クスノキの番人:作画6万枚! 東野圭吾作品の初アニメ 伊藤智彦監督が明かす制作秘話
配信日:2026/01/27 20:47
東野圭吾さんの小説が原作の劇場版アニメ「クスノキの番人」を手掛けた伊藤智彦監督、若林豪プロデューサー、藤井翔太プロデューサーが1月25日、沖縄県内で開催されたイベント「沖縄アニメーションフェスティバル2026」でトークショーを行った。
「クスノキの番人」は、理不尽な解雇により職を失った青年・直井玲斗が、謎多き“クスノキの番人”となり、さまざまな事情を抱える人と出会う……というストーリー。東野さんの小説がアニメ化されるのは初めてということも話題になっており、「ソードアート・オンライン」「僕だけがいない街」などで知られる伊藤さんが監督を務める。1月30日に公開される。
伊藤監督は原作を読んだ印象を「東野圭吾さんの作品は一般的にも、殺人事件が起こる作品が多いですよね。でも『クスノキの番人』はそういう話ではなく、ほぼ人は死なない話です。昨今のアニメーションで描かれがちなバトルあり、爆発あり、異世界ありという話では決してないのですが、だからこそ見栄えのする作品にしようと思い取り掛かりました」と語った。
藤井プロデューサーは「自分がこの作品に関わったのは伊藤監督が絵コンテを書き終えられた段階でした。元々ミステリーが大好きで東野圭吾さんの作品をアニメーション化できることはうれしかったです。監督もおっしゃる通り、大きな事件が起きる内容ではありませんから、皆さんに見てもらえる作品にするにはどうしたらよいのか、と思いながら携わってきました。伊藤監督の絵コンテには、ご自身がやりたいことが込められていたので、それをしっかり形にしようと。予告編を見ていただいてもわかる通り、少しタッチの違うアニメーションの絵が一部出てきますよね。映像に緩急をつけるためにアタックになるようなこういったシーンがあるのかなと思っています」と話した。
伊藤監督も「商業的なアニメーションを作り続けていると、どうしても同じような表現方法を取り入れることが多いのですが、違うテイストにチャレンジしてみたいのももくろみの一つでした」と明かし、「この映画を2時間以内に収めようと思いました。2時間という数字にはいろいろな意味があるのですが、そこを大前提に原作のエッセンスを残しながら映画化していく作業を試行錯誤しました。なるべく主人公にフォーカスが当たるように、2時間を超えないように……。予告編を見ていただいても感じると思うのですが、主人公・玲斗はヒーロー然としておらず、むしろ伯母さんである千舟の方がヒーローみたいなんです。その関係性を大事に、ちょっと情けない玲斗がストーリーを通して成長していく様を見せようと心がけました」と裏側を明かした。
伊藤監督は「絵コンテとは、実際にこの脚本がどういう画になるか、どういったセリフをどんな動きで……という設計図みたいなものです。脚本に書かれていなくても、絵コンテを作る段階で特徴的なしぐさやセリフを付け足すこともあります。玲斗の少しひ弱なところや、おどおどした感じを出すために本編で描かれている胸を“とんとん”と叩くしぐさを足したりしました。絵コンテの分量は30分のテレビアニメーションだと大体100ページくらい、映画だと600ページくらいになります。それをずっと一人で書いては皆に見てもらい、意見をもらって書き直す……ということをしていました」と説明。若林さんは「確かに暫くの期間、絵コンテをあげてはさまざまな人に見てもらって感想をもらい、それを修正反映していた印象がある」と振り返った。
伊藤監督は「絵コンテとはいえ、それが面白くなければ映画は面白くなりません。ですのでなるべく考え続けることが重要です。新海誠さんも自分の絵コンテを映像化し、全部のセリフを自分で入れて音楽も入れて、何度も推敲するという話を聞いたことがあり、自分も真似をしてみました。女性の気持ちになって、千舟役の天海祐希さんだと思ってセリフを入れました。セリフは声に出してみないと分からないんです」と続けた。
藤井さんは「そうして作られた絵コンテを見て、気になるところ、途中参加だから気づくことを監督に伝えていきました。改稿を重ねられたのは一緒に作り上げていく感じもあってうれしかったです。作画に入るまでに時間があった上に、伊藤さんは判断が非常に早い。普段絵コンテが出来上がっていると変えにくい事を調整する時間が作れました。東野圭吾さん原作の持つ良さをしっかり詰め込むことに苦心しました」と制作過程での心境を伝えた。
同作はマンガ「ブルーピリオド」の作者として知られる山口つばささんとアニメーターの板垣彰子さんがキャラクターデザインを担当した。
伊藤監督は「小説には挿絵がないので、キャラクターの作り込みは自由度が高いです。東野さんからも『好きにやってください』と言ってもらえていたので、マンガっぽい要素があるといいなという希望は初期から持っていました。『ブルーピリオド』の高い画力がいいなと思っていて、オファーしてみたら受けていただけたんです。最初に上がってきた絵から既に画力が高かった。背中の描写が、画力のあるデッサンをしている人のそれで。板垣さんに関しては、比較的まだ若い方。新たなスターを発掘したい思いもあってお願いしました」と起用理由を説明。
藤井さんは「原案に近いところを山口さんに、板垣さんには実際にアニメーションとして使う時の設定を描いてもらうような分担です。板垣さんには総作画監督も担っていただきました。各々のアニメーターから上がってくる絵を、自分がデザインしたキャラクターにより近づけるために修正していただく役割です。見栄えを直すだけではなく、動きやキャラクター性などさまざまなところを見ていただき、しっかりこだわって作ってもらいました」と話した。
作画枚数は約6万枚にもおよんだ。伊藤監督によると「テレビアニメだと1話数につき4000~5000枚くらいが相場なのですが、それと比較するとものすごい密度」といい、藤井さんは「キャラクター数が多い場合や、アクション、バトル作品は動きがあるのでアニメーションの枚数が増えがちですが、この作品はそういうことではない。それでも芝居が丁寧に描かれているので必然的に枚数が多くなったのだと思います」と続けた。
「天気の子」「花とアリス殺人事件」などで知られる滝口比呂志さんが美術監督として参加している。伊藤監督は「滝口さんは新海監督の『天気の子』などを手掛けています。この作品では間違いなく“クスノキ”がキーポイントになります。これに興味を持って描いていただける方がいいなと考えて、滝口さんが乗ってくださりました。最初の美術ボードが上がってくるまでに相当な時間を要したのですが、ご自身でロケハンに行き、試行錯誤を繰り返してくださった。時間はかかりましたが、おかげで素晴らしいものが上がりました。全編を通して本当にご尽力いただきました」と絶賛した。
直井玲斗役の高橋文哉さん、柳澤千舟役の天海祐希さん、佐治優美役の齋藤飛鳥さん、大場壮貴役の宮世琉弥さん、佐治寿明役の大沢たかおさんといった俳優をメインキャストに起用した。
伊藤監督は「自分が担当する作品は、割と実写の方にお願いすることが多い。主人公の玲斗を演じた高橋さんは長編アニメーション映画で主演を務めるのは初めてですが、非常に前向きに役に取り組んでいただきました。ありがたいという思いしかないです。天海さんは原作を初めて読んだ時から、『千舟は天海さんだ』と思っていました。既にアニメーションの声優もいくつかやられていますが、実際にアフレコをした後も間違いはなかったと思っています」とコメント。
「齋藤飛鳥さんと宮世琉弥さんはオーディションで……というと『実際にはオーディションじゃないでしょう』と言われがちですが、本当にオーディションをしました。ここは声を大にして言いたい(笑)。特に齋藤飛鳥さんご本人は完成披露試写会でも『手応えがなかった』とおっしゃってましたが、キャラクター性が合っていてとても上手でした」と明かした。
藤井さんも「皆さんそのキャラクターにしか見えなくなるほどぴったりですよね。作品に合っていたと思います。高橋さんが実際にアフレコ収録を重ねながらどんどん成長されている様子も、玲斗の成長と合っていてまたそれも良かったと思います。優美は少し気が強いキャラクターではありますが、嫌味がなくてとてもはまっているという声が多いですね」とうなずき、若林さんは「『この皆さんなら実写でも見てみたい』と思ってしまいますよね。声だけではなくキャラクターそのものを体現している方々だと思います。大沢たかおさんは、演じられているキャラクター自体は普通の“おじさん”に見えるのですが、この人にも“秘密”があって、大沢さんが演じられることによってミステリアスさが加わります」と語った。
伊藤監督は「今回音響監督も兼任し、普通ではあまりやらない方法で収録もしました。アニメーションを作っている時にいいサプライズやアクシデントが起きることは少ないのですが、高橋さんと天海さんの“あるシーン”のアフレコ中に少しだけ物足りなさを感じたことがありました。そこで、実際の役者さんですから、向かい合って台詞を言ってもらったらよいのではないか?と思って実践したんですね。千舟の一人称“わたくし”を天海さんが一カ所だけ“わたし”と間違えて読まれました。台本のセリフとは違うのですが、もしかして素の心が現れたからかもしれないと思い、『台本とは違いますが良しとします』と言ったら、背後から『僕もこちらの方がいいと思います』という声が聞こえて。それが、原作の東野圭吾さんでやった!という気持ちでした」とと収録の裏側を明かし、「
Uruさんが歌う主題歌「傍らにて月夜」も話題になっている。同曲は、清水依与吏さんが作詞・作曲し、バンド「back number」が編曲を担当した。伊藤監督は「Uruさんのデビューにまつわる話(Uruさんがback numberの曲をカバーしYouTubeにアップしていた動画がデビューのきっかけの一つとなった)をお聞きして、すごく良いなと感じました。楽曲制作の前に直接、清水さんと話をする時間も作っていただきありがたかったです。やはり映画の最後に流れる楽曲なので、作品と合っていてほしい。エンディングの前の感情も説明した上で、作っていただいた。本当に合っている楽曲になっています」としみじみ。
最後に、若林さんは「間もなく公開となる本作ですが、私も本編のチェック中に泣けてきて見られないこともありました」、藤井さんは「でも、全編通してこだわって作られた作品です。昨今流行っている作品とはテイストが少し異なりますが、どの年代の方が見ても楽しんでいただける作品になっていると思います。劇場の大きなスクリーンと音響で見ていただく意味がある作品になっています。ぜひ、劇場でご覧ください」、伊藤さんは「言いたいことは全て言われてしまいましたが……(笑)。ぜひ、2度、3度見ていただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします」と呼びかけた。
提供元:MANTANWEB











