WIT STUDIO:紆余曲折の15年 「進撃の巨人」「SPY×FAMILY」が築いた現在地 和田丈嗣代表インタビュー
配信日:2026/08/11 8:01
テレビアニメ「進撃の巨人」「SPY×FAMILY」などで知られるアニメ制作会社、WIT STUDIO。2012年6月に設立され、今年で15年目に突入した。この約15年、日本のアニメが世界に広がる中で、WIT STUDIOは、日本を代表するアニメ制作会社に急成長した。順風満帆にも見えるWIT STUDIOだが、平坦な道のりではなかったという。代表取締役社長の和田丈嗣さんに、紆余曲折の約15年を振り返ってもらいつつ、未来について聞いた。
◇「とにかく面白いものを作りたい」という思い
和田さんは2005年、Production I.Gに入社し、プロデューサーとしてアニメ制作に携わった。2012年にグループ会社としてWIT STUDIOを設立した。
「当時は、今と比べると新規参入するスタジオが多くはありませんでした。今でこそアニメは世界で勝負できるビジネスとして期待されていますが、当時はそこまでではなかったことが大きな違いです。WIT STUDIOの大きな特徴として、IGポート(Production I.Gの持ち株会社)の子会社として始まったところがあります。独立系の会社ではなく、資本力、信頼もあるIGポートの支えがあります。『進撃の巨人』にしても制作協力としてProduction I.Gがクレジットされています。Production I.Gという存在があったからこそ『進撃の巨人』という大きな作品の制作を受けることができたところもありました」
WIT STUDIOは2013年に放送を開始した「進撃の巨人」が初の元請制作作品となった。「進撃の巨人」は、「別冊少年マガジン」(講談社)で連載された諫山創さんの人気マンガが原作。アニメは、立体機動の疾走感、ダイナミックなアクション、繊細な心理描写、重厚な世界観を表現したビジュアルなどによって、世界的な大ヒットを記録した。「進撃の巨人」によってWIT STUDIOの名も世界にとどろいた。
「当時は、世界中でヒットするとは思っていませんでした。WIT STUDIO設立の前年、2011年に『魔法少女まどか☆マギカ』が大ヒットしました。当時のアニメの主流は、今の“なろう系”とはまた違うライトノベル原作で、パッケージビジネスが中心でした。当時、確信は全くなくて『とにかく面白いものを作ろう』という思いだけでした。それが結果的に世界中に広がっていったのは、驚きしかありません。当時の僕の感覚では、アニメはまだ今のような大きなビジネスになっていなかったですし、『とにかく面白いものを作りたい』という思いだけでした。それしか頭になかったので、大変ではあったのですが、最初のPVを作っている時点で『すごいものを作っている』と現場で盛り上がっていたことをよく覚えています。確信はないけど、とにかく作るところからスタートしました。『進撃の巨人』は、WIT STUDIOにとって原点中の原点です。壁に囲まれたところから外に出る。リスクを取らないと何も得られない。今でも根っこに染みついているDNAなんです」
「進撃の巨人」によってWIT STUDIOは、壁をぶち破り、世界に向けて歩み出した。「とにかく面白いものを作ろう」という思いは、その後も受け継がれている。
「軸にあるのは『世代を超えて多くの人に見てもらえる普遍的なものを作ること』『日本から世界へ届けること』の2つです。それぞれの作品だけを見ていると分かりづらいかもしれませんが、これまで制作してきた作品を時系列に見ると、『進撃の巨人』からずっと貫こうとしていることです。ずっと枠や壁を壊して進んでいこうとしてきました。『本好きの下剋上 領主の養女』『SPY×FAMILY』『THE ONE PIECE』、さらにはストップモーションアニメまで広がってきたんです。一方で『世界中に普遍的に届ける』という方針に反するような表現はやりません。これは創業メンバーである浅野(恭司)の影響も大きく、『浅野さんが悲しそうな顔をするような企画はやめておこう』という社内の認識があるんだと感じています。ただ、浅野は『常軌を逸していないと人は喜ばない』とも言っています。アニメーション制作に対するある種の狂気を持ち合わせているのがWIT STUDIOらしさだとも思います」
◇「SPY×FAMILY」に救われた
「進撃の巨人」は、シーズン1~3はWIT STUDIOが制作したが、2020年に放送が始まった“The Final Season”からMAPPAへ制作を引き継いだ。
「当時、『進撃の巨人』を作ることへの負荷が非常に大きかった。荒木哲郎監督をはじめとするクリエーターたちのキャリアを考えたときに『オリジナル作品を作りたい』という思いもありました。アニメスタジオは単に作品を作る集団ではなく、スタッフの人生と密接に結びついています。シーズン3までWIT STUDIOが作り、それ以降をMAPPAさんが作ってくださった。この組み合わせだったからテレビアニメ『進撃の巨人』は完結できたと思っています。作品にとってはこの形でしかあり得なかったんじゃないかと思っています」
苦渋の決断だったようだが、そこからが正念場だった。
「その後、『進撃の巨人』の次の代表作は何かという非常に苦しい時期に入りました。WIT STUDIOとはどういう会社なのか?という答えを作品で提示しきれない焦りがありました。言葉では説明できても、作品で示せない限り視聴者にとっては意味がない。当時は会社をたたむことも考えるほど辛い時期でした。僕はボンズの南(雅彦)社長から大きな影響を受けていて、『代表作は一つではダメ』『そうでなければアニメスタジオは続かない』と感じていました。10年目、2022年に『SPY×FAMILY』と出会えたことで救われました」
「SPY×FAMILY」は、マンガアプリ「少年ジャンプ+(プラス)」(集英社)で連載中の遠藤達哉さんのマンガが原作。アニメは、WIT STUDIO、CloverWorksが共同で制作し、子どもから大人まで幅広い世代に愛される作品になった。
「新卒1期生の山中(一樹)がアニメーションプロデューサーとして『絶対やるべきだ』と提案してくれて、CloverWorksさんという素晴らしい仲間と共に駆け抜けることができました。『進撃の巨人』で戦ってきた僕らが、平和を求める仮初めの家族を築く『SPY×FAMILY』を作ったこと、それが世界に届いたことは10年間の集大成として本当に救われました」
「SPY×FAMILY」は、WIT STUDIOにとって大きなターニングポイントになった。山中さんのような若きクリエーターの活躍が大きな力になった。WIT STUDIOは若手の育成にも注力してきた。
「スタジオが永続し、時代の変化やファンの嗜好に寄り添い続けるには『若手の採用と育成』しか答えがありません。現在、WIT STUDIOでは30代前半を中心とした新世代に企画選定や組み立てを任せるようにしています。クリエーター陣も20~30代前後と非常に若く、熱量が高いんです。これまでは僕と中武(哲也)で引っ張っていましたが、15年目にしてようやく任せることができるようになりました。僕や中武の企画と若手の企画の両方があるという良いバランスになっていて、15年経ってやっと会社らしくなってきました」
◇アニメは「まだニッチ」
日本のアニメは世界的なブームになっている。経営者として、このブームを一過性のものにしてはいけないという思いがある。
「絶好調のようにも見えるアニメ業界ですが、今年のAX(Anime Expo)に参加しても、来場者は増えているものの勢いが踊り場に差しかかったような感覚がありました。アニメが単なる一時のブームではなく“カルチャー”として世界に根付くためには、制作スタジオ自らがビジネスや発信の中心となり、5年、10年スパンで質の高い作品を届け続ける必要があります。僕の大きな目標は、アニメーション表現を“ニッチなジャンル”から、ハリウッド映画のような世界興行収入1000億円レベルのメジャーエンターテインメントに押し上げることです」
この約15年で、日本のアニメはニッチではなくなりつつあるとも感じるが……。
「僕は、まだニッチだと思っている。今は変わりつつある入り口に立っている。スポーツの世界でも一人の天才が突破して、その後にそれが当たり前になって何人も続いていくことがあります。アニメも今、その状況にあって、誰かが突破して、アベレージを上げていく。そのチャレンジをやっていこうとしています」
◇壁の外の新しい大海原へ
WIT STUDIOは、尾田栄一郎さんの人気マンガ「ONE PIECE(ワンピース)」の完全新作アニメシリーズ「THE ONE PIECE」を制作することも話題になっている。原作の東の海(イーストブルー)編の第1話から完全新作映像で再アニメ化する。
「『ONE PIECE』は、東映アニメーションさんが素晴らしいアニメを長年走らせている中で、僕らが新しく取り組む理由は『まだ作品に触れていない世界中の人々に届けるため』です。テレビアニメの開始当時よりも原作が進み、先の展開やキャラクターの解像度が高まった現代の目線で、1話からもう一度作り直す。“リメーク”ではなく“リブート”に挑みます。『ONE PIECE』はNetflixの実写ドラマも大成功し、大きな広がりを見せています。これまで触れていなかった層を含めて壁を突破して世界中へ広げていこうとしています」
「THE ONE PIECE」は“ニッチの壁”を突破するアニメになり得るのかもしれない。6月には、ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」や映画「ラストマイル」などで知られる脚本家の野木亜紀子さんが原案、脚本を担当する新作オリジナルテレビアニメ「LONA(ロナ)」の制作が発表された。「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」などのWIT STUDIOの片桐崇さんが監督を務める。
「オリジナルアニメはやっぱり“柱”がないと難しい。野木亜紀子さんという柱が中心になって、新卒としてWIT STUDIOに入ってきた片桐崇をはじめ、今、この瞬間でしか集まらない才能が高い熱量で制作しています。僕だけでなく中武、浅野もそうなのですが、やっぱりストーリーを信じている。野木さんならではの強い物語が中心にあります」
和田さんは「15年かけて、ようやく自分と会社、作品、世界が一本につながりました。これからは僕が後ろで守りつつ、若い世代のクリエーターたちを壁の外の新しい大海原に送り出していきたいと思っています」と笑顔を見せる。その視線の先には、日本のアニメの輝く未来がある。(阿仁間満/MANTANWEB)
提供元:MANTANWEB











