mono:若手クリエーターの個性光る 「ゆるキャン△」と差別化 スタッフに聞くアニメ化の裏側
配信日:2025/05/25 0:27

「ゆるキャン△」で知られるあfろさんのマンガが原作のテレビアニメ「mono」。原作は、「まんがタイムきららキャラット」(芳文社)で連載中のマンガで、写真部と映画研究部が合併した“シネフォト部”の女子高生たちの日常が描かれる。アニメは、山梨などの“聖地”の風景が美しく描かれ、車、バイク、グルメ、ギャグ、日常……とさまざまな魅力がアニメならではの演出で表現されている。アニメでは、マンガがアニメ化される裏側が描かれていることも話題になっているが、「mono」の場合は? 原作の編集を担当する芳文社の黒田悠生さん、アニメを手掛けるソワネの藤田規聖プロデューサー、アニプレックスの田中瑛プロデューサーに聞いた。
◇「ゆるキャン△」の取材や経験を生かした4コマ
--「ゆるキャン△」を連載中に「mono」の連載が始まった経緯は?
黒田さん あfろ先生は「ゆるキャン△」の前にも4コマがあったのですが、「ゆるキャン△」がアニメ化する前に、4コマはいかがでしょうか?と提案しました。「魔法少女まどか☆マギカ」のスピンオフ4コマの連載が終わったタイミングだったこともあり、「ゆるキャン△」の取材や経験を生かしつつ、4コマを描いていただくことになりました。
--カメラが大きな要素にもなっています。
黒田さん 先生はカメラというより、ガジェットに興味がある方です。「mono」に出てくる360度カメラのモデルになった機種は、もともと「ゆるキャン△」の取材でも使用していたもので「ゆるキャン△」でも魚眼レンズを使った構図がよく出てきます。
藤田さん 原作の画角がすごくこだわっていて、そこも面白いんですよね。ただ、アニメで動かすのは難しい……。これをアニメにするにはどうするのか?を考えました。360度カメラをアニメで動かすなんてなかなかありませんし、見たこともありませんでしたので、かなり大変でした。第1話で、CGさんと撮影さんといろいろ試行錯誤して、何とか形になりました。横長で描いた画を3DCGソフト「Blender」で円球にはめ込んでいくのですが、それを動かすとなると難易度がかなり高くなります。毎回は難しいため、効果的に使っています。
--カメラ以外も車、バイク、グルメなどさまざまな魅力があります。
黒田さん 先生はツーリングが趣味で、その延長にキャンプがあって。ツーリングでいろいろなところに行くんですよね。先生が好きな「水曜どうでしょう」の影響も大きいと思います。
◇なるべくブレーキを踏まない
--アニメ化の際に大切にしたことは?
藤田さん プロデューサーとして監督や現場にお伝えしたのは、ギャグをしっかり表現することです。「ゆるキャン△」のようなアニメにするのではなく、差別化を図ろうとしました。作監さんや演出さんの色を出しつつ、クリエーターの個性に富んだ映像にすることを考えていました。
田中さん 3つあります。僕は学生の時に「まんがタイムきらら」原作の作品を見て、アニメ業界を目指したくらい、大好きなんです。ファン目線で、作品にこうあってほしい!という願望を大事にすることがひとつです。もう1つは、ソワネさんのやりたいことをできるだけやること。クリエーターさんが前のめりになってくださっているので、可能な限りノーを言わない。なるべくブレーキを踏みたくないと思っていました。最後は、原作から逸脱しないことです。4コマをアニメ化する時には描かれていない行間を埋める作業が発生するのですが、シリーズ構成の米内山陽子さんに大変お力添えいただいて、原作から外れずに行間の空白も丁寧に落とし込んでいただきました。
--原作者のあfろさんはアニメに関わっている?
黒田さん 監修、本読みに参加しています。キャラクターのデザインは、細かいところまで見ていただきました。
田中さん 行き詰まった時、先生がいてくださったことがすごく大きかったです。
黒田さん 基本はアニメのスタッフの方にお任せしています。第3話は、特に場面がいろいろ移り変わるので、アニメに落とし込むことのは難しいのでは?というお話もあったのですが、バランスが素晴らしいんですよね。それは先生もすごくよかったと言っていました。ほかだと第1話のひねり揚げが落ちるシーン、360度カメラの映像、第2話のたこあげ、第5話のトンネルを出たところの演出……とアニメならではの面白さを毎回楽しませていただいています。
◇“聖地”の空気、匂いを表現する
--山梨などの風景も美しく表現されています。ロケハンにも力を入れた?
藤田さん 空気、匂いなどをうまく落とし込もうとしました。現地に行かないと分からないものもあります。写真ではなく、実際に自分の目で見ると印象も変わるので、できるだけ各話の演出の方にも現地に行ってもらいました。場合によっては一日で回りきれないこともあったので、宿泊してもらったことも。
田中さん ロケハンが特に重要な作品です。細かいところは実際に見てみないと分からないものですしね。ロケハンの多さという意味では特殊かもしれません。
藤田さん 実際に見たものを表現することで、説得力が増すんです。それが、美術、音響、キャラの芝居にも生きていくはずです。
--どこまでリアルに表現しようとした?
藤田さん そこは美術の方がバランスを考えてくれたことが大きいと思います。美峰さんが担当していただいているのですが、アニメの背景に落とし込む際、長年の技術、ノウハウがありますし、キャラが乗っても浮いてるなって印象にはなりません。実際に、足を運んだ時に印象に近付いていると思います。
--第3話は、アニメ化される「ゆるキャン△」の聖地巡礼をする……という展開も話題になりました。
田中さん これまでにない挑戦でした。事前に作品の知識がないと、分からないかも……という不安もあったのですが、蓋を開けてみたら、SNSで解説をしてくれる方もいて、楽しんでいただけたようでうれしいです。ほかのアニメの聖地巡礼をアニメ内で描くのは、聞いたことがない。実はすごいことをしているエピソードです。
黒田さん 原作にもあるエピソードだからこそできたのかもですね。
◇アニソンを取り戻せ!
--各話に見どころもあります。
田中さん 各話でクリエーターさんの個性がしっかり出ていることで、緩急が付いており、全話に魅力があります。特に、第8話ではいい意味で、これ何のアニメだっけ?となるところがあります。
藤田さん 原作を守りつつ、クリエーターそれぞれの面白さを見せていきたいと考えていました。
--若いクリエーターも多い?
藤田さん 多いですね。演出プランが第1話で固まって、それに沿って進める作品も多いですが、本作は各話演出の意見もできる限り取り入れているので、そこも楽しく見ていただくポイントになっています。
田中さん 一本筋は通っているんだけど、結果としてオムニバスっぽい作り方に見えますよね。。
--注目のクリエーターは?
藤田さん 皆さん、注目です! 先日放送された第7話でしたら、作監の高橋瑞紀さんにすごく丁寧な作り方をしていただきました。コンテ、演出の仲神友貴さんにも注目です。第8話ですと、コンテ、演出の牧野秀則さんはアニメーターとしても素晴らしい才能のある方で、すごく丁寧なのですが、演出にもしっかり反映されています。第8話は西原大樹さんの一人作監なのですが、クオリティーが素晴らしい。どの方も素晴らしいのですが。
田中さん 音の力も大きいです。劇伴を百石元さんにお願いしているのですが、楽しいところから急にグッとくる音楽が流れていたり、クロクマ先生のシーンはホラーになっていたり、音楽にも緩急があって、アニメで映えています。また、キャストさんの力の大きさも感じています。メインキャラクターの5人はオーディションの段階から、キャラクターそのものに見えていました。先生にもオーディションに参加していただきましたが、全員の総意で決まっていますし、ほかの人は考えられないくらいハマり役です。
--今後、楽しみにしてほしいことは?
藤田さん クリエーターがそれぞれ個性を出しつつ、最終話まで駆け抜けていきます。若いスタッフが多いですし、今後の活躍にもご期待ください。
田中さん 令和にキャラソンアルバムを出します。最近、減っていますよね。アニソンを取り戻せ!みたいなコンセプトから構想したので楽しんでもらえるとうれしいです。ブルーレイの市場も縮小しつつありますが、そんな時だからこそ、ぜひブルーレイを手に取っていただきたいです。ガジェットを扱っている作品ですし、“mono”の魅力を伝えていきたいですし、ブルーレイという文化を残していきたい。特典も豪華です。個人的には“mono”とは何か?を探していて、最終回が終わって“mono”が見つかるとうれしいです。
田中プロデューサーの「なるべくブレーキを踏まない」という言葉にもあるように、「mono」は若手クリエーターが全力で表現し、それぞれの個性が光る映像が大きな魅力となっている。ぜひ何度も見返して、クリエーター陣のこだわりを感じてほしい。
提供元:MANTANWEB