薬屋のひとりごと:誕生秘話 デビュー作が大ヒット 原作者・日向夏インタビュー
配信日:2025/05/30 7:05

日向夏さんのデビュー作にして大ヒット作となったライトノベル「薬屋のひとりごと」(ヒーロー文庫)。コミカライズ、テレビアニメも人気で、シリーズ累計発行部数は4000万部以上を誇る。日向夏さんに「薬屋のひとりごと」の誕生の裏側を聞いた。
◇きっかけは東日本大震災
「薬屋のひとりごと」は、とある大陸の華やかな後宮で、毒見役の少女・猫猫が、美形の後宮管理者・壬氏と共に陰謀やウワサのひしめく後宮で起きる事件に巻き込まれていくことになる。テレビアニメ第1期が日本テレビ系で2023年10月~2024年3月に放送された。第2期が、日本テレビのアニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」で放送中。
日向夏さんは学生時代にも小説を書いていた。ただ、プロを目指していたわけではないという。
「大学時代にお小遣い稼ぎに書いたことがあります。暇だから書いてみて、賞に出したことがあって、賞金目当てですね。それが、賞にちょっとかすって、貧乏学生のお小遣いになったと。ただ、それでは食べていけませんから。私が生まれ育った家庭は“石橋を叩いて渡る”が基本でしたし、子供の頃はまっとうな仕事に就きたかったんです。警察官になりたかった時期もありましたが、身長が足りないので、諦めました。農家になろうと思ったこともありましたが、うちは農家じゃないから、農地を用意するところから始めないといけないので、諦めたり。公務員になった方がいいとか言われたこともありましたが、なんやかんやで普通の会社員になりました」
日向夏さんは小説投稿サイト「小説家になろう」で2011年10月に「薬屋のひとりごと」の連載を開始した。作家を目指していたわけでもないのに、再び筆を執った理由を「暇だったんですよ」と明かす。
「東日本大震災があって、私は関東にいたのですが、あの時は娯楽がなかった時期でした。家でネットを見ていたら、小説家になろうを見つけたんです。学生時代には小説を書いたこともありましたが、その後は書いていませんでした」
◇初期構想は3人の子持ちの女性
「小説家になろう」には、さまざまなジャンルの小説が投稿されている。中でも人気なのが、異世界転生などのファンタジーだ。当時は異世界転生が特に人気だった。
「ファンタジーは、ほかの人がいっぱい書いているし、書かなくていいかな?と。元々、頭の中にあったのは、鉱山の街にいる3人の子持ちの女性の話でした。毒で死んでいる人を発見するというミステリーなのですが、まずウケないだろうなと思っていました。小説家になろうは、ラノベが多いですし、若い人を主人公にした方がいいでしょうし」
“3人の子持ちの女性”という構想から「薬屋のひとりごと」の主人公・猫猫が生まれた。
「10代を主人公にすると、経験豊富な子持ちの女性のようにはいきません。薬屋にすることで、薬の知識があることにしました。鉱山の街というのも少し渋いので、華やかな後宮を舞台としました。後宮だったら、毒があってもおかしくないですし、消去法で決まっていったところもありました」
「薬屋のひとりごと」はミステリー要素も人気の作品だが、ミステリーは「人並みとしか言いようがないんですよね。作家の友達を見ると、月に何十冊も読んでいますし、私はそんなに読んでいないですし。京極夏彦先生は読んでいて、中華風の小説では『十二国記』を読んでいました」とそれほど熱心な読者というわけではなかったという。
薬や毒に関しては「皆さん知ってるような知識ばかりです。基本的にそこまで専門知識はいらないですし。学生時代に武則天さまにハマっていました。唐の時代の女帝です。ずっと調べていて、薬の知識はそこら辺からですね」と話す。
◇エンディングを探っている
「薬屋のひとりごと」は、張り巡らされた伏線が徐々に回収されていく。小さな事件が国をも揺るがす大事件につながっていく。
「小説家になろうはプロットとして書いています。書籍になる際、バランスを考えて、削ったり、足したり、順番を入れ替えたりしているので、話が違うところもありますが、枝が違うだけであって、幹は変わりません。書籍版の11巻くらいまでのところで、一度けりを付けたつもりで書いていました。ただ、続いちゃったので、次のエンディングを探っています。『薬屋のひとりごと』は1巻で読み終わってもいいし、2巻で満足してもらってもいい。それ以上が気になっていただけるのであれば、続きもどんどん読んでいただければ……という感じで書いています」
“次のエンディング”も気になるところではあるが、日向夏さんは「もうちょっと続いていくんでしょうね。皆さんに満足していただける終わり方を頑張って探っていきます」と語る。一体どうなっていくのか……。今後の展開も注目される。
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