ペリリュー -楽園のゲルニカ-:終戦80年で劇場版アニメ化 編集担当が明かす誕生秘話 作者・武田一義の熱量と真摯な姿勢
配信日:2025/10/28 12:00
太平洋戦争の激戦の地、ペリリュー島を生きた若者たちを描いた武田一義さんのマンガが原作の劇場版アニメ「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」が、終戦80年の節目である今年12月5日に公開される。既に日本の戦局が悪化していた1944年9月15日に始まった「ペリリュー島の戦い」と、終戦を知らず2年間潜伏し、最後まで生き残った34人の兵士たちを描く。原作は「ヤングアニマル」(白泉社)で2016~21年に連載され、その後連載されたスピンオフ「ペリリュー外伝」を含め、今年6月に約10年にわたる物語が完結した。可愛らしいタッチでありながら戦争が日常であるという狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞したことも話題になった。劇場版アニメ公開に向けて、「ヤングアニマル」の副編集長であり、武田さんの担当編集を務める高村亮さんが「ペリリュー ー楽園のゲルニカー」の誕生秘話などについて語った。
◇第1話で「これはすごいマンガ」 戦場で生きた若者の生と死のリアリティー
高村さんは、武田さんのマンガ家としての初めの印象について、「読み手の感情を揺さぶるすごくいいマンガを描く方だとは思っていたのですが、最初に想像を超えられたのは、ペリリューの戦いに興味を持たれた後の武田先生の行動がとにかく早かったこと。最初は『読み切りを1本描きませんか?』というお話だったのですが、自主的に大量の資料を集めて目を通されていました」と振り返る。
原作の制作についても「ノンフィクションにするか、フィクションにするかという点が悩ましい部分だったのですが、フィクションでの制作を後押ししてくださったのが、原案協力をしてくださっている平塚柾緒(戦史研究家)さんでした。先生は、平塚さんの書いた本と、これまで目を通してきた資料とで若干の違いがあることに気づき、そこに何かあるんじゃないかと感じていたそうです。初めてお会いした時に『何か書かれていないことがあるんじゃないでしょうか?』と質問をされたのですが、その時に出た話が『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』の元になるようなお話の数々でした。『戦争』のリアルをより一層深く表現するのにとても大きな出来事だったと思います」と、原作誕生に隠された貴重なエピソードを明かす。
高村さん自身が物語に可能性を感じた経緯については、「連載第1話のネームをいただいた時点で、これはすごいマンガだと思いました。現代に生まれた自分が見たことのない世界で、戦場で生きた若者たちの生と死のリアリティーがはっきり描かれている。戦争マンガという題材が商業的に難しい点はありつつも、ただその分、読んでもらえさえすれば間違いなく唯一無二の作品になると思いました」と、改めて語っている。
◇可愛い絵だからこそ踏み込んで生死を描ける 武田一義が貫く真摯な姿勢
可愛らしいタッチでありながら戦争が日常であるという狂気をリアルに描く今作。高村さんは「デフォルメされた可愛らしい絵柄で描かれたキャラクターたちですが、武田先生の連載デビュー作『さよならタマちゃん』で描かれたご自身の闘病記というつらい描写が避けられない題材をできるだけ多くの方に届けたい中で生み出された絵柄だと伺っています。可愛いキャラクターの絵は過酷な舞台を描くのに合った発明だったのだなと改めて驚きました。可愛らしい絵柄で描かれたキャラクターたちは、今を生きる読者にとって身近に感じられるキャラクターたちですし、戦場のリアルな一面にも踏み込んで描くことができる。戦場のリアルとは美しかったり、楽しいものばかりではありません。でもそこを避けてしまうと嘘になってしまう。可愛い絵だからこそ踏み込んで人の生き死にを描くことができます。読み手の皆様にどう伝えるのか、という視点で考えられているのが本当に素晴らしいです」と魅力を語る。
改めて武田さんについて、「ご自身のお人柄をベースにした取材力と妥協なくマンガに取り組むストイックさ、その両方を持っているのには本当に目を見張るものがあります。現地に赴く時も、取材対象者に直接お会いする際も、先生はいつもご自身の言葉で質問をして相手の答えを受け止めていらっしゃいましたし、その真摯(しんし)な姿勢が次の取材へとつながり、次から次へと協力してくださる人たちが出てきてくれました。アンガウル島で戦った倉田洋二さんはマンガを知り、自ら武田先生に連絡をしてきてくださいましたし、ペリリュー島で戦った土田喜代一さんは何度も自らの体験を聞かせてくださいました。ペリリュー島でガイドをしてくださった平野雅人さんは今も現地の情報を寄せてくれています。最初は少人数で始めた作品ですが、今では作品を通じて出会った方々とチームを組んだように輪を広げられたのは武田先生のお人柄のなせるものだと思います」と真摯な姿勢をを絶賛。
「取材を生かすマンガへの取り組みも妥協がなく、毎話の打ち合わせからネームになる段階で大きく変わることもあります。そして、マンガへの取り組みも妥協がなく、より良い内容にしたいと何度も描き直しては、それがまた毎回本当に良くなるのです。『ペリリュー』を描き始めた日から今まで変わらず真摯に続けていることが最大の魅力だと思います」と語っている。
そもそも「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」は、終戦70年の折に企画されたムック本の読み切り「ペリリュー玉砕のあと」がきっかけとなり、連載化された。
「連載版は、最短4巻でまとめるという覚悟も事前に話し合っていました。そこから、少しずつ読んでくださる方々が増え、武田先生が思い描く連載の最終話にたどり着くことができました。そして、そのおかげで劇場アニメにもしていただけるというのは思った以上の喜びです。原作マンガが動き出して、10年。その間、武田さんの作品と読者に対する真摯な姿勢は変わっていません。それはアニメ化にあたっても同じで脚本や監修など原作者として、少しでもいい作品になるようにと全力で向き合う姿を見てきました。今回、劇場アニメになる機会をいただけたことで、監督をはじめとする制作陣、キャストの皆さん、関係者の皆さんのお力をお借りして、より広く知ってもらえるのがとてもうれしいです。映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』がどんな仕上がりになっているのか、ぜひ劇場で見ていただきたいなと思います」
劇場アニメは、「魔都精兵のスレイブ」などの久慈悟郎さんが監督を務め、「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」などのシンエイ動画と、「ドッグシグナル」などの冨岳が制作する。原作者の武田さんと西村ジュンジさんが脚本を手掛ける。俳優の板垣李光人さんが主人公・田丸均、中村倫也さんが田丸の相棒・吉敷佳助の声優を務める。
10年間、武田さんと“ペリリュー”の歩みを共にした高村さんもまた、熱い思いで作品を届けるべく、向き合い続けている。類いまれな熱量と真摯に作品へ向き合う姿勢が周囲の数多く人々の心を動かし、新たな戦争マンガの金字塔を作り上げた武田さん。その思いと覚悟をのせた劇場版アニメが終戦80年の12月5日に公開される。今を生きる人々の心に訴えかけるものがきっとあるはずだ。
提供元:MANTANWEB











