ryotoさんの投稿一覧

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1 - 5件目/全5件
  1. 評価:1.000 1.0

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    ドラマ版で主演された松本まりかさんが、インタビューで純の印象を聞かれて「惨酷な女性だと思いました」と答えておられましたが30話辺りからその残酷さが表立っていたように思います。そして最終話まで読んで、この物語はその残酷さを全肯定する為の物語なのだと感じました。純の残酷さは「他者感情への想像力の欠如」から来ているように思います。自分の言動が相手にどんな影響を与えるのか、どんな感情にさせるのかにとても鈍感。だから何でも自己完結で問題を曖昧にしてしまう。アポなしで取引先に突撃してしまったり、武頼の体調不良に気付かない辺りにもその鈍感さが表れています。細やかな配慮や気遣いが必要な渉外の仕事よりガンガン営業の新しい仕事の方が向いているというのも頷けます。
    一番その残酷な鈍感さが顕著なのは何といっても39話の真山くんとのキスシーン。
    性的に興奮して心拍や血圧が上がっている状態で唐突な拒絶、そして「キスしたかっただけ」のショッキングな言葉。真山君の脳には非常に強いストレスがかかったことでしょう。衝動的にベランダから飛び降りてもおかしくない状況です。少なくとも女性や恋愛へのトラウマは植え付けることになるでしょう。しかも借りたばかりの部屋。フラッシュバックが起こるからと借り直しの必要だってあったかもしれません。出社だって難しくなるかもしれない。でも、純は真山君が今後被るかもしれない困難より自分の欲を優先できてしまう。
    このシーンは性欲の捌け口にするという意味で男性への性搾取に感じて、個人的にとても不快な気持ちになってしまいました。以前、女性から性被害を受けた少年や男性の手記を読んで、そこに男性の性被害は心の傷が理解されづらかったり被害状況を矮小化されてしまうがちという、被害男性たちの二重に苦しい胸の内が綴られていて、それを少し思い出してしまいました。性被害とは違いますが、結果的に相手の恋心を利用して自分の欲を満たす搾取の行為。それが誰からも非難されることなく、むしろ女性側の心に寄り添うかような描写。真山君は性搾取をされても純を想い、最後には「ありがとうございます」とさえ言う献身さを見せ純の残酷さを肯定してくれます。武頼も、純が経済面、他者貢献感の面であれほど苦しんだ主夫(婦)という立場にすんなりなってくれるという献身。純の鈍感な魔性に男性達が虜になるお話のように、最後は思いました。

    • 66
  2. 評価:5.000 5.0

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    本作は、毎回きれいなカラー表紙があるのが素敵ですね。以前は黒い花を咥えていた沙織さんが、今回は
    白い花を手にしている。本作はこういった時間の推移による変化の対比表現が細やかです。
    以前は、咥えていた黒い花が次の回の表紙で武頼の肩の上にのっていましたが、今回は沙織さんの白い花がどうなるのが気になります。

    私は電子で買いつつ、単行本も購入させて頂いているのですが(笑)単行本の表紙には毎回花が登場し、その存在、対比も意味深です。

    例えば5巻と6巻。
    5巻は純と武頼のツーショット。二人の周りには青(紫)のアネモネがあります。6巻は純と真山くんのツーショット。こちらは純がピンクのチューリップを手にしています。
    青のアネモネの花言葉は「あなたを信じて待つ」。
    ピンクのチューリップの花言葉は「愛の芽生え」。

    注目したいのは、純が青のアネモネには触れていないという点。どこか弱々しく、花びらが散ってしまっているのもあります。一方ピンクのチューリップは活き活きと咲き、純が茎を両手で掴んでいます。この描写から、純が武頼への「あなたを信じて待つ」という気持ちを手離して、真山くんへの「愛の芽生え」を手にしたという風に読み取れます。(7巻ではどんな花が採用されるのか楽しみです。)

    武頼自身の変化はありつつも、純が一番欲しい質問の答えについて、武頼は第32話(1)にて「子供 迷っているし 悩んでいる」「でもほんとに ちゃんと考えているんだ」と父親に告げていますが、この答えは第1話(4)の「…何も考えてないわけじゃないよ」や第21話(1)「子供をつくるかどうかの答えをまだ出せなくて」から実質的にほとんど変わっていない現状。「あなたを信じて待つ」のアネモネが、しおれてしまっても仕方がないのかもしれません。

    一方真山くんは、自立のために一人暮らしを決め、人に弱さを見せて頼るという力も身に付け、ものすごい速度で成長しています。

    第30話(1)で真山くんが睨み付けて、それを意に介さない武頼、というシーンがありましたが、「泰然とした大人の武頼」と「感情的で未熟な真山くん」という対比にも見えますし、「ライバルの脅威に気付かない鈍い武頼」と「ライバルとの差をきちんと認識して、ハイペースで成長する真山くん」という対比にも見えます。

    細やかな演出も毎回楽しみです。

    • 21
  3. 評価:5.000 5.0

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    今話は純のミスにより純が追い込まれていく姿が描かれていますが、純だけでなく山田課長や米塚さんの生きづらさの原因のようなものも浮き彫りになる話であるようにも感じました。

    というのは、そもそもこのミスは純のミスというより、大事な取引先の引継ぎをメモ書きだけで行った(しかも新人相手に)米塚さん、大事な引継ぎをメモ書きだけで行うという管理体制を容認していた山田課長のミスであるようにも見えます。

    でも、山田課長も米塚さんも純を責めるばかりで、「メモ書きだけで引き継いだ俺も悪かった」と自分の非を認めて後輩をフォローするとか、個人を責めるのではなく「口頭での引継ぎを徹底しましょう」と同じミスが起きないようシステムの改善をするなどの前向きな対応をする姿勢を見せない。描写がないだけでしているのかもしれませんが、32話(2)で届いた山田課長のメールをみる限り、利益率アップのことばかりでフォローやシステムの見直しなどはしていない様子。

    米塚さんも後輩を優しくフォローするような気遣いに意識が向けば、15話(2)にあるようなクライアントからのクレームが減るかもしれないのに。
    山田課長も、自分の管理体制やシステムを見直して改善すれば、自分が働きやすくなって、部下からの信頼も増すかもしれないのに。
    でも、それができなくて、現状維持で自分の首を絞める。そんな大人達のジレンマ。

    山田課長は「『この人とはこれが最後』とか それくらいの覚悟で仕事をしてみなさいよ」と、仕事というものの核心を突くような、はっとする素晴らしい言葉を、純に投げかけてくれました。

    部下のミスは一方的に責めるけれど、仕事の極意を理解した言葉はくれる。
    仕事への熱意や責任感を教えてくれるけれど、部下のミスを自分のミスとは捉えない。

    どちらに逆接をつけるかでその人の印象が変わりますが、良い・悪いでは区分しきれない人間の複雑さが表れている回だと思いました。
    脇の人物たちにも、血が通っています。

    • 8
  4. 評価:5.000 5.0

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    この作品は、登場人物たちのセリフがいわゆる漫画的な定型文になっていない、血肉が通った言葉になっているのが魅力の1つです。

    今回も、クライマックスで本当に素晴らしいセリフが出てきました。

    真山くんの「オレは!」「結婚していいって思っています」」です。
    このセリフは女性漫画的に胸キュンなのはもちろんですが、とても練られたセリフだと感じました。

    そもそもこの言葉は、藤谷さんからの「離婚させて結婚するの?」というお説教に対する返答であるだけでなく、第12話(3)~第13話(1)の純の「子供を欲しい理由は自殺防止」という話を聞いて、それについて「確かに重いけど…」と呟きながら一人純のハンカチを見つめた時から、様々なことを経て真山くんが出した答えともいえるかと思います。

    漫画的な定型文がない本作ですが、この場面だけは、たまたま武頼が純の職場近くに来ていて、たまたま藤谷さんが武頼が通る広場に純と真山くんを呼び出して、たまたま純が遅れてきて、タイミングよく藤谷さんの質問に「したいですよ」と真山くんが答えたのを聞いてしまうという、かなり漫画的な偶然が重なり合って、遠景から徐々に真山くんに焦点が絞られていくような展開になっています。下心だと純に誤解されないために上記のセリフが飛び出すわけですが、スポットライトが当てられるように焦点化していく場面で出るセリフが練られていないわけがありません。


    例えば「結婚して『も』いいって思っています」だと上から目線なニュアンスが出てしまう。
    「結婚してください」だと、結婚に対する考えの甘さが見えてしまう。
    「結婚していいって思っています」とすることで、真山くんなりに結婚の重さを考えた上で、それでも純のためならその重さを引き受ける、という真山くんの思慮と決意を感じさせる、含蓄の深いセリフになっています。

    「オレは!」と感嘆符を付けて主語を強調していることで、真山くん自身の決意の強さと、「あくまでこれはオレの考えであってそれを強要するつもりはない」という気遣いのニュアンスも感じさせます。

    初見では真山くんの惚れっぷりからすると、少し控えめな言葉だなと思ったのですが、読めば読むほど、真山くんの想いの深さを感じる洗練されたセリフだと感じました。

    他のセリフももちろん素晴らしいので、また感想を書かせて頂きたいです。

    • 21
  5. 評価:5.000 5.0

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    萩原ケイク先生の作品は本当に、言葉の選択が秀逸。今回もすばらしかったです。
    今話特に良かったのは、純と武頼の会話のシーン。一見何気ない夫婦の温かい会話のように見えて、その実、純と武頼の埋まらない溝をあらわにしていました。

    純の体を気遣って電話を早めにきりあげる武頼。長電話になってもいいから仕事の弱音を聞いてほしい純。
    仕事の話に対して、純の「よくは…ないけどただ…」「…何でもない」という微妙な反応を(酔っているとはいえ)軽く励ましてスルーする武頼。
    反対に、武頼からの、父への感情の緩和という夫婦の子供問題の核心にせまる重要な話に対し「そっか…よかったね」というそっけない反応をする純。

    頼られるのが好きな武頼なのだから、仕事の愚痴を聞いてほしいと言えば却って武頼を喜ばせられるかもしれないのに、それができない純。真山くんのことへの遠慮からだけではなく、武頼に迷惑かけたくないから言わない、これがもう癖になってしまっている。

    対して武頼は武頼で、純の精神面のことを深く掘り下げようとしない。第6話(1)で喧嘩をすると武頼は純を「無視、徹底的に無視」とあり、第20話(3)で足立さんに対して「うわ ああいう人だったんだ めんどくせー 離れたい」と思っていることからも、基本的に女性特有の感情的なものからは逃げたい性格のよう。夫婦で向き合った後、表面上は穏やかに過ごしていますが、真山くんに恋をして今までと様子が違う純に対して「何かあった?」と深入りすることはせず、「愛しているよ」「私も」と何となく不安を紛らわすだけ。

    (一方、真山くんは「純さん、大丈夫しか言わないじゃないですか」とぐいぐい掘り下げてくれる)

    精神的なものを分かち合いたいのに遠慮して言わない純。
    物理的な気遣いや優しさは与えられるけれど相手の精神面には深入りしない武頼。

    こういう会話の癖、思考の癖は、歩き方・走り方のように、もう骨肉に沁み込んでしまったもので話し合で解決できるものではないのが難しい。

    武頼も純も、お互い思いやりがあって、魅力的な男性女性。でも、かみ合わない。そんな残酷さを何気ない会話に感じさせるのが素晴らしいと思いました。

    (真山くんの素敵!最高!なセリフについても感想を書きたかったのに字数が足りなくなってしまいました((涙)))

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