徹底解説!生贄投票 ―“生贄”には“社会的死”が与えられるスマホアプリ
更新日:2016/10/26 10:00
学校内の人気の序列を表現した言葉「スクールカースト」。インターネットの普及と合わせて使われるようになり、今では社会学や教育学の研究者の間で研究対象ともなっている言葉です。容姿の美しさや恋愛経験の豊富さ、コミュニケーション能力の優劣などで上下関係がシビアに決まってしまうこの人間模様、中高生時代に体験したことがある方はかなり多いのではないでしょうか。
今回紹介する作品は、このスクールカーストをつぶさに描いた漫画「生贄投票」 (江戸川エドガワ・葛西竜哉/エブリスタ・講談社 ) です。
ストーリーは、高校二年のあるクラスに突如として出現したスマホアプリゲーム「生贄投票」が、とんでもない波乱を引き起こすというシンプルなもの。……なのですが、このゲーム、ルールが少し変わっていて、まずクラス内の投票で「生贄」が選ばれます。投票は無記名なので、同カースト内で裏切りが起きたり、カースト下位が上位に逆襲したりする現象が頻繁に起こります。なぜそんなにドロドロしているのか? それは、「生贄」は課題をクリアできないと、「社会的死」を受ける――人様にとても言えないような恥ずかしい秘密をネットに拡散されてしまうからです!
そんな、悪意渦巻くデスゲームの模様を、カーストに力点を置きながらたっぷりとご紹介いたします。
「生贄投票」 (江戸川エドガワ・葛西竜哉/エブリスタ・講談社 ) は、『デスペナ』(押川雲太朗・江戸川エドガワ/講談社)で一躍有名となった漫画家・江戸川エドガワ先生が『eヤングマガジン』に2015年12月から連載しているコミカライズ作品です。原作は、小説投稿サイトに葛西竜哉先生が投稿した同名小説で、こちらも現在連載が続いています。
それでは内容紹介に入っていきましょう。
クラスの女王様の●●動画が流出!最初のターゲット入山環奈
主人公・今治美奈都(いまばり みなと)は、私立柳沢高校に通う高校二年生。今日もアプリをいじったりネット記事を読んだりしながら登校中です。
美奈都がクラスで属しているのは、入山環奈(いりやま かんな)を頂点とするカースト上位グループ。クラスのアイドルかつ雑誌の読者モデルとして活躍し始めている彼女は女王様的存在で、転校生の美奈都はいわば従者のような扱いを受けています。つまり、カースト内でも上下関係が形成されているわけです。
コミュニケーションアプリ「マイン」(LINEと同様のものと考えていただければ良いです)でも、美奈都からのメッセージに対して環奈は「既読無視」するだけ。
さてその日の深夜零時、いつものようにアプリゲームをやっている美奈都のスマホに、こんな画面が表示されます。
ホームボタンも再起動も使えなくされ、次に表示されたのはクラス全員の名簿。興味を引かれた美奈都はこのアプリの説明を読み始めます。
投票により選ばれた者は24時間以内に課題をクリアできなかった時“生贄”とする
“生贄”には“社会的死”が与えられる
名簿は自分の名前をタップすることはできず、自分以外の誰かを“生贄”として選ばなければいけないようです。
美奈都は不気味に思いつつも、かねてから不満を抱いていた環奈に投票します。すると、「結果発表は今日の正午」との文字が。
「マイン」のクラスグループをのぞくと、みんなも同じように「生贄投票」が来ていたようです。
美奈都には返事をしないくせにクラスグループでは発言する環奈に、複雑な表情を浮かべます。
翌朝、学校に登校すると、案の定「生贄投票」の話題で持ちきり。しかも、誰に投票したかで何やらただならぬ雰囲気が漂っていました。
そして結果発表。最多票は9票で、選ばれたのは入山環奈だと発表されます。24時間後に「社会的死」が待っているという宣告とともに。
9人ものクラスメイトから嫌われていたと知り、アプリの気味の悪さも相まって苛立ちをあらわにする環奈。と、その時、社会的死を回避する課題が明らかにされます。
生贄は10万回、その他の者は1万回タップすれば回避可能……。
軽い気持ちで票を入れてしまった罪悪感から、美奈都は環奈を手伝うことを志願し、その夜から必死のタップ作業を行います。しかし、アプリからの途中経過報告によると、環奈のグループ以外の生徒はほとんどタップしていないことが判明。
美奈都の罪滅ぼしの思いやむなしく、翌日の正午、環奈に社会的死が与えられます。
環奈がホテルで男と情事にふける映像のネット拡散とともに。
“社会的死”の内容に静まり返るクラス内。茫然自失となった環奈は学校を飛び出し、追いかける美奈都でしたが、環奈は校門の前で車に撥ねられ惨たらしく死亡。
そして「生贄投票」のアプリ画面には、6日後の午前零時に次の投票があることの告知が表示されるのでした……。
クラスの中心的人物が実はマザコン!?ママに●●してもらっている柴田康介
なんと言いますか、恐ろしいというか、非常に強制力のあるアプリゲームですが、ここで補足しておくと、このアプリがもたらすのはあくまで社会的死であり、環奈の死は彼女の絶望のあまり起きた悲劇であって、アプリの力ではありません。念のため。
さてさて、環奈の葬式後、まだまだ続くであろう「生贄投票」に対し、クラスの中心的人物である柴田康介(しばた こうすけ)が、こんな提案をします。
「次の投票が来ても全員無視するんだ。全員で無視すれば投票はすべてカウントがゼロ――誰も“生贄”に選ばれないってことさ」
この言葉に、クラスは賛成の声を上げます。
その夜、美奈都の家を柴田が訪問します。聞くと、行ける範囲でみんなの家を回って、一人一人直接言葉をかけているとのこと。まさしくカースト上位の、素晴らしいイケメンです。
しかしながら、彼の策は敗れ去ります。自分自身が最多票を獲得するという現実をつきつけられて。
クラスの中の裏切り者の存在に怯えつつ、その日の夜、回避のタップをする美奈都。すると、突然、「生贄投票」のマスコットキャラがしゃべり始めます。
……なんとも気色悪いキャラクターです。(名前は「生贄くん」だそうです。)
このコマからもわかるとおり、社会的死とは、人様の前でとても言えないような恥ずかしい秘密の拡散のことです。個人情報や画像・映像流出が話題を呼ぶ今の時代では致命的と言っても過言ではないかもしれません。
そして、翌日、クラス全員のうち5人が指定回数を満たさなかったので、柴田康介に社会的死が与えられます。彼の秘密とは、誕生日のお祝いで母親に…この先はあなたの目で確かめてください。
彼は翌日から不登校となるのでした……。
教室内でいつもイチャイチャしている香川怜に、底辺男子の魔の手が…
ゲームはその後、さらなる犠牲者を出して、クラス全体に疑心暗鬼が広がり始めます。教師陣もおかしいとは感じているようですが、どうも及び腰。
暗いムードの中、こっそりと名乗りを上げたのは、カーストの最底辺にしてクラス一番の嫌われ者、江留巌(えどめ いわお)でした。
スクールカーストの下の者の逆襲として、自分たちが手を組んで常に多数派となれば、投票をコントロールすることができる。そしてその標的はカースト上位の人間。彼は有志をつのり、最初のターゲットを選びます。それは、教室内でいつもイチャイチャしているカップルの一人・香川怜(かがわ れい)。
半狂乱となる怜。彼氏・菊川光司(きくかわ こうじ)もフォローに回って回避のタップを呼びかけます。そこに目を付けた江留巌は、体を目当てに彼女に接近します。
……これまた気持ちの悪い奴です。胸糞悪いことに彼は怜と体の関係を結び、さらに有志にこの取引の現場を隠し撮りさせて、カップルを引き裂くことまで成功させてしまいます。
おまけに当然のごとく課題はクリアされず、怜は自宅での露出自撮り映像が流されてしまいます……。
「カーストの上位を 喰ってやった ざまあみろ!」と喜ぶ江留巌。そして次のターゲットとして、美奈都に視線を向けるのでした……。
続きが気になるところですが、コミックの連載はまだ始まったばかりでこれ以上はネタバレになってしまうので、内容紹介はここまでとしておきます。入り乱れる思惑や、スクールカーストを絡めた足の引っ張り合いの様子がお分かりいただけたかと思います。
人に言えないような秘密というのは、誰しも一つや二つ持っているもの。それが晒されるというのは、ある種死ぬより恥ずかしく辛い現実かもしれません。その恐怖を、これまた生々しいスクールカーストの現実とともに描き出した「生贄投票」 (江戸川エドガワ・葛西竜哉/エブリスタ・講談社 ) 、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。