THE RIBBON HERO:「リボンの騎士」原案アニメ 令和のサファイア誕生の裏側 手塚治虫のスピリットを表現 五十嵐祐貴監督インタビュー

配信日:2026/08/08 19:01

「リボンの騎士」原案のアニメ「THE RIBBON HERO リボンヒーロー」の一場面(C)ツインエンジン
「リボンの騎士」原案のアニメ「THE RIBBON HERO リボンヒーロー」の一場面(C)ツインエンジン

 手塚治虫さんの名作「リボンの騎士」を原案とするアニメ「THE RIBBON HERO リボンヒーロー」が、Netflix映画として8月8日に世界独占配信された。「リボンの騎士」は男装の麗人サファイアが、勇敢なリボンの騎士として王国にはびこる悪に立ち向かう“戦う女の子”の原点とも言われる名作で、1967年4月~1968年4月に放送されたテレビアニメも人気となった。アニメ化されるのは、1999年12月に手塚治虫ワールド(2011月1月閉館)で上映されたオリジナル短編アニメ「リボンの騎士 -オリジナルアニメ-」以来、約27年ぶり。令和のサファイアはどのようにして生まれたのか。五十嵐祐貴監督に作品に懸ける思い、制作の裏側を聞いた。

 ◇“戦う女の子”の原点 今届ける難しさ

 「THE RIBBON HERO」は、リボンを結び、運命にあらがうことを決めた一人のヒーローの物語。「リボンの騎士」を原案としつつも、キャラクターのビジュアルやストーリーを変え、新たな「リボンの騎士」を描く。

 五十嵐監督は、テレビアニメ「映像研には手を出すな!」で原作者の大童澄瞳さんに「神回」と言わしめた第3話を手がけ、話題になった。テレビアニメ「呪術廻戦」第1期のエンディング映像では1人で作画を担当し、初監督作となった「スター・ウォーズ:ビジョンズ『のらうさロップと緋桜お蝶』」でも注目を集め、「THE RIBBON HERO」で長編アニメの監督に初挑戦することになった。五十嵐監督自身、元々手塚さんの作品のファンだったが、「リボンの騎士」に関しては「遠い存在」だったという。

 「原作をちゃんと読んだのは企画をいただいてからです。自分にとっては距離のある作品でした。ただ、原作を大胆に変えて、アクションものや、エンターテインメントの方向、明るい方向、快活な感じに持っていけないだろうか?という新作の方向性があり、それだったら受けられるかもしれないと」

 名作「リボンの騎士」に向き合い、「かなり重要な作品であることは間違いない」と改めて感じた。

 「ちゃんと分析すればするほど、『リボンの騎士』が与えた影響は計り知れない。まず手塚作品の中でも重要な作品で“手塚美少女”というものは、サファイアのイメージが元になっていると思うんです。連載されていた1950~60年代当時の価値観的にも、女の子が男装して剣を持って戦うなんてあり得ない世界観だったでしょうね。それが当時の女の子には格好よく見えたと思いますが、親御さんから見たら『とんでもない』と思われるほど新しさがあった。そこから“戦う女の子”ものの作品が数多く作られていった。『ベルサイユのばら』や、最近であれば『セーラームーン』『プリキュア』などのアーキタイプになっている」

 ただ、そうした“戦う女の子”の作品の原点になっているにも関わらず、「今見るとそれが全く分からなくなる作品」でもあると感じた。それが新作アニメを制作する上で、大きなハードルにもなった。

 「『これ何が新しいの?』みたいな。当時は新しい作品だったはずなのに、今は普通になりすぎて分からなくなっているところが、実はすごく厄介というか。その重要性を改めて今のお客さんに説明するのが非常に困難な作品だなと。ただ、この企画が実現しないことによって失われてしまう文脈があるんじゃないかと。皆さんが今見ているものに繋がっているんですよと説明しなければいけない作品だと思いました。ちゃんと繋ぎ直すというか」

 ◇ありとあらゆるヒーローを複合的に組み合わせ 新たなサファイアに

 「THE RIBBON HERO」は、“ネルガル”と呼ばれる災厄に人々がおびえて暮らす世界が舞台。ネルガルは灰の海からやってきてあらゆるものを破壊する怪獣で、人々を守るためにサファイアはリボンの騎士に変身し、戦うことになる。ストーリーも「リボンの騎士」を今と繋ぐことを大事にした。

 「脚本の制作作業は、2022年にスタートしました。コロナ禍だったこともあり、そういう気分を入れ込んでいかなければいけないと。特に『リボンの騎士』は現代にとっては物語が王道なので、普通に作ってもファンタジーとして自分には関係のない物語として受け取られてしまう。『あなたたちの生きている世界と繋がっているかもしれませんよ』という要素を入れるのであれば、今の世界のようなアンコントローラブルな状況の中で主人公がどのようにリボンの騎士となるのかを描こうと思った。また、そこに説得力を持たせる物語を考えた時に、ネルガルのような寓話的な舞台装置を設定しました。そこに翻弄(ほんろう)される人たちとサファイアを描いた形になっています」

 そうした現実ともリンクした世界観の中で、リボンの騎士としてのサファイアを際立たせるために、新たなヒーロー像を生み出そうとした。その要素の一つが変身する魔法少女だった。

 「ヒーローを作っていく時に、戦う女の子もので今も続いている直系の子孫として魔法少女ものをうまく使うのが、今のお客さんにも伝わりやすいだろうと。魔法少女と言えば変身ですが、変身演出は、実は東映特撮のヒーローの変身から逆輸入されていて、男の子文化と女の子文化がミックスしている。男女の文化がぐるぐる周りながら作られてきた歴史があり、日本の作ってきたヒーローの文脈を再演しようという目標がありました」

 もう一つの要素は、マーベルなどの女性ヒーローだったという。

 「今ヒーローものをやるんだったら、マーベルヒーローなどグローバルで制作されているヒーロー像は参照すべきだろうと。ただ、この作品を作り始めた当時、マーベル含め女性ヒーローを繰り返し作っていたのですが、なかなかうまくいっていなかった印象だった。それならば、日本の女児向けヒーローの要素を組み合わせたら、新しい突破口が開けるかもしれないなと。さらに、ウルトラマンなど怪獣と戦っているヒーロー像も組み合わせて、そこがぐちゃぐちゃと渾然一体となった発想で作っていきました」

 「怪獣と戦うヒーロー」と聞くと、確かにサファイアたちが立ち向かうネルガルは巨大な怪獣や虫のような外見をしている。

 「ネルガルの元になっているのは『風の谷のナウシカ』の王蟲です。『ナウシカ』の腐海も疫病のような世界ですし、ナウシカは強い女性ヒーローのイメージがある。当時はアナログで描かれていた王蟲を今やるのであれば、3Dを使ってアップデートしたいという思いもありました」

 海外を含め新旧のありとあらゆるヒーローの要素を複合的に組み合わせて、リボンの力によってリボンの騎士に“変身”する令和のサファイアが作られていった。変身後の姿は、真っ白のジャケットにショートパンツ、ロングブーツというスタイリッシュないでたちだ。「Fate/Grand Order」「刀剣乱舞ONLINE」などで人気キャラクターのデザインを手がけてきた望月けいさんがキャラクター原案を担当した。

 「変身後のサファイアは望月さんのアイデアをそのまま生かしています。サファイア、リボンの騎士のイメージをアップデートするデザインにしていただきました。女の子や女性向けのエンタメの歴史の中で、『リボンの騎士』の時代は『可愛い』が美の価値基準になっていたと思うのですが、今は『格好いい』という要素がかなり大きくなっているのではないかと。『可愛いこと』も『格好いい』みたいな。美の価値基準の変化を全面的に生かして、かつ原案から大きく変えるというオーダーをした中で、今回のビジュアルにしていただきました」

 ◇悲劇を喜劇に

 新作アニメにおいて、原案から変えた部分も大きいが、手塚さんの“スピリット”は色濃く表現しようとした。

 「『リボンの騎士』を読み解いて、分解し続けた結果、最終的には“リボン”に行き着く」といい、サファイアの変身シーンや、戦闘シーンにはリボンのギミックをふんだんに使用している。

 「望月さんが作ってる中で、『リボンは可愛いけど格好いい』と語られていて、リボンを格好いいものとして使われていると思ったので、リボン自体をエネルギーの源とした上で、それをめぐる物語にしましょうと」

 「リボンの騎士」は、手塚さんが宝塚歌劇団から影響を受けて作られた作品であることを受け、演劇の様子も取り入れた。ストーリーは「ACT 1」「ACT 2」と区切られており、幕間の映像は「魔法少女まどか☆マギカ」の異空間の設計を担当したデザイナーユニット「劇団イヌカレー」の泥犬さんが担当した。幕間では、「THE RIBBON HERO」の舞台を見ている観客がいるというメタ的な表現となっている。

 「演劇は壇上と客席があるので、そういう風に見せたかった。我々が生きている世界線とこの物語はちゃんと切り離されているけど、それがアクシデントで一緒になった、という立て付けでやりました。イヌカレーさんがやられていた『まどマギ』もかなり特殊な魔法少女ものだったので、換骨奪胎してメタ構造で見せるという。幕間に登場する要素も、手塚先生のルーツとして動物や昆虫、宝塚にいた頃に昆虫採集をしていたというクヌギ林などいろいろなものを詰め込んでもらいました。そういった意味でもメタ構造になっています」

 クライマックスにかけては喜劇の要素もある。

 「手塚先生は戦争体験のある方ですが、マンガを読んでみたら、めちゃくちゃギャグだらけで、『ネオ・ファウスト』や『グリンゴ』などを読むと死ぬ直前までこんなにギャグを飛ばしているのか、と驚かされます。ただ、ハードな現実を物語化する時にはユーモアがないと乗り切れないというか、いろいろな人に伝えていく時、絶対に必要な要素なんだと思います。今回もそういう描き方にしようと思いました。途中までは悲壮感のある物語なのですが、最後は悲劇を喜劇に変えるということをやりたかった。それがまさに手塚作品の本質なのではないかと。制作はコロナ禍にスタートして、その時から今にいたるまで世の中の気分はあまり変わっていないと感じています。そんな中で、特に手塚先生や『リボンの騎士』に馴染がない人に届いてほしいと思いながら作りました。閉塞(へいそく)的な気分でいる中、この作品見ることで、暗い気分が解除されて少し前に進んでみようとか、明日から頑張ってみようという起爆剤になってくれたらと。多分それが手塚先生がいろいろな作品で繰り返し描いていたスピリットだと思うので。それができたら手塚先生も喜んでくれるんじゃないかなと思っています」

 ◇分からなかったら勉強する 板津匡覧監督の影響

 「リボンの騎士」を今多くの人に届けるために「あらゆる要素を使って最後の最後まで粘り続けた」という五十嵐監督。明治大学在籍後、独学で絵を学びアニメ業界へ入った叩き上げのアニメーターで、「もののけ姫」などのスタジオジブリ作品、「ガンダム」「エヴァンゲリオン」とさまざまな作品に影響を受けてきた。業界に入ってからは、「ボールルームへようこそ」「北極百貨店のコンシェルジュさん」などの板津匡覧監督に師事した。板津さんは「パプリカ」「妄想代理人」「千年女優」などで知られ、2010年に亡くなった今敏監督の「右腕みたいな存在として、若くして働いていた」という。

 「僕が板津さんの元へ行った時には今さんはいらっしゃらなかったので、板津さんから『今さんはこういう風にやっていたよ』『こう言っていたよ』ということを繰り返し聞いていました。だから、板津さん、そしてその先にいる今さんの言葉を思い出しながら今も仕事をしています。板津さんからは『アニメは技術だから。技術は勉強すればできるから』と言われて、そこから分からなかったら勉強する、調べるということを必死にやるようになりました。今回の『リボンの騎士』もそうです。本当に一から人間として教育してもらったというか、まっとうな人間になりました(笑)。そうしていたら、いつの間にか板津さんも、僕も監督をやるようになった。今もずっと背中を追いかけている感じがあります」

 五十嵐監督が初の長編監督作として挑んだ「THE RIBBON HERO」。新たなリボンの騎士、サファイアの戦いを見届けてほしい。(しろいぬ/MANTANWEB)

提供元:MANTANWEB

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