大石昌良インタビュー(後編):リアルでもめんどくさい女の子が好き!?今オススメのラブコメ漫画とは?初めて主題歌を担当した「月刊少女野崎くん」を語る!
更新日:2019/01/17 10:00
TVアニメ「けものフレンズ2」オープニングテーマの作詞作曲を担当など、歌から作詞作曲まで大活躍のシンガーソングライター・大石昌良さん。リアルでも面倒な女の子が好きという大石さんのお気に入りのラブコメ漫画は? 原作はとことんリサーチ!という楽曲制作のこだわりもお聞きしました。
「月刊少女野崎くん」は、芯が面白いからこそ海外でも人気がある
――好きな漫画に「月刊少女野崎くん」 (椿いづみ/スクウェア・エニックス) を挙げていただきました。
大石昌良
僕が最初にアニソンを書いたのが「月刊少女野崎くん」 (椿いづみ/スクウェア・エニックス) だったので、そういった意味でも思い出深い漫画です。ジャンルとしてはラブコメだと思うんですけど、コメディ要素の方が断然強いですよね(笑)。この漫画では、キャラたちが付かず離れずの関係を続けていて、恋愛が成就しないところがまたいいんです。普通、ラブコメになると“ラブ”の方に寄りがちですけど、主人公の野崎梅太郎(のざき うめたろう)くんが漫画家なので“漫画家あるある”みたいなエピソードを取り入れているのも面白いなあと思います。
最初、アニメの主題歌を書くと決まった時に、「女性人気のあるコンテンツなんですけど…」と申し訳なさそうに言われたんです。でも蓋を開けてみたら「月刊少女野崎くん」 (椿いづみ/スクウェア・エニックス) で、女性も男性も同じくらいファンがいらっしゃる作品でした。
――「月刊少女野崎くん」 (椿いづみ/スクウェア・エニックス) の中で、一番好きなキャラは誰ですか?
どのキャラも好きですけど、やっぱり佐倉千代(さくら ちよ)ちゃんですかね。千代ちゃんって、実は海外人気もすごく高いんです。海外でライブを行うことも多いんですけど、千代ちゃんのコスプレの子を何人も見かけました。
海外の方は、日常ものよりも異世界ものを好きな人が多いので、日本の漫画でも圧倒的に人気があるのは「NARUTO―ナルト―」 (岸本斉史 スコット/集英社) や「DRAGON BALL」 (バードスタジオ/集英社) なんです。なので、日常を切り取った「月刊少女野崎くん」 (椿いづみ/スクウェア・エニックス) のような漫画のコスプレをしてもらうのは珍しいんですよ。でも、この漫画に関しては、どこの国に行っても結構コスプレしていらっしゃる方がいました。
「月刊少女野崎くん」 (椿いづみ/スクウェア・エニックス) のような日本の日常系コメディ漫画が海外に波及してるのは、本当に面白い作品だからなんでしょうね。あとは、キャラの可愛さやキャラたちの相関図が、海外の方から見てもそそられるんだろうなって思います。
――確かに、個性豊かなキャラが多いですね。
御子柴実琴(みこしば みこと)もいいなって思いますね。彼だけ特定のカップリングがいないから、多分一番報われないんだろうなっていう、あの感じがたまらなくいいんですよね。
あと編集者の前野蜜也(まえの みつや)さんも大好きです。
――彼も自由人でいいキャラしてますよね。でも実際にいたら腹が立ちそう(笑)。
でしょうね。「月刊少女野崎くん」 (椿いづみ/スクウェア・エニックス) で主題歌を歌ってから、一時期、音楽配信サイトのレビュー欄に「前野」という名前のコメントが増えたんですよ。1位を取ったりすると「僕のおかげですね」「僕の言う通りにしたからですね」みたいなコメントがたくさん。そういう冗談を共有できるのはすごく面白かったですね。
――ファンの方々も皆さんノリがいいんですね。「月刊少女野崎くん」 (椿いづみ/スクウェア・エニックス) で、特に好きなエピソードはありますか?
漫画の中でどうやって二人乗りの描写をするか、というのを野崎くんと千代ちゃんで試行錯誤する回です。普通の自転車で二人乗りをすると法律違反になってしまうから、じゃあこれでいいだろう!って。あれって絵的にもすごく笑えますけど、実は世間の過剰なコンプライアンスに対する皮肉なんじゃないかと、僕は勝手に思っているんですよ。
- 少年漫画 月刊少女野崎くん
- 4.6 (357件)
僕も楽曲を世に生み出しているので、表現についていろいろ思うことがあるんです。例えば歌詞にしても、偏った意見だとか言われて非難を受けることもよくあるじゃないですか。
「月刊少女野崎くん」 (椿いづみ/スクウェア・エニックス) では、気を遣うことが増えて、表現の幅もどんどん狭くなって…っていう現実を面白おかしく描いてるのがスカッとしますよね。制限されることに対して窮屈さを感じずに、逆に制限されることをネタにして笑いに変えている感じが、すごくスマートでかっこいいなと思うんです。あの漫画の面白さはそういうところにあるのかな、と感じた瞬間でもありました。
漫画でもリアルでも、めんどくさい女の子が好き!
――他にお気に入りの作品として挙げていただいた「彼女、お借りします」 (宮島礼吏/講談社) も、ラブコメ要素の強い漫画ですね。
「彼女、お借りします」 (宮島礼吏/講談社) は…ヤバいですよね。大学生のモテない、冴えない男の子の恋愛物語という感じが、生々しくて苦しいです(笑)。彼女がレンタルできるというサイトを使ってみたら、レンタルした女の子が実は大学の同級生だったことがわかって…というところから始まるので、設定としては物語性が強いんですけど、めちゃくちゃ面白いです。大学生ならではの劣等感や、女性に対するコンプレックスとか、共感できます。
――大石さんも、かつては女性へのコンプレックスを抱えていたんですか?
全然持ってましたよ! コンパの描写や、その時の女の子に対する心の模様とか、身に覚えがありすぎて辛いです(笑)。男の子が女の子に対して持つ、ちょっとお下劣な気持ちも描かれてたりするんですけど、そのへんもリアリティあるな、と感じますね。18~22歳くらいって、ちょうど血気盛んな年齢だと思いますし。
――元カノの七海マミ(ななみ まみ)ちゃん、すごく怖くないですか?
マミちゃん超怖いですよね。でも、僕ああいう子大好きなんです。突然家に来て「来ちゃった」って言いそうな女の子。そういうめんどくさそうな子、リアルでも好きなんですよね。
――リアルでそういう女の子が好きだと苦労しそうですね。
苦労するんでしょうね…それでもめんどくさい人が好きだと思います。
こうやって漫画で展開される恋愛と自分の恋愛を重ね合わせる、パズルのピースをはめ込むような楽しさを感じられるのも、恋愛を描いた漫画の面白いところですよね。
――「彼女、お借りします」 (宮島礼吏/講談社) で好きなシーンはありますか?
ヒロインの水原千鶴(みずはら ちづる)に、「彼女の夢のために何度もレンタルする、そのためにどれだけでも働くから」と言うシーンがあるんです。「だから諦めるなんて言うなっ!!!」って。
- 少年漫画 彼女、お借りします
- 3.5 (1234件)
都内在住のダメダメ大学生、木ノ下和也(20)。ある日、“ワケアリ”の超絶美少女、水原千鶴との出...
こういうことを本気で言っちゃう、主人公の無邪気で真っ直ぐな感じがヒロインの心に響いてると思うんです。そういうのを見ると「くっそー、俺も大学生の時これくらい言えてたらな」とか思いますよね(笑)。主人公がダメ男なのに、いちいちカッコイイところも好きです。
大石昌良
学園ものは大人にとってのファンタジー
――恋愛漫画は結構読まれるんですか?
キュンキュンするのが好きなので、恋愛ものは読んじゃいますね。「ニセコイ」 (古味直志/集英社) も大好きで、アニメのオンエアも見てました。何なら主題歌の話とか来ないかな~なんて思っていましたし(笑)。
ちなみに僕の恋愛のバイブルは「BOYS BE・・・」 (イタバシマサヒロ・玉越博幸/講談社) という1話完結の漫画です。それぞれ別の主人公で、男の子と女の子が恋愛を繰り広げていくという形なんですけど、漫画雑誌を毎週楽しみに読んでいたのを覚えています。
- 少年漫画 BOYS BE・・・
- 3.6 (71件)
恋愛漫画のバイブル、BOYS BE…。ひと夏の恋、甘い思い出となった恋、これから始まる恋。さま...
――今連載している少年誌の恋愛漫画には、面白いものが多いですよね。「ぼくたちは勉強ができない」 (筒井大志/集英社) とか。
「ぼくたちは勉強ができない」 (筒井大志/集英社) はすごく面白いですよね。僕は緒方理珠(おがた りず)が大好きです。寡黙な感じがすごくタイプ。
- 少年漫画 ぼくたちは勉強ができない
- 4.2 (65件)
大学推薦を狙う、高校3年生の唯我成幸(ゆいがなりゆき)はなぜか天才美少女の文乃(ふみの)と理珠...
ああいうちょっと無神経で鈍感な男主人公のハーレム漫画の系譜は、「うる星やつら(新装版)」 (高橋留美子/小学館) の諸星あたる(もろぼし あたる)から始まったんでしょうね。これはもう男心というか、モテたかった精神をくすぐられます。
そういえば、僕が個人的に調査してみたことがあるんですけど、今アニメ作品の7割程度が学生モチーフなんですよ。
――7割はすごいですね。
何でだろうと友だちと話してたんですけど、「学生の頃って、色々とやり損ねたことや、伝え損ねたこととかたくさんあったじゃん。大人になってそれを取り戻そうとしてるんじゃないかな」という結論になったんです。「月刊少女野崎くん」 (椿いづみ/スクウェア・エニックス) もそうですけど、学生時代の日常が描かれていても、僕ら大人にとってはもう戻ることができないファンタジーの世界なんです。だから学園が舞台なのが多いのかな、と思っています。
大石昌良
芯を持ちつつも柔軟な人間になりたい
――楽曲の作り方などからして、普段から周りに気を配るタイプですか?
基本的にはそうですね。人の目線だけを気にして生きている人間なので…アイデンティティがまったくない(笑)。でもやっぱり周りの意見や考え方って参考になるじゃないですか。自分の知らない世界を皆さんが教えてくれるので、尊敬しますし、新たな発見ができるのは楽しいです。
――アイデンティティがないとおっしゃいますが、どんな人間になっていきたい、という理想はありますか?
一番かっこいいと思うのは、しなやかな性格を持っている人。芯の部分は折れてないんだけど、相手に合わせることができる、そういう余裕のある人が僕の憧れだったりします。それを意識しながら、制作においてもそうだし、それこそ関わるタレントさんやパートナーにも気を配るようにしています。
――最後に、今後の活動などについてお聞かせください。
まずは今のペースを守りつつ、頑張っていきたいと思っています。ありがたいことにお声がけいただく機会が多くなってきたので、そんな中で、ちゃんと原作に向き合って、ちゃんと原作のファンになって、なおかつ自分が納得したものをクライアントさんと一緒に楽しみながら作ることができるのが理想です。だからマイペースに、自分のポテンシャルを保ちながら頑張れたらいいなと思います。
やっぱり本当に好きになれる作品とか、本当にファンになれる作品との出会いってめぐり合わせだと思うんですね。だから、そうやって面白い作品に出会えることを、個人的にすごく楽しみにしてますし、自分としてもアンテナを張れるだけの余裕を持って、ちゃんと情報交換しながら、この世界を渡っていけたらいいなと思います。
大石昌良
- 少年漫画 ブラッククローバー
- 4.4 (697件)
魔法がすべての、とある世界――。生まれながらに魔法が使えない少年アスタは、己の力を証明するため...
お仕事での関わりだけでなく、ご自身も漫画が大好きだという大石さん。作品やそのファンに真摯に向き合う大石さんの、今後の楽曲も楽しみですね!
写真:原恵美子
ヘアメイク:瓜本美鈴
プロフィール
大石昌良(おおいし まさよし)
2001年「Sound Schedule」のVo,Gtとして、メジャーデビュー。ミュージックステーションなどのTV音楽番組や多数のフェスに出演。2008年「大石昌良」としてソロデビュー後、次世代サウンドプロデューサーTom-H@ckとのユニット「OxT」を結成。TV アニメ「オーバーロード」や「SSSS.GRIDMAN」の主題歌を担当。また、アニメ・ゲーム関連の歌手活動などでは「オーイシマサヨシ」として活動。作詞、作曲を担当したTVアニメ「けものフレンズ」の主題歌「ようこそジャパリパークへ」が大ヒット。2019年1月放送開始のTVアニメ「けものフレンズ2」のオープニングテーマ「乗ってけ!ジャパリビート」の作詞作曲も担当など、今大注目のシンガーソングライター。
◆大石昌良 公式サイト
◆Sound Schedule 公式サイト
◆OxT 公式サイト
◆大石昌良 公式Twitter
https://twitter.com/masayoshi_oishi?lang=ja
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