大人こそ泣ける「BLUE GIANT」を読んでもう一度あの頃の夢を見よう

大人こそ泣ける「BLUE GIANT」を読んでもう一度あの頃の夢を見よう

更新日:2017/05/19 10:00

何かに没頭した熱い気持ちを思い出し、心を奮い立たせたいあなたに朗報です!!

書店員を中心とした有志による選考委員・実行委員が選ぶ「マンガ大賞2016」の第三位に選ばれた「BLUE GIANT」 (石塚真一/小学館) は、サックスで世界一のジャズプレーヤーを目指す青年が主人公のジャズを題材とした音楽作品です。

 BLUE GIANT表紙(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

何かに必死に打ち込む若者の姿、誰かの為を想って一生懸命になる姿、懐かしいあの頃のがむしゃらに走った姿、音が聞こえてくる演奏の姿…。

「泣ける」との声が多数あがるこの作品の魅力はいったいどこに潜んでいるのかを、今回はあらすじおよび演奏シーン別に紹介をしていきます!!

ジャズってどんな音楽?

ジャズとは、19世紀末から20世紀にかけて、米国南部で「黒人の民族音楽」と「白人のヨーロッパ音楽」が融合して生まれた音楽です。独特な躍動感のあるオフ・ビートと、即興演奏が特徴的な音楽ジャンルと言えます。

躍動的なオフ・ビートのリズムやノリ、そしてそれが即興演奏となって繰り広げられたとき、すばらしいジャズの世界が広がります。

「BLUE GIANT」の登場人物

本作品が多くの人の心を動かすのは、ジャズに魅せられ、ジャズに対して熱い気持ちを持った登場人物たちの魅力が大きい要素でもあります。

今回はジャズプレーヤーを目指す宮本大を中心に、それまで出会ってきた登場人物たちを紹介していきます。

世界一のジャズプレーヤーを夢見る主人公・宮本大

本作品の主人公は仙台市に住む高校生の宮本大(みやもと だい)。友達の誘いで偶然に出会ったジャズ音楽に魅せられてから、テナーサックスの練習にひたすら打ち込んでいきます。

 友人の誘いでジャズに出会った大(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

大はその後、あるきっかけで出会った「由井」という男性に才能を見出され、サックスを教えてもらうことになります。

大が出会ってきたジャズに魅せられた人物たち

 大の「小さい芽」について語る由井(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

由井は普段は音楽教室を開いて生計を立てているが、かつては渡米してジャズに没頭した過去を持っている人物。そして大の音楽に才能を感じた由井は、無料でサックスを教えることになり、大の「小さな芽」を認め、仙台を離れる大を力強く見送ります。

 大の東京行きを力強く見送る由井(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

由井や家族への別れを告げて上京した大は、その後東京のライブ会場で沢辺雪祈(さわべ ゆきのり)というピアニストに出会います。

 ピアニスト沢辺との出会い(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館
 大をコンビに誘う沢辺(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

沢辺は4歳からピアノを始めた実力と非凡な才能を持ち合わせており、東京で出会った大のテナーサックスの響きに才能を認め、コンビを組まないかと誘います。こうして大はジャズバンドとしての音楽活動に取り組んでいくことになります。

一方、大の同級生である玉田(たまだ)は、大の「一途に打ち込む姿」に感化され、全くの素人からドラムにチャレンジをすることになります。

 ドラム練習に打ち込む玉田(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館
 ドラム練習に打ち込む玉田(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

玉田は、大や沢辺との実力差に負い目を感じながらも、その二人に少しでも追いつこうと必死の努力を重ねていきます。

トリオで挑んだ初ライブでは、玉田の実力は圧倒的に見劣りしていましたが、初めは見下していた沢辺もその努力を認め、大もいいライブだったとうなずきます。

 玉田のドラムを「悪くない」と言う沢辺(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館
 初ライブを「いいライブだった」と言う大(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

こうして大・沢辺・玉田のトリオによる「JASS」というバンド活動が始まりました。

どんなとき、どんな場所でも練習をする!

この作品の魅力のひとつに「何かに必死に打ち込む姿」の描写があります。

大はテナーサックスに魅せられてから、練習を毎日欠かさないのですがその練習はどんなときどんな場所であろうとやり続けるのです。

たとえ炎天下の真夏の日であろうと…

 炎天下のなかサックスの練習を続ける大(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

大晦日の大雪の日であろうと…

 大晦日の大雪の日でも練習する大(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

大はジャズに打ち込む、その時、その瞬間にいつも一生懸命です。

そして大は、同級生にジャズの良さを聞かれたときにこう話しました…。

 ジャズ音楽の良さを同級生に語る大(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

「その日、その時、その瞬間のメロディーをかます!!毎日違う!!ハゲしくて自由な音楽がジャズ!!」

その時、その瞬間の演奏者の「感情」が、ジャズの「音色」となって表現され伝わったとき、人々の「感情」を揺さぶります。

感情が音色となって届く瞬間の演奏シーン

今回は、大が話すジャズ音楽の「その瞬間のメロディー」というものを、3つの演奏シーン別に紹介していきます…。

演奏シーン1「親友に贈るまっすぐなメロディー」

ひとつめに紹介するのは、大が高校時代に同級生に贈った演奏シーン。

大の同級生「光明」

大には中学生時代から共にバスケを続けてきた光明という親友がいました。

しかし高校三年生のある日、光明は親の事情で仙台から九州への転校が決まったことを大に打ち明けます。急な転校で、その話を打ち明けた来週には仙台を離れることに…。

 転校のことを大に打ち明ける光明(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

そんな状況のなか、大はひとりで光明の送別会として親友を見送ることに…

親友を想って見送る送別会

大は光明を様々なところに連れて遊びまわり、最後にやってきたのはカラオケボックス。

そこで大は自分のジャズプレーヤーの夢を語り、光明に精一杯の気持ちを込めてサックスの演奏を始めます。

 光明の送別会としてサックスを吹き始める大(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館
 光明の送別会としてサックスを吹き始める大(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

精一杯の気持ちを込めたサックスの音は、カラオケボックス内に響き渡ります…。

親友からの音のプレゼントに光明は…

大からの精一杯の気持ちがこもったサックスの音は、光明の心を打ち、ついにあふれた気持ちは涙となって流れ落ちます…。

 大のサックスの音色に涙があふれ出す光明(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

誰かを想う精一杯の気持ちと、心に直接響くような強いサックスの音が今にも聞こえてきそうなこのシーンは、「感情」が「音色」となって「誰か」に響く瞬間を確かに描き切った場面でした。

演奏シーン2「ちっちゃい兄ちゃんが贈る別れのメロディー」

ふたつめに紹介するのは、大が仙台を離れ東京行きの決断を家族に伝える演奏シーン。

大の妹「彩花」

大はジャズプレーヤーになるために東京行きを決断し、そのことを家族に伝えます。

大には「雅之」という兄と「彩花」という妹がいます。彩花は二人の兄の長男である雅之を「でっかい兄ちゃん」、次男の大を「ちっちゃい兄ちゃん」と呼ぶ可愛い女の子です。

優しい雅之のことを大好きと話す一方、喧嘩ばかりしていた大のことは嫌いと言いながらも、いざ大の東京行きの話を聞いてからは、その寂しさを隠すように突き放すような態度をとってしまいます。

 大の東京行きを素直に受け入れられない彩花(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

家族会議を開き、そして仙台を離れる前に大は、初めて家族にサックスを披露します…。

初めて家族に聞かせるサックスの音色

家族会議のあとに雅之からの提案によって初めて自分の家族にサックスの音を聞かせることになった大は、東京行きの家族の心配を吹き飛ばすかのような大きく長い音を響かせます…。

 初めて家族にサックスを披露する大(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

力強いそのサックスの音は、父、雅之、そして彩花の心に響いていきます。

ちっちゃい兄ちゃんは帰ってこないんだ

「ちっちゃい兄ちゃんはどうせすぐ戻ってくる」

寂しさや悲しさから、ついついそっけない態度を取ってしまった彩花でしたが、ちっちゃい兄ちゃんが決してジャズを中途半端に取り組んでいないこと、まっすぐに前を見つめて取り組んでいることを、小学生ながらも確信し、そして抑えていた涙があふれ出しました。

 大のサックスを聴き入る彩花(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館
 大のサックスを聴いて涙が流れる彩花(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

大切な人との別れと新しい旅立ちは、大の力強く長いサックスの音をもって切り替わりました。

サックスを知らない家族たちにも、大の「想い」が確かに「音色」となって伝わったこのシーンは、ジャズの音楽が誰にとっても心を打つことができることを知る場面でした

演奏シーン3「一人でも多くの人に聴いてほしいメロディー」

最後に紹介するのは、ジャズフェスに参加したJASSの演奏シーン。

一人でも多くの人に…

ジャズフェスに参加をする機会を得た大・沢辺・玉田のトリオ「JASS」。

モード系ジャズグループでは名の知れている「アクト」というバンドのトリのひとつ前、いわゆる前座の順番でまわる状況下でも、誰一人として尻込みすることなく「アクト」を超えようと奮闘します。

 アクトの中心メンバーである天沼に対し、自身の音楽性を堂々と語る沢辺(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

事前の出演者打ち合わせに参加した沢辺は、「アクト」の中心メンバーである天沼の、若者バンドを揶揄するような態度に対して、堂々と自分たちの音楽を語りました。

トリオそれぞれのソロに想いを込めて

いよいよ「JASS」のライブが始まり、まずは大のテナーサックスのソロからスタート。

大音量のサックスで観客の注目を集め、一気にジャズの世界に引き込みました…。

 大のソロシーン(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館
 大のソロシーン(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

3分ほどの長時間のソロに続いて、次は沢辺のピアノのソロが始まりました。
10代とは思えない実力と、熱い気持ちでノリの良い演奏はさらに観客を引き込みます…。

 沢辺のソロシーン(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館
 沢辺のソロシーン(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

そして最後に大は、ドラムの玉田にもソロのアイコンタクトを送ります。

今まで実力差に負い目を感じていた玉田でしたが、二人に追いつこうと必死に努力をしてきた成果を、ライブの舞台のソロという大一番で発揮をします…。

 玉田のソロシーン(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館
 玉田のソロシーン(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

三人が魅せた想いを込めた「音色」

まだ名の知れていない、それも10代トリオの「JASS」の演奏でしたが、演奏が終わったとき、若者バンドと揶揄した天沼もその実力を認め、観客の拍手も鳴りやみませんでした…。

 JASSの演奏に心躍る観客たち(BLUE GIANT)
BLUE GIANT
(c) 石塚真一/小学館

「一人でも多くの人に聴いてもらいたい」という沢辺の意気込みから始まった、この三人のソロ演奏シーンは、「何かに一生懸命に取り組む美しさ」や「音楽が人の心を揺さぶる瞬間」をかたどるような素晴らしい場面でした。

独特な躍動感と即興演奏による自由な音楽「ジャズ」の世界。

ジャズと聞くと難しい音楽のイメージを持つ方もいますが、この作品は音楽技術の表現よりも、「音楽が人の心を揺らす瞬間」の表現が強く、ジャズの素晴らしさや、音楽の楽しさの描写をわかりやすく読者に伝えてくれるのです。

そしてなにより「自分の信じた夢にまっすぐ突き進む」登場人物たちの姿を見ていると、下の世代には刺激を与え、上の世代には懐かしさを与えてくれることが、巷で「泣ける」と多くの人の心を揺さぶる理由なのだと思います…。

ジャズを題材にした音楽作品「BLUE GIANT」 (石塚真一/小学館) を読んで、誰しもが持っている「熱い気持ち」をもう一度奮い立たせてみてはいかかでしょうか。

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作者

アナゴ

アナゴ

「アナゴさんの%表示マンガ感想」というマンガ紹介ブログを不定期に更新中。インドア趣味がマンガで、アウトドア趣味がロードバイクの1988年生まれ。好きな漫画家は「荒木飛呂彦先生」「福本伸行先生」「浅野いにお先生」「柴田ヨクサル先生」です。面白いマンガには「リアリティ」がある。それは「世界観に引きずり込む力」。そういうマンガに出会えたとき、マンガを読み続けて良かったと心から思えます。

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