ロンリーマンさんの投稿一覧

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1 - 7件目/全7件
  1. 評価:4.000 4.0

    上質のエンターテイメント

    私は少女漫画には疎いのだが、これが過去の名作の集大成的な作品だろうと思った。「キャンディ·キャンディ」や、「はいからさんが通る」等のエッセンスを汲み上げた作品なのだろう。私は小説版を読んでいないので、あくまで漫画版からの印象になってしまうが。不幸な境遇の女性が真実の愛に包まれる過程を縦糸に、超能力者の戦いを横糸にするとは、何とも贅沢なエンターテイメントだ。これから先、美世と清霞には様々な試練が訪れるだろうが、家同士の葛藤ごときは大したことではない。大震災が近づいているのが、まず気掛かりだ。まあ、美世と清霞は無事だろうが。しかし、その後には最早超能力でもどうにもならぬ悲劇の歯車が回りだす。清霞がその時も軍部に留まって居れば、前線に出る事はないにせよ、過酷な試練を受けるだろう。或いは、彼等に子供が授かっていれば、その子にも過酷な運命が待ち受けているかも知れない。
    しかし、これは後生を生きている者の驕りだろう。その与えられた瞬間を精一杯生きる、人間にそれ以上の事が出来様か?
    私は最近つくづく、劇の効用とは、最高の瞬間で時の回転を止められる事だと思う。現実の人生は決してハッピーエンドにならない。しかし、劇は素敵な瞬間で時の回転を止められる。ハンフリー·ボガートが、警察署長の肩を抱いて、去って行く瞬間で時を止められるのだ。美世と清霞も幸福な瞬間で時を止められるかも知れない。

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  2. 評価:4.000 4.0

    ビタースウィートチョコレート

    大財閥の御曹司で辣腕実業家でルックスも良い、一見非の打ち所がないのだが、日常生活はポンコツ丸出しな早瀬貴一朗と、喜怒哀楽をほとんど面に出さないが、彼のプライベートをほぼ完璧に補佐するメイドの岸さん。二人のとんちんかんなやり取りが微笑ましいラブコメだ。一見シンプルな設定だが、岸さんの出自や家族構成に関しては、伏線をちりばめながら、未だ伏せられている部分があり、読者を飽きさせないのは、巧い工夫だ。貴一朗にせよ、岸さんにせよ、一つ間違えば嫌味になりかねない設定なのに、決してそうはならないのは、二人共クールなのは表面だけで、根はお人好しの善人だと分かるからだ。
    読んで行くうちに気付いたのだが、上流階級の特別な生活を描いている様に見せて、これは古き時代のありふれた夫婦関係が重ねられているのではないか。仕事は猛烈にこなすが、家ではまるで家事の出来ない夫と、そんな夫を時にはチクリとやりながら、家庭を支えている妻。フェミニストはこれを男女差別だと決め付けて壊してしまったが、役割分担しながらお互いに尊重しあっている。そこに家族の安心出来るスペースがあったのではないか?時代の流れだから仕方ないとはいえ、この漫画を読んで、ほのぼのとした微笑ましい気分になるのは、心の故郷が込められているからかも知れない。

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  3. 評価:4.000 4.0

    制約を感じさせない滑らかさ

    ヒット作の「からかい上手の高木さん」はまだ未読だ。漫画は捕まえるタイミングが難しくて、世間で大評判になっている作品でも、すでに既刊が何十冊も積み上がっている状態になってしまうと、なかなか一から読む気力が湧いてこない。そこで同じ作者の新作「それでも歩は寄せてくる」の方を早期に捕まえて読んでみた。
    これは、いわゆる登場人物とシチュエーションを極度に限定して、主人公達の微妙なズレ方や、その場の空気感で面白味を生み出すタイプの作品なのだが、絵も展開の仕方も実に滑らかで、窮屈さを感じさせない。空き部屋を利用した自称将棋部の部員は、主人公のうるしと歩の2人だけで、時折マキやタケル、桜子といったサブキャラが顔を覗かせる事はあっても、ほとんどは二人だけのやり取りだ。しかも歩が平手でうるしに勝てたら告白すると勝手に決め込んでいるだけで、すでに二人の間に気持ちのフラグは立っている。ドラマ派の作家なら頭を抱えてしまいそうな設定だが、これが実にのびのびとしていて、無理を感じさせない。ヒット作の「となりの関くん」では、作者が本当はドラマ派で、自ら制約をかけている窮屈さも微かに感じられた。直接のヒントになったと思われる「上野さんは不器用」は、群像劇的なニュアンスが強くなってきた。それを思うと、やはりこの山本さんという人は得難い才質の持ち主なのだろう。
    ただ最近、香川凛という新入生が入部してきて、将棋部は正式な部となった。この凛という少女、顔立ちや気性が歩にかなり似ている。最初は歩の妹か親類の娘として構想されていたのではないか?
    それが単なる後輩に変わったのは、やはり三角関係に持ち込んでさざ波を立てる為だったのか。部員を増やして正式な部にする事が悲願だったうるしに対して、二人きりの空間を乱されるのを嫌がったのは歩の方だったのだが、うるしの方が気持ちをかき乱される結果になったのは皮肉だ。でも、この種の苦しみを味わうのは主人公の資格でもあるし、歩は一本気な奴だから大丈夫だよ、多分。

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  4. 評価:4.000 4.0

    恋愛禁止のアイドルへと

    昔コンビニの本棚でこの作品の1、2巻を見かけたので買ってみた。通常のグルメ漫画とは桁の違う画力を感じたからだ。一流誌で勝負出来そうな人が描くラーメン漫画とは如何なるものかと興味が湧いたのだ。期待は裏切られなかった。見事な作品だと思った。そしてこの作品はブレイクして、小泉さんはラーメンのアイコンになった。
    現在まで読み続けているが、今でも印象に残っているのは、2巻の冒頭で悠の兄修と小泉さんがそれとは知らずにすれ違うシーンだ。その時の小泉さんの表情が何とも言えなかった。そこには、現代女性の、草食化してしまった現代男性に対する怒りと失意、そしてほのかな期待が凝結している様に感じられたからだ。その時点では、いずれ恋愛要素が絡んでくるのではないかと思ったが、結局そういう事にはならなかった。ラーメングルメ漫画としてブレイクを果たした為に、そういう要素は入れ難くなったのだろう。完全に断念したのではなく、無期限延期といった感じだ。恐らく最終回近くまでは、小泉さんと修が正面から向き合う事はないのだろう。例えるなら、初期の小泉さんは「七人の侍」の勘兵衛で、志を得ぬまま放浪を余儀なくされている感じがあった。それに対して今の小泉さんは椿三十郎だ。そんな苦渋の内面はサラリと脱ぎ捨て、関心の赴くままラーメン道を歩き続け、行く先々で様々な人々と邂逅する。アイドルを卒業するまでは恋愛は御法度といった感じだ。ただ悠の精神状態には病的な部分があり、そこに作者本来の嗜好がかいま見える。小泉さん、あなたが本当に求めているのは、ラーメンではなく、別の〝何か〞なのではないか?でも今は、皆の為にラーメン道に専心してください。

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  5. 評価:4.000 4.0

    破れ鍋に綴じ蓋

    この作品がアニメ化された際、女性声優陣は上野さんのアプローチをことごとくスルーし続ける田中君を非難した。だがちょっと待ってほしい。彼は健全な男子中学生であって、ホストではないのだ。もし彼が、上野さんのご機嫌を伺ったり、乗ぜられてその気になったりする様な男だったら、そもそも上野さんは惚れたりしなかっただろう。妹達への躾方をみていれば、彼がデリカシーの無い男ではなく、上野部長に無理難題を押しつけられ、山下さんに無礼な口を利かれても、感情を表に出さず、じっと耐えているのが分かる。見上げた男ではないか。
    大体上野さんという人は、かなりの内弁慶で、先輩や同級生相手だと別人の様に顔色を伺う調整役になってしまう。同じ様に頭と運動神経が発達し、スケベな花森さんがその傍若無人さ故に優等生グループから顰蹙をかっているのも横目で見ているだろう。その上野さんが地金であるエキセントリックな性格と、好色さをぶつけても動じず、常識の範囲内に着地させてくれる田中君は、恐らく生涯二度と巡り逢えないかも知れない貴重なパートナーだと本能で直感しているのだ。田中君にとっては、ガールフレンドが南峰さんであれ他の誰であれ、さほどの影響はないだろうが、上野さんは田中君がいなければ萎れた花の様になってしまうのではないか。田中君の関心を買うという目的があってこそ、彼女の創造力は発揮されるのだ。
    ただ、余計なお世話だが、自分が先に卒業して縁が切れてしまわない様に、発明も良いけど妹さん達の家庭教師でもやって、田中家と縁を繋げといた方が良いんじゃないか。無論作品内とは関係ない事だけど。
    個人的な事だが、この作品は先行きの覚束ない立ち上がりから知っているので、愛着がある。色々なことで気持ちがくさくさしている時にこの作品を読み返すと、スーッと気持ちが落ち着いてくる。まだ未読の方は、そういう効能もあると思うので、是非読んでみてください。

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  6. 評価:5.000 5.0

    人間である事の業と哀しみ

    細かいニュアンスの解釈が難しく、まだクライマックスに達していない作品のレビューを書くのはしんどいが、体調が悪化し始めているので、今書いて置かないと後悔するかも知れないと思って書く。「浮雲」という古い名作邦画があった。戦中戦後を一組の男女が、もたれ合い傷付けあいながら破滅に向かっていく話だ。おそらく原作者と脚本家は、女性の側から見たある種の男の魔性を画きたかったのだろう。だがこの作品が深いのは、一方的に男性を断罪していない所だ。富岡に尽くすために、女性達は他の男を利用し、踏みにじっていく。人間とは、なんと生臭くて業の深い生き物なのか。それを極め付きの美男美女スターが演じているからこそ、共感の余地が生まれたのだろう。
    「娘の友達」の主人公·晃介も、やや面やつれしているとはいえ、端整な二枚目だ。だらしない姿を晒しても、不思議とこの男には清潔感があり、薄汚い感じにならない。これは作者固有の画力によるものだろう。一見すると晃介は、周囲の人々に責められ、振り回されてばかりの様に写る。しかし晃介にも悪い所がある。肝心な所で古都を突き放せず、逆に抱き寄せてしまう。まだ身体の関係には進んでいないが、彼女が自分から離れられない様にしてしまっている。この作品の深さは、「浮雲」と同様晃介や古都の父親を一方的に断罪していない所だ。彼等を非難する美也や古都の母親は、それ程しっかりしたモラルの持ち主なのか?もっと自分本位のエゴイストではないのか。
    作中の晃介氏に一つだけ問うてみたい。何時かあなたは、亡き妻の惠子や最愛の一粒種·美也よりも深く、如月古都を愛する事が出来るのか?それが「出来る」と答えられる様になったならば、世間がどんなに非難しても、私はあなたの味方になりたいと思う。

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  7. 評価:4.000 4.0

    一流のエンターティナー

    「男子高校生を養いたいお姉さんの話」と、「一年A組のモンスター」を読んで(しかしタイトルを記入するだけでくたびれるな)、感心させられたので、この婚活エッセイも買って読んでみたら、これも面白かった。ああ、ここまででもうげんなりしてきた。こんなの始めてだ。
    気合いを入れ直して書く。
    三つの作品を全く異なるタッチで書き分け、なおかつどれも質が高いというのは凄い才能だと思う。今回はこの作品に話を絞ると、これは自伝風エッセイを装った、娯楽コメディの佳作という印象を持った。実際の経験や取材を元にしているんだろうけど、かなり話を盛っている感じ。それが悪いという事では勿論ない。つまるところ読者に一時の楽しみを与えるのがプロの仕事という作者の矜持を感じた。
    いずれこの人は天下をとれる可能性があるだろう。
    上記の二作品も佳境に差しかかっている。頑張ってください。
    いやしかし、今回のレビューはたいした事は書いてないのに、妙にくたびれたな。

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