YAIBA:名作“完全アニメ化”の舞台裏 「今だからこそ甦るべき」 青山剛昌の絵を再現 キャラクターデザイン/総作画監督・亀田祥倫に聞く

配信日:2025/06/14 7:31

「真・侍伝 YAIBA」の一場面(C)青山剛昌/小学館/真・侍伝YAIBA製作委員会
「真・侍伝 YAIBA」の一場面(C)青山剛昌/小学館/真・侍伝YAIBA製作委員会

 「名探偵コナン」などで知られる青山剛昌さんの剣劇アクションマンガ「YAIBA」の新作テレビアニメ「真・侍伝 YAIBA」(読売テレビ・日本テレビ系、土曜午後5時半)。原作者の青山さんがシナリオを完全監修し、完結から約30年の時を経て名作が“完全アニメ化”されることになった。「進撃の巨人」Season1~3、「SPY×FAMILY」「王様ランキング」などで知られるWIT STUDIOがアニメを制作し、舞台を現代にアップデートした。新しさがありながらも、連載当時の青山さんの絵を再現したかのような懐かしさもある。企画段階から携わったキャラクターデザイン/総作画監督の亀田祥倫さんに完全アニメ化の裏側、制作のこだわりを聞いた。

 ◇コロナ禍に始まった企画 「これはアニメにするの大変すぎるぞ」

 --「YAIBA」との出会いを教えてください。魅力を感じるところは?

 「YAIBA」との出会いは小学生低学年の頃だったと思います。なにかの都合で親の会社に遊びに行った時に本棚にサンデーがたくさん積んであったので、なんとなくパラパラ眺めたことがきっかけでした。「YAIBA」の闘いの軌跡をたどるような特集のページがある号だったと思います。それで、なんだこのカッコいいマンガは!?と思い、近所の本屋に行くと単行本がたくさん置いてあって、でも新品を買うには子供の小遣いには限界があったので古本屋で1巻から半年くらいかけて買いそろえたような気がします。魅力はなんといってもカッコいい刃と可愛いさやか、雷神剣、風神剣、後に出てくる覇王剣。これに尽きました。

 --「YAIBA」が完全アニメ化されることになった経緯は?

 企画を考えはじめたのは、コロナ期の2021年夏くらいだったかなと思います。岡田麻衣子プロデューサーから「なにかやりたい作品ありますか?」って聞かれたことがきっかけです。コロナ期のなんか鬱屈とした気分を跳ねのけたかったのか、「YAIBAがやりたい」とすぐ返事した気がします。そのころ「封神演義」「シャーマンキング」「中華一番!」といった作品が再アニメ化されていて、ヤバいこんな感じで「YAIBA」もどこかでアニメ化されちゃうかも! いやすでにどこかの会社が作ってるかもしれない!っていう焦りもあったのかもしれません。そこで企画書を作るにあたって久しぶりに読み返すわけですが、内容が重くてびびりました(笑)。これはアニメにするの大変すぎるぞって。

 ですが完成のビジョンがなんとなく浮かんでしまい、それを具現化できるスタッフにとりあえず声かけをはじめてみました。監督の蓮井隆弘さん、サブキャラクターデザイン/メインアニメーターの前並武志さん、特技監督の桝田浩史さん、ベテランアニメーターの大城勝さんの4人には企画を作る際に作品への協力をお願いさせていただきました。この4人がやれないとなると諦めるつもりでした。

 なんとか企画書を作り、提出してみたらどうもやれそうな流れになり、青山先生へごあいさつをしに行くことになりました。先生に会いに行くまでに全何話でやるのかざっくりとしたプロットと令和の放送に対してどういうアプローチをしていくのか、キャスティングをどうするか等々いくつか提案材料を揃えて挑みました。

 先生の感触は非常に良くて、「待ってました!」と言ってもらい安堵(あんど)しました。こちらからの提案に基本的には寄り添ってくださり、その時の話の流れでマンガにはなかった設定とかまで決めることができました。また、1993年に放送された「剣勇伝説YAIBA」の放送当時のお話を聞かせてもらったり、お土産に過去に描いた「YAIBA」の年賀状までいただきました。

 ◇「名探偵コナン」とは違った絵の魅力を表現 第1話アバンの決意表明

 --キャラクターデザイン/総作画監督として、こだわっていることは?

 キャラクターデザインとしてこだわっているのは、当時の青山先生の絵の再現でしょうか。自分が読んでいた当時の印象はなんて格好いい絵なんだ!!!でしたので、現在の「名探偵コナン」の先生の絵とは違った魅力が表現できればなあと思いました。なので最近の絵にブラッシュアップするようなことはしないと企画段階で決めていました。青山先生のもとにお伺いした時もラフを見せて驚かれました。「昔のおれの絵だあ!」と言っていただき、この方向性で行くことにGOサインをいただきました。念のためキャラクターデザインは全て青山先生にチェックしていただいているのですが、赤ペンも入ることが少なくて信頼されてるのかな?と自信にもつながっています。

 ただ、青山先生の絵を再現するにあたって自分が気づいたことなどを他のスタッフへ伝えるための作画注意事項がどうしても多くなってしまいました。振り向く時の鼻の扱いとか、瞳や口の描き方、刃の髪型のバランス、髪のなびかせ方、寄り目がちだったり、顔の輪郭が下膨れ気味だったり。それだけで似せられるわけではないのですが、どうしてもキャラを描くためのルールは多くなってしまいます。その分、映像表現や動かし方は自由度の高いものにしているつもりですが。

 また今回のアニメの特徴として、先生のカラー原稿のようなカットを入れ込むことにもチャレンジしていまして、新キャラ登場の名乗りカットとか、ラストカットの止め絵等々をセル塗りではない特殊カットとして作っています。「真・侍伝 YAIBA」ではこれをやるために特殊効果と呼ばれるセクションを作りました。三田遼子さんと木野村彗奈さんの2人に作業をしていただいてます。青山先生の絵の淡い水彩表現はやはり簡単には再現できず、何度も何度も試行錯誤していただいています。また「YAIBA」の頃のカラー原稿が多くはないので、そこは「名探偵コナン」の画集を見ながら色を決めたり塗り方を決めています。視聴者のファンの方には非常に喜んでもらえているみたいで安心しました。

 --「真・侍伝 YAIBA」第1話のアバンでは、原作のクライマックスに当たる「ヤマタノオロチ編」を思わせる描写で、刃が覇王剣、鬼丸が魔王剣を手にしている姿も話題になりました。「ヤマタノオロチ編」は、「剣勇伝説YAIBA」ではアニメ化されなかったパートでもあります。第1話のアバンの意味するものは?

 1話のアバンでヤマタノオロチをやりたいと言い出したのは僕ですね。これも企画段階で言いました。普通に1話を制作すると、ジャングル少年の剣道アニメっていう印象になるのが、自分の「YAIBA」へのワクワク感が満たされなくてもったいなく感じたので、いっそのこと力がインフレしている刃VS鬼丸を見せて、こんなバトルが今後待ってるぞと期待感を煽ろうと思いました。しかも原作好きならみんな映像化を待ち望んでるヤマタノオロチ編ですので、自分みたいなYAIBAファンへ「真・侍伝 YAIBA」は最後までヤル気満々だぞ!と決意表明のつもりでもありました。

 おまけに自分で原画までやらせていただきました。仕上げるまでに時間はかかりましたが、自分で原画をやることで「YAIBA」への解像度も上げることができて良かったです。青山先生が最初に描いてくれたティザービジュアルも覇王剣がでかでかと描かれていて、1話の構成を受けての先生からの決意表明だと後で聞きまして、思いが一つになったことが非常にうれしかったです。

 ◇完結から30年を経ても色あせない「YAIBA」の魅力 びっくりさせるアニメに

 --制作の中で大変なこと、苦労していることは?

 「YAIBA」のアニメ化は、予想通りでしたが内容が重たいことを痛感しています(笑)。アクションが多いのはもちろんですが、毎話数違う場所へ移動したり、違う敵と闘い、衣装や小物の合わせが変わるので、作画・仕上げ・美術・撮影など、毎話数で決めないといけないものも多く、Bankカット(使いまわしができるカット)が作りにくくなってしまっているのが難点で、とりあえずストロングスタイルでやってしまっています。しかも長期作品というのもあって、ストックを作った状態で放送は始められたものの、毎週そのストックがなくなっていくのでなんやかんやで残り話数をギリギリの状態で制作することを強いられていて非常にスリリングですね(笑)。Bankカットなどを作ってカロリー計算することが今後の課題にも感じました。

 --では逆に、楽しさや喜びを感じるところは?

 うれしいことはなんといっても放送されて反響をSNSなどで見ることですね。2年くらい前から作業に入っていましたので、ようやく放送を見てもらって反響をもらう。これでようやく完成って気分ですね。スタッフたちと一緒に放送をリアルタイムで見たりできるのも非常に楽しい時間です。青山先生からも1話を10回見たと聞いています(笑)。そういう話が聞こえてくると頑張ってる甲斐(かい)があるなぁと思います。欲を言えば、アニメとしてかなり出来が良く内容も面白いと思いますので、もっとたくさんの人に見てもらいたいことですかね(笑)。こればっかりはもう僕たちアニメ制作現場ではどうしようもないことですが。

 --「真・侍伝 YAIBA」の制作の中で、改めて感じる青山さんの絵のすごさは?

 「YAIBA」のマンガを改めて読み返すと、キャラクターたちの魅力はもちろんですが、アクションの躍動感とポージングの良さを含めたコマ割りが天才的ですね。あとは名ゼリフの応酬と、キメ絵の良さ。読むだけで自然とテンポが生まれてきます。週刊連載とは思えない完成度だなと改めて思います。読んでた当時は後半に行く度にシリアスさが増して手に汗握りました。青山先生が学生の頃、アニメを作っていたことは何かのインタビューで答えていらしたので知っていましたが、そういう経験もあってのこのビジュアルの良さなんだろうなあと思います。

 --令和の今、「YAIBA」のアニメを放送する意義とは? 「真・侍伝 YAIBA」ならではの魅力を教えてください。

 まずは、「真・侍伝 YAIBA」として自分が作品に関われていることがうれしいです。「なんで令和に?」ってよく聞かれますが、アニメは毎クール多くの作品が放送されていますが、ジャンルは結構偏っているように感じます。中でも「YAIBA」のような年齢問わずの冒険活劇をしているアニメは非常に少ないように思いますし、ましてやマンガでもこういう作品は少なく感じますので、今だからこそこの名作が甦るべきだとも思っています。鬼丸に立ち向かうという明確な目的がありつつ、名だたる剣豪たちが出てきたり、旅をしてアイテムをゲットするワクワク感、剣に玉を入れ替えることで能力を変えて敵とバトルするゲーム性。完結から約30年が経った作品ではありますが、この辺りの設定が現代でも人気を博すことは、戦隊ものや仮面ライダーが証明してくれているように思います。

 ただ、令和に「YAIBA」を描くにあたって、さやかにスマホを持たせたり、東京の新しいランドマークが見える浅草を舞台にしたり、世界観を現代にアップデートさせました。さらに青山先生がシナリオを監修してくださっているのもあってマンガの改変にも無理がなく、大事なところは押さえつつ物語のテンポをあげることにも成功していると思っています。自分みたいなマンガリアルタイム世代が楽しめるのは大前提ですが、アニメチームのスキルを余すことなく駆使し、現在放送してる他のアニメとも戦えるクオリティーに「真・侍伝 YAIBA」は昇華できていると思いますので、初めて見る人にもなんだこのアニメは!?とびっくりしてもらえると思います。子供にも見やすいエンタメ作品ですので家族で見て楽しめる作品にもなっています。非常に贅沢なアニメ化になったと自負していますのでご期待ください。今後、原作勢もびっくりするような展開であったり仕掛けを作っていますので、そちらもお楽しみに!

提供元:MANTANWEB

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