天幕のジャードゥーガル:“作画チーフ”とは何? アニメだから表現できること 吉田健一インタビュー

配信日:2026/08/02 8:01

アニメ「天幕のジャードゥーガル」の一場面(C)トマトスープ(秋田書店)/天幕のジャードゥーガル製作委員会
アニメ「天幕のジャードゥーガル」の一場面(C)トマトスープ(秋田書店)/天幕のジャードゥーガル製作委員会

 「このマンガがすごい!2023」(宝島社)のオンナ編1位に選ばれたことも話題のトマトスープさんのマンガが原作のテレビアニメ「天幕のジャードゥーガル」が、テレビ朝日系のアニメ枠“IMAnimation”で7月から放送されれている。「平家物語」「聲の形」「きみの色」などの山田尚子さんが総監督、「ダンダダン」第2期などのAbel Gongora(アベル・ゴンゴラ)さんが監督を務め、サイエンスSARUが制作する。さらに、吉田健一さんがアニメのキャラクターデザインを手掛け、作画チーフとして参加していることも話題になっている。吉田さんはスタジオジブリ出身で、「地球外少年少女」「ガンダム Gのレコンギスタ」「交響詩篇エウレカセブン」「OVERMANキングゲイナー」などのキャラクターデザインも手掛け、スーパーアニメーターとも呼ばれている。そもそも“作画チーフ”とは何? 吉田さんを直撃した。

 ◇総作画監督、メインアニメーター、アニメーションディレクターと同じ?

 吉田さんは「ガンダム Gのレコンギスタ」でもキャラクターデザイン、作画チーフとクレジットされていた。作画チーフと総作画監督や作画監督とは何が違うのだろうか?

 「何も違わない(笑)。総作監という言い方をやめているだけです。言葉のあやなんです。メインアニメーターというのもあるけど、誰が言い始めたんですかね? 自分じゃないかという気がするのですが『エウレカ』のときに使ったんですよ。僕と中田栄治くんがメインアニメーターでした。元々、『キングゲイナー』でアニメーションディレクターを名乗ることになったのですが、僕にとってはアニメーションディレクターといえば安彦良和さんと湖川友謙さんですし、お二人と同じ役職は無理だと思ったんです。ただ、『キングゲイナー』ではメカ、キャラもやってイメージボードも描いていたから、『アニメーションディレクターというクレジットにしてみない?』という話がありまして。本来は作画監督という意味なのだろうけど、特別な意味を持ってしまったのはあの二人のせいです(笑)。名乗ってみて、頑張ってみようと決めたところもありました。2000年代に僕が名乗ったあたりから、因果関係は分からないけど、アニメーションディレクターが増えたんですよ」

 どうやら、作画チーフ、メインアニメーター、アニメーションディレクターと肩書が違ってもやっていること自体は同じらしい。

 「アニメーションディレクターという肩書が増えて、つまらないと思ったから作画チーフになったんです。今は作画チーフの気分なんです。作画監督や演出の相談役、いわゆる頭(かしら)のような意味です。『英語でどうしましょう?』と言われて『Sakuga Chief』のままにしてもらっています。アニメーションディレクターは安彦さんや湖川さん、キャラクター設計の小松原一男さんのような仕事ができていないとダメだという思いが自分の中である。そこまではいっていないけど、頑張っているみたいな(笑)」

 「天幕のジャードゥーガル」は「映像研には手を出すな!」「平家物語」「ダンダダン」など独創的な映像表現で知られるサイエンスSARUが制作する。吉田さんがサイエンスSARUの作品にキャラクターデザイン、作画チーフとして参加するのは初めてだ。

 「みんな、すごく意欲的だと思います。若い人が多いので、古い作法だったり、歴史だったり、どうやって表現が生まれたなど分からないこともあるかもしれない。紙を持ってパラパラやったりした経験も多分ないでしょうし、それがいいか悪いかは別として、『一回やってみると楽しいよ』などと話をすることもあります。僕も結果としてベテランになっていますし、職人の工房的なアニメの作り方を経験している最後の世代だと思うんです。僕らの後に変革があったり、デジタルになっていく。宮崎(駿)さんのような方に『お前がやろうとしていることなんて、俺が30年前に試したんだ』『成功例を覚えろ』と教えてもらいながらやってきました。暴言のように聞こえるかもしれないけど、それが職人の世界なんですね。江戸時代のかんざし職人のような世界で、その面白さもあるんです。こういうアイデアがあると師匠から教わったものを橋渡しできるし、古いものかもしれないけど、知っていた方が有益だと思います。 それをどう選択するかという話になっていくでしょうし」

 ◇アニメだから知らない世界を表現できる

 「天幕のジャードゥーガル」は、秋田書店のマンガサイト「Souffle(スーフル)」で連載中のマンガが原作。モンゴル帝国の捕虜となった少女・シタラが、知恵を駆使して王族に取り入り、帝国を内側から崩壊させようと決意する……というストーリー。吉田さんは参加する前から原作を読んでいた。

 「若い頃からモンゴルには興味がありました。行ったことはないんですけど、自分なりに調べたことがありました。どうしても男の子なのでモンゴル軍に興味があって、軍隊行動を追ってしまうんですね。最初は、純粋に興味として読み始めました。それに次のアニメの表現のために、刺激になる材料も探していたところもあります」

 吉田さんは、アニメーターならではの視点で原作を読んでいたようだ。「天幕のジャードゥーガル」のキャラクターデザインは複雑だ。顔や頭身はマンガ、アニメ的ではあるが、衣装のディテールなどはリアリティーがある。

 「マンガのキャラクターデザインのリアリティー、アニメーションが得意としているある種のリアリティーがある。リアルを感じてもらうための手法は、アニメでもたくさんあって、それをどうやって混ぜていくかを考えます。アニメの場合は、動きで見せるところもあります。見ている人が自分の知っている動きを見つけたら、その世界を身近に感じられる。それが得意なのがアニメーションなんです。自分の知らない世界を体験させることに関しては、実は実写よりも得意なのかなとも思っています。昔は侮られていたこともあったと思います。ただ、見ている側からしたらアニメの方が入りやすいことが分かってきた。アニメは元々、絵空事という侮りがあったかもしれないけど、絵空事だから連れて行ける世界があって、さらにリアリティーのあるドラマを見せる作家たちが出てきたことで、一気に変わった。高畑(勲)さんを中心に、映画のような肌触りを表現していった。今回のような作品はアニメーションでやった方が世界に入りやすいだろうと思います」

 13世紀のモンゴルやペルシャを舞台としたアニメやマンガは珍しい。    「中央アジアが舞台というのがいいんですよね。『風の谷のナウシカ』などでも宮崎さんも中央アジアのような世界を作品に取り入れていましたし、僕らにとっての遠い異国をイメージさせるために、ファンタジーでは中央アジアのテイストを使っているものは結構あります。昔は遠い異国のイメージだったかもしれないけど、今はもっと距離を近くなっている。ただ、分かっている気がしているだけで、本当は何も知らない。一時期は、歴史を感じさせるようなファンタジー作品や近未来の作品をやったりしていましたが、歴史が元々好きなのでやりたかった。ただ、アニメはなかなかなかったけど、最近は山田さんの『平家物語』やマンガの『乙嫁語り』もそうですが、増えているようにも感じています。風俗まで細かく表現している。民族衣装にしても実際はもっと情報量が多く、パッと見ただけで分かりづらいところもあるけど、絵になると情報を精査しているから見やすいんですね。アニメはそういう作用があると思います」

 ◇ヒジャブやターバンにこだわりが

 ヒジャブ(女性の頭や体を覆う布)やターバンなどのデザインにもこだわった。

 「原作を見て最初に疑問だったのがヒジャブです。ターバンを含めて構造がどうなっているかは、何となくでは描けないので、資料を集めてもらい、解析しました。シタラがモンゴル軍に連れていかれている場面でいえば、最初に襲撃されて、連れていかれた後はヒジャブをしていない。おそらく取ってしまっているけど、途中からまた付けていて、しかも前後で巻き方が少し違う。どこで手に入れたか分からないし、もしかしたら別のもので代用しているのかもしれない。状況や時間の経過によって変えているんです。ムハンマドとほかのキャラクターでもターバンの巻き方が少し違う。それに気付いて、資料を確認しながら、それぞれどれに近いかを考えました。ターバンはフォルムを少し変えていて、原作のフォルムだと少し動かしづらいので、動かしやすくしています。衣装にしても細かく装飾があるけど、山田さんやアベルさんの意見もあって、シンプルにしています」

 当時の絵画のように平面的でありながら、立体的でもある。空間構造も独特だ。

 「美術や建造物のルックに関してはアベルさんのセンスが大きいと思います。僕はもう少しリアル思考なので、アベルさんが描いたレイアウトを少し空間的に直そうとしたこともあったのですが、もしかしたら意図的に歪ませているかもしれないと思って聞いてみたら、やっぱり意図的だったんです。タペストリーに描かれているような集中線がない空間構造の絵がありますが、ああいう世界にこれまでアニメーションでやってきた表現を取り入れるような感覚です。切り絵のアニメのような平面的で立体的なイメージもあります」

 吉田さんを含めてそれぞれが細部までこだわり抜き、新しい表現を目指した。

 「キャラクターの造形に関しても僕はもう少しリアル寄りにしようともしていましたが、アベルさんの提案でマンガ寄りにして、今のようなデザインになっています。知らない風習の世界の日常を描きますが、視聴者がいちいち気にならないようにサラッと見られるようにしようとしています。それぞれのスタッフがしっかり調べて描いていますし、みんな上手だなと思っていました。力がありますね。安藤(雅司)さんが絵コンテを担当したエピソードもあって、その回の設定がまだ追いついていない部分もあったんです。安藤さんだったら違和感なくやるんじゃないかなと思っていたら、対応していましたし、そういうディレクションはアベルさんたちがやっているのでしょうけど、安藤さんを含めてみんな上手にやるなと思っていました」

 「天幕のジャードゥーガル」は吉田さんをはじめクリエイターたちの職人の技が光るアニメに仕上がった。画面の隅々、細部までこだわった圧倒的な映像美が、まだ見ぬ13世紀の中央アジアへといざなってくれるはずだ。(阿仁間満/MANTANWEB)

提供元:MANTANWEB

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