天幕のジャードゥーガル:舞台は13世紀モンゴル 「絵で勝負する」アニメの挑戦 山田尚子総監督インタビュー
配信日:2026/07/04 19:01
「このマンガがすごい!2023」(宝島社)のオンナ編1位に選ばれたことも話題のトマトスープさんのマンガが原作のテレビアニメ「天幕のジャードゥーガル」が、テレビ朝日系のアニメ枠“IMAnimation”で7月4日午後11時から放送される。秋田書店のマンガサイト「Souffle(スーフル)」で連載中の13世紀のモンゴルを舞台としたマンガで、アニメは「平家物語」「聲の形」「きみの色」などの山田尚子さんが総監督、「ダンダダン」第2期などのAbel Gongora(アベル・ゴンゴラ)さんが監督を務め、サイエンスSARUが制作する。13世紀のモンゴルが舞台という異色のアニメは、どのように制作されているのか。総監督の山田さんに制作の裏側を聞いた。
◇総監督は何をする?
「天幕のジャードゥーガル」は、モンゴル帝国の捕虜となった少女・シタラが、“知恵”を駆使して王族に取り入り、帝国を内側から崩壊させようと決意する……というストーリー。山田さんが“総監督”という肩書でアニメに参加するのは初めてだ。“総監督”の仕事とは……と気になるところだ。
「総監督というと格好いいですが、応援隊みたいなものですね(笑)。アベルさんのクリエーティビティを一番発揮してもらえる形がいいと思い、私がこうしたいというよりは、アベルさんが作品を輝かせるために寄り添っていくイメージかもしれません。シナリオ段階で私が一度入り、ビジュアル面はアベルさんという役割分担です。現場はほとんどアベルさんにお願いしています」
監督のアベルさんの魅力を聞くと「全部です!」と即答する。
「どこからお話しましょうか(笑)。ご一緒すればするほど、驚くことばかりです。まず、アニメーションをとても愛している。それが芯にありつつ、そこだけに収まらず、たくさんの芸術や文化にも興味と意識があり、遊び心もあります。そしていい意味で頑固です。作ることに対してずっと夢中でフレッシュな気持ちで向き合います。わびさびもありますし……隙がないですね(笑)。失敗したところを見たことがないですし、指摘も鋭いし、納得できることばかりです。繊細なバランスで舵取りしている姿をよく見ています。作品ごとにアプローチを変えられる方ですし、次の作品を監督されるときは、全く違うものになるはずです」
◇空間的だが平面の面白さも
13世紀のモンゴルというのは、マンガやアニメの舞台として珍しい。なじみのない人も多いかもしれない。
「この作品に出会わないとほとんど知ることができなかった舞台ですし、まずそこに興味がありました。それに、絵の力がすごく強い作品です。可愛い作品があると読み進めると、いい意味でとんでもなくて、だまし討ちに遭ったようでした。正直なところ、すごく難しい作品だと感じました。史実に裏付けされていて、創作の部分もありつつ、原作者のトマトスープさんが琵琶法師のような語り口で物語を進めていきます。ファーティマ(主人公・シタラ)は実在した人物で、悲しい最期を迎えたとされている。いろいろな意味で難しい作品です。トマトスープさんの眼差しが不思議です。愛情を持っていて、その愛情がにじみ出ていますが、冷静でもあって、すごいバランスなんです。どうやってアニメにしていこうか?と考えました。アベルさんが、心の動きや目線を大切にしていて、アニメの表現としても面白いものになっていると感じます」
確かにアニメ化が難しい作品なのかもしれない。平面的でありながら立体的にも見えるという不思議なバランスで画面が構成されているようにも見える。
「イスラム細密画の平面的な美しさとシンメトリーな建物の無機質な美しさ、2次元的に見えるキャラクター……と空間的ではあるけど平面の面白さも担保したい。デザインとしても美しくしたいので、こだわり抜いています。舞台がペルシャからモンゴルに移ると、大地が無限に広がっています。平面的に配置していくとなると、高いデザイン能力が要求されます。本当にチャレンジングな作品です」
アニメではあるが、画面を止めたくなるようなデザイン、レイアウトの美しさも光る。緻密に構成されていることが分かる。
「画面構成から得られる無意識の感情もあると思います。リアルに描くわけではなく、絵として昇華する。創作の根源ができているようにも感じています」
◇画面をデザインしていく
フィクションではあるが、13世紀のモンゴルの文化、風習などの表現にも目を配らせた。
「しっかり考証していただきますし、敬意を持って描いています。分からないことはしっかり聞いて、あやふやにしない。偏った目ではなくて、フラットに受け止めようとしています。実際にモンゴルに行って、現地の方に話を聞きました。13世紀の物語ではありますが、変わらないものが色濃く残っているはずと思ったんです。あそこに雲があるから、もうすぐ雨が降るとか、生活に紐付いたものがあって、確かにここにいると、こういう考え方になるだろうと腑に落ちたところもありました。受け継がれている感覚を大切にしようとしています」
山田さんのこれまでの作品も舞台の空気を感じることがあった。実際に体験しないと描けないものがあるのかもしれない。
「それはとても大切だと思います。だからロケハンは必ずやりたいんです。特にアニメは、言ってしまえば作りものなので、作りもののままだと自分の中では違和感があります。何かを作り変えたり、想像を膨らませるにしても、地に足が付いて、芯の通ったものを入れたい。実際に空気に触れることは大切だと思っています。空気や光、香りなどの何かを残したいですし、ロケハンでそれを探したいんです」
キャラクターデザインも独特だ。顔や頭身はマンガ的な表現だが、衣装のディテールなどはリアリティーがある。嘘であり本物でもあるような絶妙なバランスが魅力になっている。アニメでもその魅力が十二分に表現されている。アニメのキャラクターデザインを手掛け、作画チーフとして参加しているのが吉田健一さんだ。吉田さんはスタジオジブリ出身で、「地球外少年少女」「ガンダム Gのレコンギスタ」「交響詩篇エウレカセブン」「OVERMANキングゲイナー」などのキャラクターデザインでも知られている。
「吉田さんがやっぱりすごいんです。何においてもすごく研究されますし、このバランスは吉田さんじゃないとできない。原画が上がってくるのを見るたびに、そう感じます。素晴らしすぎるんです。モンゴルの歴史がお好きで、お会いするたびにいろいろ教えていただいています」
山田さんは「まだ終わっていないのですが、とにかく楽しいです」とも話す。
「普段はカメラで撮ったような絵作りをやりがちなのですが、今回はそういったアプローチはしていません。技術的には、ボケ表現を使わないで、空気遠近法で色を変えたり、画面をデザインしていく感覚でした。アニメとしての味わいがあり、絵で勝負していく作品で、楽しかったです。終わったみたいな言い方になっていますが(笑)」
「天幕のジャードゥーガル」は、異色の舞台設定のみならず、映像表現の面でも数々の挑戦が詰まっているようだ。新しい表現がもたらす味わい、絵で勝負していくその覚悟に、ぜひ注目してほしい。(阿仁間満/MANTANWEB)
提供元:MANTANWEB











