさんと、豪華声優陣が集結した。
「やっぱりベテランの声優さんたちってすごいですよね。もちろん若い頃からすごかったですが、当然皆さん若い頃だったら薬売りを演じている可能性のある方たちなわけです。そんな方々が歳を重ねて味のあるジジイの役をやるっていうのは、たまらないですよね。うまく説明できないですけれども、『楽しそうに演じてらっしゃるな』と。自分もベテランの年齢感に達した時に、こういう味のあるジジイの役が果たしてできるのだろうかと。すごく尊敬しますし、うらやましいです」
男性キャラクターの中では、大奥に足を踏み入れる薬売りを後押しする広敷番の坂下にも魅力を感じているという。
「坂下は唯一と言ってもいいくらい薬売りに対して理解しようとしてくれている人ですよね。ほかの人たちは全く理解を示さずに、ただ単に薬売りを利用しようとしている。大奥で起こっている自分では理解できない不思議な出来事を恐らく解決できるであろう薬売りに対して『なんとかしろ』とほぼ命令の形で言ってきますが、坂下だけは違う。彼は老中ほど頭が固くなっていないところもあるので、ちゃんと考えた上で、薬売りを理解しようとしてくれているところが非常に好ましいなと思っています。坂下役の細見大輔さんとは、第一章に続き一緒にアフレコをさせていただいたのですが、コミュニケーションを取ってくれようとしますし、お芝居も達者でいらっしゃるので、僕としては非常に心強かったです」
第二章は「年齢感で性格設定がされていると分析できるかもしれない」とも語る。
「老中たちは習慣に従って行動していて、自分の考え方はあまり強く見えてこない。時田(三郎丸、フキの弟)は、まだ若いので、自分の意志があって行動しているように見える。年齢感でキャラクターが描き分けられているところは、この章のポイントなのかもしれないなと思っています」
◇足し算から引き算の芝居へ
第一章を経て、第二章で薬売りの演技に変化はあったのだろうか。
「第一章の時に中村監督から『能動的に人を助けようとする性格設定です』という説明をしていただいて。なので、今回も隙(すき)あらば大奥に入って行こうとする。能動的に助けたいという気持ちがあるから、男子禁制の大奥という場所でも踏み入っていくわけです。そういったベースの部分は第一章と変わりません。あと、薬売りは相変わらずケレンがすごい(笑)。『火鼠』の予告をご覧になった方はご存じかと思いますが、『火の用心』っていう短いせりふを言うのにものすごいカット数を使ってます。そういった『どこかひっかかる、無視できない』という存在感は気にしたほうがいいんだろうなと。でも、そういうものを音の要素で構成しようとするとトゥーマッチになりそうで。ケレンは絵やカット割りで十分に表現していただいてるので、音においてはどれだけトゥーマッチにならないかということのほうが大切かなと。足し算ではなく引き算で薬売りを構成したいというのは第一章の時から考えていたことですが、第二章ではそれがより顕著かもしれないです」
神谷さんは、薬売りは「引き算の芝居をしていったほうが成立しやすい」と感じているという。
「薬売りに関して言うと、台本で『……』『!』などせりふのない部分が結構あるんですけど、例えば『キッと見る薬売り』というト書きに『!!』が付いている場合、息の芝居を入れたりするのですが、ト書きが『薬売りアップ』だけだった場合は入れなかったりする。そういう足し算、引き算。指定がないところに対して足していく、または指定があるけれどもあえてやらないとか。自分で絵を見ながら、ここは必要なのか不必要なのかを考えながらアプローチして、アフレコの最中で監督に『ここはください』『ここはいらないです』と言われることで精査していく。せりふの中でも、もちろんそういうものはあって、絵や状況が十分に説明してくれている場合、感情を乗せてしまうと、トゥーマッチに聞こえたりする。例えば、憤っているようなせりふでも、非常にクールに言うことによって、より憤っている何かが見え隠れするかもしれない。薬売りはそういう計算がとても細かくされている気がするので、引き算の芝居をしていったほうが成立しやすいというか」
神谷さんは、これまでは足し算の芝居をすることが多かったといい、引き算の芝居は挑戦にもなっているという。
「僕が若い時、先輩たちに対して『なんでこんなすごい芝居ができるんだろう? 自分も頑張ろう』と思って頑張ると、どうしても足し算にならざるを得なかったんです。それで自分でやった気になって『よし! どうだ』と思ってオンエア見ると、ベテランの人たちの芝居に全くかなっていなくて、『なんでだろう?』と憤ることがあったんです。ただ、必要な分だけ出していくことと、トゥーマッチに出していくことを比べると、どう考えても必要な分だけ出しているほうが効果的なんですよね。もちろん感情がはみ出してトゥーマッチになっている部分が効果的なこともありますけれど、それで全部を構成するのはあまりいいことではないわけです。でも、僕はそれを20代、30代、40代とずっとやり続けてきてしまっているので、そろそろ引き算の芝居を覚えなきゃいけないなというところで、今回の薬売りはアプローチさせていただいている気がします」
神谷さんが新たなアプローチで挑んでいる薬売り。第二章では、モノノ怪の火鼠にどのように立ち向かうのか、注目したい。
提供元:MANTANWEB