「宇宙兄弟」名言。グッとくる!でも面白い!!
更新日:2016/09/26 10:00
宇宙、特に月面を目指す兄弟の物語となるといかにもSF作品という感じがしますが「宇宙兄弟」 (小山宙哉/講談社) はそれだけにとどまらず、とても魅力的なヒューマンドラマになっています。
そこには兄弟の性格の違いによる苦悩があり、また宇宙飛行士選考試験を通して、少ない宇宙船の座席を巡る仲間たちとの競争もあります。
そんな厳しい生活の中で、主人公の南波六太をはじめキャラクターたちが発するセリフはどれも大変興味深いものばかりです。
今日はそれら名言や迷言をいくつかご紹介します。
「宇宙兄弟」とは
子どもの頃に、UFO(らしきもの)を目撃した南波兄弟は、月面を目指すことを誓い、JAXAに通うようになります。
しかし大人になったとき、弟である日々人は無事に宇宙飛行士になったものの、兄の六太は自動車エンジニアになっていました。しかもクビになったところから物語は始まります。
30歳を過ぎてからふたたび宇宙を目指し始めたムッタの青春時代のような激動の生活が、丁寧な心理描写と気の利いたセリフで描かれていて、とてもわくわくする作品です。
兄・南波六太(ムッタ)の名言
なにかと運が悪い、と自分がドーハの悲劇の年に生まれたことを引き合いに愚痴るムッタですが、その不思議な人柄で人望は意外なほど厚く、様々な困難も周囲に助けられて乗り切っていきます。
彼のどんなところが周囲の人々を惹きつけるのか、名言を見てみましょう。
「死ぬのは嫌だが 死ぬまでに宇宙に行けないってのは もっと嫌だ」
まずはJAXAでの宇宙飛行士選考試験のシーンから。
いよいよ選考試験も進んできたとき、訓練施設に入るまえに同意書にサインをする場面が訪れます。
このときムッタは、もちろん死にたくはない、でもリスクを取っても宇宙へ行きたい、という彼自身のテーマともいうべき言葉をここで表明しました。
「一番なりたがってるのは…… 俺です」
宇宙飛行士選考の面接を終えてお疲れさま会での会話より、まるで洋画の世界から出てきたような格好いいセリフをご紹介します。
先輩飛行士の紫から「一番宇宙飛行士にふさわしいと思うのは誰だ?」と聞かれたムッタは、まずケンジの名前を挙げ、それから自分の希望としてせりかの名前を挙げます。
しかしただのいい人ではないムッタですから、最後にこの台詞を放つわけです。
「失敗を知って乗り越えたモノなら それはいいモノだ」
訓練の過程で、キャンサット(小型の疑似人工衛星。作中で作ったのは空中で放出され、自動制御で目的地に向かうもの)を作ることになったとき、メンバーにムッタがいった名言がこちらです。
与えられた予算の中で、なるべくいい素材を集めて作ろうとするメンバーに対して、ムッタは失敗して壊れるのを前提に、余裕を持って作ることを提案します。
元自動車開発者ならではの格好いい言葉ですね。
「俺の敵はだいたい俺です」
「我々の邪魔をする者は皆 敵です」というせっかちな教官・ビンスが「君にとっての敵は誰ですか?」と聞いたとき、ムッタはこの台詞で答えました。
みんな仲間です、といい感じで終わるのではなく、そこから一歩踏み込んで、自分の夢を妨害するのは、怠惰な自分、というところまで広がるムッタの言葉は魅力的です。
弟・南波日々人の名言
ムッタの弟・南波日々人です。
兄とはだいぶ違う性格で、ムッタが“ひょうひょう”と表現されるなら、彼は“あっけらかん”でしょうか。
とにかく、心理的なブレーキがかかることはほとんどなく、まるでロケットのように目的に向けてまっすぐ飛んでいくキャラクターです。
「世の中には“絶対”はないかもな でもダイジョブ 俺ん中にあるから」
インタビューを受けた子どもの頃の日々人は、「絶対宇宙に行きます」と断言します。
そして当時のムッタは「世の中に“絶対”なんてないんじゃねーかなぁ……」と諭したつもりが、逆にこの一言で返されてしまいました。
この信念、自分を疑わない心こそ、日々人の強みですね。
『イェ~~~~~~~~!!』
かつてムッタが「薔薇」「憂鬱」「新潟」を漢字で書けるようになったと自慢したときに、「ひらがなでいーじゃん」といった張本人の日々人は、月面での第一声を特別用意することもなく、「イェ~~~~!!」で済ませたのでした。
日々人というキャラクターをよく表している一言ですね。
2人の産みの親!南波兄弟、母の名言(迷言?)
兄弟の性格は違うのですが、ふたりとも宇宙に関してはちゃんと見識があるのに対して、両親は息子たちが宇宙飛行士だとはまったく思えないほど適当です。
母はとくに天然で、様々な迷言を残しています。
「緊張をほぐす必殺技教えてあげようか? 手のひらに「人」という字を100回くらい書くとね くすぐったいよ……」
JAXAで行われる宇宙飛行士選考試験に来ていたムッタ。試験直前にトイレで電話している相手が、南波兄弟の母でした。
「キンチョーしてる?」と煽る母が、緊張をほぐす必殺技として紹介したのがこちら。
見事に途中から、言っていることの中身がズレていてほほえましいですね。
「だって母ちゃん… ロケット花火がまっすぐ飛んだためしがないのよね」
何事にも動じないかのような南波兄弟の母ですが、さすがに日々人の打ち上げ前は緊張していたようです。
ロケットの絵を指して、細くて頼りないといい、ついにはロケット花火がまっすぐ飛ばないから心配だという結論に至ります。
宇宙開発の最前線にいる兄弟と、両親との意識のギャップがコミカルな一場面でした。
この親父にして、この兄弟あり。父の名言
あの母親の相手は、この父親にしかつとまらないのかもしれない、と思わせる不思議人物です。
家の中ではものまねを披露したりと、いったいなにがやりたいのだろう?、と疑問に思うこともありますが、よく考えるとこの人は常に家族の方を向いているのだなと、感心させられる言葉も多いのです。
「男なら…… 親父より稼げ」
宇宙飛行士選考中のムッタに、父がかけた言葉です。
一時的に無職だったとはいえ、あまりにご無体な言葉ですね。しかもことはケーキの切る角度から発した話ですから、この両親の不思議なキャラクターがよく表れていると思います。
「まったく よく穴に落ちる奴だ」
月面で危機一髪だった日々人のことを聞いての、父からの評価がこちらです。
これには母も「空ばっか見てるもんねぇ あの子」と同調し、ムッタを沈黙させるのですが、宇宙に飛び立つような兄弟の両親というのは、案外このようなものなのかもしれませんね。
シャロンの名言
天文学者にして、観測所をたびたび訪れていた南波兄弟に、宇宙への手ほどきや楽器や英語を教えてくれた恩人。
ムッタいわく、時々ウソを平気でいう、とあるが、彼女の言葉はいつもムッタに残っていて、重要な場面で彼を導いているのです。
「まずは音を出して 音を出さなきゃ音楽は始まらないのよ」
宇宙飛行士選考の一次審査を受けるか辞退するか悩んでいたムッタに向けた、シャロンの言葉です。
訪ねてきたムッタにトランペットを渡して、自分自身はピアノに向かいこの言葉を伝えます。
ムッタがトランペットを受け取ったかどうかについては、なかなかいいシーンですので、どうぞ本編を読んでみてください。
「悩むなら なってから悩みなさい」
3次審査まで進んだムッタは、周囲の人たちが背負っている様々な事情を知っていきます。そして「で…… 俺には何かあったっけ?」と悩み始めてしまうのです。そんなとき、シャロンがムッタに贈った言葉がこちらでした。
まだなっていない、確かめようがないことで悩まないというのは、仏教的でもあり、とてもいいアドバイスだなと思います。
「「どっちが楽しいか」で決めなさい」
3次審査もいよいよ終わるそのとき、ムッタは誰かを切り捨てなければならないのか、と悩んでいました。そんなとき、ムッタの頭によぎったのがシャロンとの会話です。
迷ったときはどっちが正しいかなんて考えず、どっちが楽しいか、胸に聞いてみなさいという教えでした。
ムッタの愛しい人、せりかにまつわる名言
医師にして、ムッタと同期で宇宙飛行士を目指す女性。美しい人だが、それだけでなく、とにかく美味しそうにたくさん食べる姿が描かれています。
あまりに食べ物に関心が高いためか、ムッタの気持ちにはなかなか気づかないのですが、そんなところも、まさにヒロインですね。
「自分の名前 気に入ってるんです」
つい下の名前で呼んでしまうムッタに、せりかと呼んでくれて構わないと言ったときのセリフです。ここで、せりかのテーマでもある父親との名前にまつわる思い出が語られます。
名前というと字画であるとか、意味だとか、いろいろと凝る人もいますが…、「せりか」と命名をした理由がとても素敵なんです。
「“楽勝だよ”……ってことですよね」
ムッタとの会話中に「It’s a piece of cake」という英語を使ったことがあるか?と聞かれたせりかは、使ったことはないけれど、楽勝だよって意味ですよね、と返します。
シャロンを巡るエピソードの中で、ふたりはこの英語をキーワードに高いハードルへと向かって行くことになります。
まだまだある!その他登場人物の名言
はじめにもお話ししたように、とにかく「宇宙兄弟」 (小山宙哉/講談社) は言葉、特に会話がおしゃれだったり、意味深かったりするのが特徴です。それはまるで、子どもの頃にみた洋画の世界のように惹きつけられます。
他のキャラクターたちも素晴らしいセリフを持っているので、ここで見ていきましょう。
「テンションの上がらねぇことにパワー使いたくないぜ」(ピコ)
キャンサットの大会にて、ムッタたちチームのアドバイザーになったピコ。スイッチが入らねぇと言って飲んでばかりでした。
それには深い事情があるのですが、思い切り活躍できる場があるとき、スイッチが入る。
そしてテンションの上がるフェーズになるようです。
「ホコリ」(ローリー・クオモのTシャツ名言集)
砂漠の行軍訓練のような状況でボロボロのムッタを励まそうと、ローリーが見せてくれた面白Tシャツの文字がこちらです。
曰く、「イッツ……“PRIDE”……!」だそうです。
「いいかムッタこれは信じていい 「運も実力のうち」だ」(オジー)
宇宙飛行士選考試験でたびたびムッタを襲う不運。そんなムッタに訪れた、強盗撃退の栄誉という逆転のチャンスですが、自分を持ち上げてくれたオジーにムッタは正直に自分の手柄ではないと話します。
そのときのオジーの言葉がこちら。
ギャンブラーなおじいさんですが、ムッタの人柄まで含めて賭けた、とも取れる会話でいいシーンです。
「そいつはいいところで見終わったなマイケル あのドラマ6話目以降は…… 超つまんないぜ」(ブライアン・J)
記録として残っている、ブライアンの最期の言葉です。
マンガ作品に対して使う言葉ではありませんが、まるで絵に描いたような、と思わず表現したくなるようなかっこよさですね。
「死ぬ覚悟なんていらねえぞ 必要なのは“生きる覚悟”だ」(ブライアンが吾妻にいった言葉)
ブライアンから吾妻へ。そして吾妻から南波兄弟へと渡っていった質問です。
そしてこの言葉に関わる全員が、死ぬ覚悟はないといったのが印象的でした。
「なんであいつは宇宙じゃなくて 地獄目指してんだ」(エディ・J)
もうひと組の宇宙兄弟、エディ・Jの言葉です。
息子がバンドに明け暮れている姿をみて、親の背中をみて育つっていうのは迷信か、といったあとのセリフです。
しかしこの会話の後、エディも地獄を目指すと、つまり月へ行くと宣言します。
「人生は短いんです」(ビンス)
車に乗るか乗らないか、早く決めろといったあとに続くビンスのセリフがこちらです。
せっかち教官として登場したビンスですが、彼がなぜこんなにも時間というものに執着するのかがだんだんとわかってくる時のセリフです。
「「空」は誰のもんでもない 「人生」は自分のもんだ 人生はコントロールが効く」(デニール)
デニールと初めて会って、そして一緒に日々人の打ち上げを見守ったムッタに、デニールが語った彼の人生観がこの台詞には込められているように思えます。
調子がよく、いい加減なことばかり言うようなイメージですが、時々ふとこういう真剣な言葉を投げてくるいいキャラクターです。
ムッタがたびたび周囲に助けられるのも、彼の言葉に力があったからだと思われるのです。
そんな、言葉の力を大切に創られた作品ですから、今日ご紹介した以外にも、しびれる言葉・展開がたくさんあります。気になる名言がありましたら、本編の中でどのように語られたのか、ぜひ追っていってみてください。