独占漫画家インタビュー:あずみきし「“死んでないお役所”から生まれた“死役所”」

独占漫画家インタビュー:あずみきし「“死んでないお役所”から生まれた“死役所”」

更新日:2017/09/08 10:00

「死役所」で連載デビューを果たした漫画家・あずみきしさんに独占インタビュー!「月刊コミック@バンチ」で連載中の本作は、この世とあの世を繋ぐ“役所”を舞台に死者の人生を描くというもので、大きな反響を呼んでいます。“自殺申請書”のアイディアを思いついたキッカケとは!?

青年漫画 死役所
あずみきし
評価:4.3 4.3 (18961件)
  • メディア化
  • 殿堂入り

お客様は仏様です。此岸と彼岸の境界に存在する、死役所。ここには、自殺、他殺、病死、事故死……す...

シ役所職員・総合案内のシ村(しむら)

シ役所職員・総合案内のシ村(しむら)

死役所
(c) あずみきし/新潮社

――多くの反響を呼んでいる「死役所」 (あずみきし/新潮社) ですが、実感はありますか?

実のところそんなに実感がなく、わりとのほほんとしています。貯金もしています。将来のために。

――死後、成仏するための役所があるという設定は、どのように思いついたのでしょうか?

昔からドラマや映画で簡単に人が死ぬシーンがあると、「この人にも、家族や人生があったんだよなあ…」と考えてしまう癖があり、漠然と「いつかこの死んだ人達にスポットを当てた漫画を描きたい」と思っていました。連載を始める前“人が死んでない方のお役所”で働いていて、申請書の手続きをしている時に、ふと「自殺申請書っていう書類があったら嫌だな」と思ったことがあります。そんな思いがマッチングして生まれたのが「死役所」 (あずみきし/新潮社) という作品です。

“自殺申請書”を書かされる自殺者

“自殺申請書”を書かされる自殺者

死役所
(c) あずみきし/新潮社

役所の仕事はとにかく杓子定規で、自分の性には合わなかったのですが、働いていたことがキッカケでこの作品が生まれたので、勤めてよかったと思っています。

お役所仕事で進められる文書処理

お役所仕事で進められる文書処理

死役所
(c) あずみきし/新潮社

――オムニバス形式でストーリーが進んでいきますが、特にお気に入りのエピソードはありますか?

第25~26条の「彫刻さん」は、ホームレスの彫刻さんと、彫刻さんを社会復帰させたい役所の新人・広本つかさ(ひろもと つかさ)の物語です。このストーリーは連載が決まる前から考えていて、丸々1ページ使ったあのシーンが描きたくて出来た話なので、形にすることができて嬉しかったです。

彫刻さんの残した千体地蔵

彫刻さんの残した千体地蔵

死役所
(c) あずみきし/新潮社

ちなみにあの話に出てくる山田(やまだ)補佐は、自分が役所で働いていた時の上司をモデルにしています。味のある顔をした人でした。

やる気が溢れる新人・広本と、山田補佐

やる気が溢れる新人・広本と、山田補佐

死役所
(c) あずみきし/新潮社

――周りの人をモデルにして、キャラ作りをすることが多いのでしょうか?

周りの人の言葉をストーリーに組み込ませたり、色んな視点を持って描くように心がけています。

第35~36条の「母」で、不妊治療を経てようやく子を授かった妊婦・荻野泉水(おぎの いずみ)がお腹の中の子どもに「お母ちゃん」と呼ばせたがるエピソードがあるんですが、これは友人の女性の言葉が元になっています。息子さんに「お母ちゃん」と呼ばれる友人が「あたしはママなんて似合わないから~」と言っていたのを気に入って、使わせてもらいました。

友人女性のセリフを元にしたシーン

友人女性のセリフを元にしたシーン

死役所
(c) あずみきし/新潮社
死産課に連れていかれた赤ちゃん

死産課に連れていかれた赤ちゃん

死役所
(c) あずみきし/新潮社
青年漫画 死役所
あずみきし
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お客様は仏様です。此岸と彼岸の境界に存在する、死役所。ここには、自殺、他殺、病死、事故死……す...

――漫画を描き始めたキッカケを教えてください。

兄が二人いて、子供の頃からよくケンカしたり遊んだりしていました。自分が6~7歳の頃、下の兄が自由帳に「ドラゴンクエスト」に出てくるスライムに手足をつけたキャラで漫画を描いていて、それがとても楽しそうだったので真似をしたことがキッカケです。兄がスライムは自分が使っているから駄目と言うので、私はバブルスライムに手足をつけて描き始めました。なおホイミスライムは共有しました。ホイミスライムはみんなのアイドルですから。

――そこからスタートして、本格的に漫画家を目指し始めたのは?

漫画を描くということが日常になっていた頃、上の兄が漫画を雑誌に投稿するようになって、それもとても楽しそうだったので真似をして投稿を始めました。兄二人は趣味で描く程度でしたが、私はのめり込み、プロを目指すようになりました。今は“死”をテーマにした作品を描いていますが、昔はほのぼの日常系の話を描くことが多かったです。

ひたすら投稿を続けたのですが、まあ賞が取れませんでね。初投稿で賞を取った人の話なんて聞いた日には、嫉妬と羨望が止まりませんでした。

ある日、元々好きなジャンルではあったブラック系の話をふと描いてみたところ、今の担当さんに気に入っていただきまして、数作の投稿後、無事に連載が決まりました。担当さんには本当に感謝しています。人間的にはゲスいですが、仕事は出来る人です。

――デビューするまでに、どのくらいの作品を投稿していたんですか?

数えてみました。わかるかぎり、40作以上1300ページ以上投稿していました。デビューには至らない小さい賞を取った作品も一応あります。自分は才能ではなく努力の人だと胸を張って言えます。

――今の作風やご自身の人生など、影響を受けた作品はありますか?

子どもの頃から藤子作品のファンです。『ドラえもん』で育ちました。『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編 4』(藤子・F・不二雄/小学館)に収録されていた「ヒョンヒョロ」という物語を読んで衝撃を受け、ブラック系に目覚めました。“ほのぼの”と“ブラック”は我が永遠のテーマです。

今ハマっている漫画は『ダンジョン飯』(九井諒子/KADOKAWA/エンターブレイン)です。ドラクエ好きにはたまらないし、ファンタジー描写がすごすぎます。

――交流のある漫画家さんはいますか?

地方住みですし、SNSもやっていないのであまり交流はありません。

もし盛んに交流する漫画家さんがいれば、きっと趣味やら仕事の話を酒の肴にして盛り上がっていると思います。自分、下戸ですけど。チューハイ2杯で吐きます。

――今後、描いてみたいジャンルやストーリーがあれば教えてください。

未だにドラマや映画で簡単に人が死ぬと、その人の人生を考えてしまいます。最近は「この人は○○課に行くのね」という考えも出てくるようになりました。今後、自分の作品で人が死ぬたびにシ村さんの顔が浮かんできそうなので、次回作は人が死なない漫画を描いてみたいと思っています。子供とおじいちゃんおばあちゃんを描くのが好きなので、是非そのあたりを主人公にしたいです。

――めちゃコミックの2017年上半期ランキングで「死役所」が1位に輝きました。作品を楽しみに読んでいるユーザーに一言!

人は、誰しもいつかは死にます。この作品を読んで、人として当然の死を自分なりに受け止めたり、怖くなったり、もう少し生きてみようと思ったり、人生に少し感情のスパイスを加えてもらえたら嬉しいです。 あなたの人生、どうぞあなたらしく生きてください。

青年漫画 死役所
あずみきし
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あずみきし色紙

連載デビューを勝ち取るまでに、努力をし続けてきたあずみきしさん。漫画人生のルーツは、なんとドラクエのスライムでした。自身の役所での仕事経験が元になったという「死役所」、次回は一体どんな人生、死が描かれるのか目が離せません!

プロフィール

あずみきし先生自画イラスト

あずみきし

2013年より「月刊コミック@バンチ」にて、本作「死役所」を連載開始。第1話目から大きな反響を呼び、各方面から高い評価を得ている。

◆コミックバンチweb 「死役所」ページ

http://www.comicbunch.com/manga/tue/shiyakusho/

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作者

都築みやこ

都築みやこ

少女漫画から青年漫画まで、多ジャンルを好む雑食系。休日は家に引きこもり、誰かのオススメ漫画を読み漁っています。
好きな作品は「女王の花」「この音とまれ!」「賭ケグルイ」など。

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