5.0
完全無欠の細部
14年前の事件の凶悪犯が出所し、小さな集落を訪れたことから、そこで暮らす人々の人生の歯車が狂い始める、というストーリー。
あまりに素晴らしいサスペンスで、全く目が離せない。
テンポよく、スリリングで、しかも極めて安定感のある展開、みなぎる緊迫感と立ち込める不穏さ、丁寧で奥深いキャラクターの造形、サスペンス漫画として何もかもが見事だが、強烈なリアリティーを力強く支えているのは、圧倒的なレベルのディテールだ。
例えば、凶悪犯の「名前」の件。
登場時、14年前とは、名字が変わっている。
これを「偽名」だと主人公サイドは見抜くわけだが、読者サイドとしては、「そんなに簡単に名前を変えられるのか?」という小さな引っかかりは残る。
本筋とそこまで関係なさそうだし、まあいいか、と私なんかは思うのだが、この漫画は、そういう細部をツメにツメる。
「小さな引っかかり」をおろそかにせず、徹底的に拾い上げて、しかもそのディテールをいつの間にか本筋に繋げる。
この上手さを何と言えばいいのか。
私などの言葉では伝わらない。
もう、読んでもらうしかない。
些細なことと言えば些細なことだが、結局のところ、作品の完成度を左右するのは、そういう些細なことの集積なのではなかろうか。
特に、伏線がものをいうサスペンスでは、なおさらである。
その点、この漫画の気合いと緻密さは凄まじい。
「神は細部に宿る」とは、こういう作品のためにある言葉だろう。
完全無欠のディテールに支えられた、唯一無二の傑作。
サスペンス漫画ファンは、必読である。
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