楠木ともり:あえてレコードの理由 配信全盛の時代に贅沢な体験を 「音楽に正面から向き合える」
配信日:2026/06/13 12:25
声優でシンガー・ソングライターの楠木ともりさんの初となるアナログ・レコード盤「PRESSED FLOWERS」が6月17日に発売される。デジタル配信が主流となる中、レコード、カセットテープが若者や音楽ファンの間で静かなブームとなってはいるが、なぜ楠木さんはレコードを発売することになったのだろうか。楠木さんを直撃した。
◇これがレコードの音なの?
「チェンソーマン」のマキマ役、「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」のレン役などで知られる楠木さんは1999年12月22日生まれで、CD全盛期に音楽を楽しんできた。1990年代には、クラブDJや音楽好きの若者を中心としたレコードブームはあったが、当時は子どもだった頃もあり、レコードに触れる機会はほとんどなかった。
「レコードを出すことはスタッフの方の提案だったのですが、私自身も出してみたいという気持ちが元々あったんです。私の父はレコードが好きで、家にレコードプレーヤーがあったんです。ただ、音楽好きの姉が、全部持っていったんです。だから、私自身は、実はあまりレコードに触れたことがなくて、レコードは見たことがあるけど、自分で針を置く経験はほとんどなくて。未知のものに対する憧れがありました。多分、私と同年代の人はレコードに触れる機会があまりないでしょうし、レコードに触れるきっかけになればという思いがありました」
レコードはデジタルとは違う味わいがあると言われている。自身のアナログ・レコード盤「PRESSED FLOWERS」を聴いて、レコードに対する印象がいい意味で変わった。
「レコードに触れる前は『ノイズが入ってる』『温かい音』『丸っこい音』というイメージがありました。今回、自分のレコードをすごくいい環境で聴かせていただいたのですが、これがレコードの音なの?と驚いたんです。すごく音がキレイで臨場感もあって、音に包まれるようで……これまで意識していなかった音が聴こえてきて、感動体験でした。レコードのイメージが変わりました。もちろん、私が聴いたのは素晴らしい環境だったので、環境によって音が変わると思います。そこも面白いところでレコードの魅力なのかな。皆さんがどう感じるかも聞きたくなりました」
配信によって気軽に音楽を楽しめ、“タイパ”が重視されることもある昨今、プレーヤーにレコードをセットし、針を落とし、A面が終われば、ひっくり返してB面を聴く……というのは、贅沢(ぜいたく)な音楽体験になっているのかもしれない。
「配信は便利ですし、自分たちの日常に添えるものとして音楽を楽しんでいることも多いと思います。『元気をもらいたい』なども含めて自分が中心にあって音楽によって彩りをつけたいという聴き方も多いのかもしれません。でも、レコードは音楽が主役になる。準備をして、針を落として聴くという段階がありますし、音楽に正面から向き合える感じがしています。集中して音楽を聴くことができます。音の違いもありますし、配信やCDとはまた違う新しい体験になると思います」
レコードは、CDや配信の前から存在するが、全盛期を知らない世代には新鮮に感じるところがあるのかもしれない。楠木さんは、レコードを裏返すことが新鮮だったという。
「不思議な感覚です。CDだったらやらないですしね。CDでも“両A面シングル”という言葉は残っていますし、言葉自体は知ってはいましたが、由来を知らない若い人も多いと思います」
◇選曲の理由は?
アナログ・レコード盤「PRESSED FLOWERS」は、楠木さんが「アナログで聴いてほしい楽曲」をセレクトしたコンセプトアルバムとなる。選曲の理由も気になるところだ。
「レコードを出せることになり、父と姉と家族会議を開き、『どの曲がいい?』と候補曲を出してもらい、その中から私が選びました。まさかの身内セレクトです(笑)。CDはその一枚での物語性やコンセプトを大事にしていましたが、レコードは記念品のようなものですし、レコードで聴きたい曲を選びました。楽器の数が多い曲、逆に少ない曲、生音で収録した曲、逆に電子音だけの曲、激しい歌い方の曲、その逆の曲……とある意味でとがっている曲を選んでいます。A面はメロディーが華やかでポップス寄り、B面は空気感が独特で世界観がはっきりしている曲が中心になっています」
レコードには全8曲が収録される。中には泣く泣く収録を諦めた楽曲もあった。
「『Nemesia』『もうひとくち』『alive』なども候補にあったのですが、音質のことを考えると『8曲くらいがいいかもしれない』というお話もあって、泣く泣く削りました。レコード用に『MAYBLUES』の長いバージョン、クラブミックスも作ろうとしていたけど、それも泣く泣くやめまして」
レコードになった自身の楽曲を聴く中で新たな発見もあった。
「例えば『MAYBLUES』は、カッティングのときに『低音を出すのが難しいかもしれない』というお話もあったのですが、実際に聴いたら低音が出ていて、そこに温かみも感じたんです。これまでのソリッドな雰囲気とは違うんです。『DOLL』はボーカルがこれまでよりスモーキーな雰囲気になっていて、うまく言語化できないのですが、変化を感じました。突出した変化があったのはこの2曲です。楽器の音の違いにも耳が向きました。臨場感もありつつ、ボーカルだけが突出していたり、聴こえづらかったりしていなくて、CDとはまた違った感じだったんです。さまざまな歌い方の曲を選んでいるので、その差もすごくはっきり出ています」
レコードはCDよりも大きなジャケットも大きな魅力だ。ジャケットには楠木さんの写真に加え、自身が描いた絵もデザインされる。
「ジャケットは、自然な雰囲気にしたくて、レコードが普及していた1970年代をイメージしています。私は細かい模様を描くのが好きで、CDだと細かい模様を表現するのは難しいですが、レコードのジャケットは大きいですし見ていただけると思ってデザインしています。部屋に飾っても雰囲気のあるジャケットにしたいと思って作らせていただきました。レコードのジャケットをお部屋に飾ることに対して憧れがあるんですよね。音楽を楽しんでほしいのですが、記念品的に持っていただけたらうれしいです。今のところでできるベストのレコードにはなりました!」
◇新しいことをまだまだやっていきたい
9月6日にビルボードライブ横浜(横浜市中区)、9月13日にビルボードライブ大阪(大阪市北区)でライブ「Billboard Live 2026」を開催する。
「初めてのビルボードです。これまでライブハウスやホールではバンドの音を浴びるような環境でしたが、アコースティック編成で音に浸るような落ち着いて楽しめるライブになるんじゃないかなと思います。原曲に忠実なアレンジもあれば、もしかしたら、激しい曲が穏やかになるかもしれません。アーティストデビューする前、インディーズでのライブはアコースティックでしたし、ずっと聴いてくださっている方には懐かしさがあるかもしれませんし、楽しみにしていただければ」
2020年のソロアーティストとしてメジャーデビューしてから約6年たったが、初めてのレコードや初めての会場でのライブなど楠木さんの挑戦は続く。
「ずっとやりたいと言ってきて、できてないのが変わった編成の曲です。ベースとボーカルだけ、ドラムとボーカルだけ、ギターとボーカルだけ、ピアノとボーカルだけの4曲入りをやってみたいです。新しいことをまだまだやっていきたいと思っています」(阿仁間満/MANTANWEB)
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