駒田航:“生きていくため”に学んだ外国語を武器に 「黒執事」のドイツ語監修とは?

配信日:2025/06/22 7:01

「黒執事 -緑の魔女編-」の一場面(c)Yana Toboso/SQUARE ENIX,Project Black Butler
「黒執事 -緑の魔女編-」の一場面(c)Yana Toboso/SQUARE ENIX,Project Black Butler

 「アイドルマスター SideM」の古論クリス役や「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」の入間銃兎役などで活躍する人気声優の駒田航さんには“もう一つの顔”がある。小中学校時代にドイツで過ごし、ドイツ語や英語に堪能な声優であり、アニメなどに英語監修やドイツ語監修として参加している。アニメ「黒執事」シリーズの「黒執事 -緑の魔女編-」(原作・枢やな/月刊「Gファンタジー」スクウェア・エニックス刊)にもドイツ語監修として参加したことが話題になっている。そもそもドイツ語監修とは何をするものなのだろうか? どうやって英語やドイツ語を身につけ、仕事につなげたのか? 駒田さんを直撃した。

 ◇“ひたすらドイツ語をしゃべるおじいさん”を演じた経緯

 「黒執事 -緑の魔女編-」では、セバスチャン・ミカエリスとシエル・ファントムハイヴが女王の命によって、ドイツで起こる不可解な死亡事件の調査に赴く。ドイツが舞台ということもあり、ドイツ語のセリフが多く出てくる。セバスチャン役の小野大輔さんをインタビューした際に「駒田君のこだわりもすごいんです。感情表現をちゃんと入れた形で教えてくれるんです。『ここは息が荒くなります』『ここはニュアンスをつけるなら、もうちょっと語尾を上げてみてください』と、感情を入れたドイツ語を教えてくれたんです」と話していた。

 収録現場でドイツ語のセリフのある声優に、ドイツ語のニュアンスを教えるのが監修の仕事のようだが、それだけではない。収録前に、ドイツ語のガイド音声を用意して、声優は事前にガイド音声を聞いて練習をしてから本番に臨む。駒田さんは、このガイド音声も用意しているという。

 「僕は英語もドイツ語もネイティブに近い音を再現はできますが、決してネイティブではないです。ネイティブのような表現が必要であれば、ネイティブの方にお願いすべきとも思うのですが、役者の方がちょっと言いづらいところがあった場合、ニュアンスを変えないまま、どうやったら言いやすくなるかをお伝えしなければいけません。ネイティブの外国人の方ではそれがなかなか成立しないことがあるので、役者として一定のクオリティーを担保できるガイド、監修が必要になります。そこに需要があるようなんです。ガイド音声は、皆さんがなるべく言いやすいように工夫や調整をしています」

 駒田さんは英語やドイツ語に堪能で、役者としての視点で提案ができるところが強みになっているようだ。「緑の魔女編」ではセリフの翻訳もオファーされたという。

 「僕はネイティブではないので、僕の親友を紹介して、翻訳をしてもらいました。彼はドイツ時代の同級生で、父がドイツ人、母が日本人で、ドイツ語は完全なネイティブです。普段は、それを武器に一般企業で働いています。彼に翻訳してもらって、僕から『これは多分、役者さんの口が回らないかもしれない』『ここのニュアンスは調整したいかも』『ほかの言い方はないかな』などとリクエストして、微調整してもらいました。それを基にガイドを収録しましたね」

 「緑の魔女編」の第1話では、冒頭で狩りの最中に人狼(ヴェアヴォルフ)の森に入ってしまうブリーゲルという男性キャラクターに加え、“ひたすらドイツ語をしゃべるおじいさん”も自ら演じた。方言がきついという設定の老人で、ドイツ語が分からなくても、なまっていることが何となく分かる絶妙な演技が印象的だった。

 「老人のセリフはかなり長かったんです。ドイツ語のできない方が演じるとなると、収録に膨大な時間がかかってしまいそうだったので、これは僕がやります!と志願しました。しかも方言ですからね。翻訳をお願いした親友に相談しながら、この地方だったら母音のニュアンスが~これははっきり聞こえない方がいいかも~……などいろいろと協力してもらいました。100%の方言を表現するのはもちろん難しいですが、クセが強いということが確かに伝わるニュアンスを探りました」

 ◇共演者の安心感と信頼

 「緑の魔女編」のドイツ語のセリフ量は「ほかの作品と比べてもすごく多い」という。釘宮理恵さんが演じるジークリンデ・サリヴァンのドイツ語は可愛く聞こえるなど、細部へのこだわりも感じる。

 「ドイツ語は音が太く強い印象があるので、釘宮さんの可愛い声だと表現が難しいところもあります。ご本人がしっくりきつつ、可愛く聞こえるようにするため、どこの単語を立てるのかを考えたり、ドイツ語をしゃべっていることがしっかり伝わることに専念して、すり合わせをしました。ネイティブのように聞こえることが正解というよりは、キャラクター性をしっかり出さなければいけないので、案配を丁寧に調整しました。もうちょっとニュアンスを出したいけど、これ以上崩してしまうと、外国語としてのリズムではなくなるかも……など最終的なOKの判断も委ねていただきました」

 声優は「耳がいい」と言われることもある。求められる演技を表現するためには、「耳を鍛える」ことも必要になってくるようで、駒田さんは「皆さん、ガイド音声の再現力がすごい」と話す。

 「普通の人が再現するよりも格段に早いと思います。しかも『黒執事』は、ドイツ語のセリフが長いですからね。皆さん、すごく練習をしてから収録に臨むので、当日はある程度“音”をつかんでくださっています。そこへの最大限のリスペクトを込めて、僕がその場でアドバイスをして飛躍的に何かを大きく変えるというわけではなく、より本物っぽく聞こえるように判断し小さな修正をすることが大事になってきます。言いづらそうな箇所があったら、『ここをゆっくりにして、ここを加速しましょう』『この単語は強く』など、その都度監修をしていました」

 役者としての視点もある駒田さんの存在は、出演者にとって信頼、安心感もあるはずだ。「小野さんをはじめ先輩方がすごく信頼してくださっていて、いろいろなところで今回の僕のことをお話してくれているんです。恐縮ですね」と笑顔で話す。

 ◇外国語に自分の需要を見いだした

 駒田さんは、声優、外国語監修の“二刀流”で活躍する希有な存在だ。

 「外国語だとアニメ以外も仕事もありますし、とりわけ英語に関するものは多いです。表に名前が出ない仕事もあります。役者で外国語監修をしている方はほかにもいらっしゃいますが、僕はかなり多い方だと思います。今13年目ですが、ずっと外国語の仕事をしてきました。『今回は駒田が声優としているから監修もお願いしよう』となることもあります。名前が出なくても、携わらせていただけることがありがたいですから、『役はないですが、ガイドだけでもいいですか?』とお願いされても、喜んで参加しています」

 駒田さんは今やアニメ業界の英語、ドイツ語表現を支えているようだが、デビュー当時は苦労も多かった。

 「最初の2、3年は全然仕事がなかったんです。なんとか食べていけるようになったきっかけが、外国語案件だったんです。アーティストのライブ音声や企業CMなど、日本語と英語を同じ音声で扱えることを条件とした仕事でした。ほかにも社内の外国人労働者に向けた英語と日本語のガイド音声を両方お願いしたいというお仕事など、思い描いていた声優の仕事とは違った角度のものが増えていきました。ここまでやってこれたのは、外国語のおかげです。声優になった頃は、ここまで外国語を生かせるとは思っていませんでした。外国語の仕事を始めた最初の頃、音響監督や監督に『ネイティブの方ではダメなんですか?』と聞いたことがありました。完璧なネイティブの外国人の方々もいる中でなぜ自分なのか純粋に疑問に思ったのです。すると『ネイティブの方にネイティブの音を再現してもらっても、再現も難しい上にお芝居としてのリアリティーがないですよね』と言われたんです。どの単語を立てれば、どういうアクセントにすれば、どこが流暢に聞こえれば、今のキャラクターの気持ちが的確に表現できるかなどのニュアンスを伝えると役者は演じやすいんです。その言葉をいただいてから、そうなんだ!と納得できて、自分の需要を見いだしたところがありました」

 自身の強みを生かしつつ、作品をよりよくするために一歩引くこともあるという。

 「ずっと海外で暮らしてきたこともあり、外国語の発音やニュアンスの感覚がありますし、それを分かりやすく伝えることができます。そこが僕の一番の強みです。きっちり翻訳することが正解の場合は、僕ではなく専門の方に依頼するようお願いしています。僕が『全部できます!』と言ってなんとなくやってしまうこともできますが、ほかの方にお願いするともっと正解に近付くことを伝えます。誇張せず、自分の身の程をわきまえた上で、外国語の仕事をしようとしています」

 ◇英語をしゃべれなくて泣いた日々

 そもそも駒田さんはどうやって英語やドイツ語を身につけたのだろうか? 出身はドイツで、幼少期をドイツで過ごしたようだが……。

 「若干複雑でして、生まれ自体は日本なんです。元々、家族はドイツに住んでいて、僕が生まれたのはベルリンの壁が崩れる年でした。ベルリンの壁が崩れたのが11月で、僕は9月生まれなのですが、ドイツがどうなるか分からなかったので、母は僕を身ごもったまま帰国して、日本で出産しました。父はドイツのケルンで働いていて、ドイツに残りました。どうやら大丈夫そう……となって生後3カ月で、母と共にドイツに渡ったんです。母はタフですよね(笑)。5歳までドイツで過ごし、一旦帰国して、その後は小学校4年生から中学3年生までミュンヘンで過ごしました」

 小学4年生となり、再びドイツで生活するようになった際、外国語で苦労することも多かった。

 「ドイツのインターナショナルスクールに通っていたので、家では日本語、学校では英語、ご近所付き合いや買い物などはドイツ語というトリリンガルライフでした。でも、現実は甘くありません。ただ外国で暮らすだけではしゃべれるようにはならないんですよね。最初の1年間くらいはしゃべれないことがつらくて、毎日泣いてました。周りが外国人だらけの環境は、5歳まで住んでいたこともあって違和感は感じなかったですし、そのまま学校でも当然のようにコミュニケーションがとれると思っていたら、勝手が違って、全然しゃべれなくて、それが大きなフラストレーションになっていました。母に、困ったら『I don’t know』と言うのよと言われていたけど、一日中『I don’t know』しか言っていなくて、自分に嫌気が差してしまいました。子供ながらにすごく負荷を感じ、何とかこの世界を変えたかったんです。学校には60カ国くらい子供が通っていたので、英語を習得するための先生もいて、助けてくれるんですね。友達もバカにすることなく、教えてくれました。幼稚園から高校までの大きな学校でしたので、幼稚園の図書館で絵本から勉強を始めました。辞書もすり切れるくらい使い倒しました。絵本でも分からない単語があると、プライドを捨てて、先生や友達に聞きました。みんなが優しく教えてくれた。一生懸命勉強したと胸張って言えるくらいには当時頑張りまして、どうにか学校生活を充実させることが出来るまでになりました。周りに恵まれたのは大きいですね」

 ドイツで生活する中でドイツ語も学んでいった。

 「英語が生きていくうえで死活問題だったので、英語は必死に習得しつつ、日本で英語を習うように学校でドイツ語を教えられていたので、ドイツ語も最低限身につけていきました。学校に通っている現地のドイツ人の友人に教えてもらったり、学校以外で遊んでいるとご近所さんはみんなドイツ語なので、そこで日常会話を学んでいきました。生きていくための勉強だったんです」

 当時は声優を目指していたわけではなく、帰国後に日本語吹替版の映画を見たことをきっかけに声優を目指すようになった。

 「父が海外で仕事をしていたから、自分もそういう仕事をしていくものだと思っていました。声優を目指すようになったのは高校2年生の頃です。日本語をしゃべる仕事だと思っていたので、外国語の使い道はないかな?と思っていました。僕が子供の頃のアニメは、外国人のキャラクターはあえて片言の日本語をしゃべることが多かったけど、今は変わってきていますよね。そういう時代の変化にアジャストできて、外国語が今生きてきているんだと思います。年々、外国語をしゃべる仕事が増えていますしね」

 「僕が外国語に携わる時、一番大事にしているのは、違和感がなく楽しんでいただくことです」とも話す。

 「『黒執事』でしたら、自分が好きな小野大輔さんや坂本真綾さんたちが、素晴らしいお芝居で、素晴らしい作品を作っていますし、外国語のシーンで『なんか違う』と思われるのが嫌なんです。一視聴者として自分が大好きな作品が、外国語のシーンで『あれ?』って思われるようなことにはなってほしくないんです。外国語は本当に難しいですし、急にできるものでもありません。違和感なく楽しんでもらえるラインに何とか持っていきたい、外国語を使ったおかげでキャラクターの魅力が増すことを目標にしたい。そのために、限られた時間で役者さんの外国語の最高値を引き出せるようにするにはどう伝えれば良いかの研究を重ねています。役者さんからも制作陣からも、駒田に任せると外国語のシーンがスムーズで分かりやすいと言ってもらえるように、今後も外国語に違和感ややり辛さがなくなるようなお手伝いをしていけたらと思います」

 日本のアニメは世界中で愛されている。日本での放送後、すぐに海外に配信される作品もある。日本のアニメがグローバル化する中で、駒田さんはさらなる活躍が期待される。

 「海外のアニメで、声優を変えずに、僕が日本語と英語、ドイツ語の全てを演じるというのもやってみたいです。アニメがボーダーレスになっているので、そういうこともできるかもしれませんよね。なので僕自身も外国語の勉強は欠かせません。言葉はすごく魅力的です。世界を広げてくれます。まだまだ可能性はありそうだなと個人的に思っています」

提供元:MANTANWEB

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