古川慎:「るろうに剣心」インタビュー 志々雄真実は「ただ一人の悪党」 絶対的な悪をどう輝かせるか
配信日:2025/03/29 10:11

和月伸宏さんの人気マンガが原作の新作テレビアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」の第2期「京都動乱」。主人公・緋村剣心と志々雄一派との熾烈な戦いが描かれる「京都編」は原作でも人気のエピソードで、悪のカリスマとも言える屈指の人気キャラクター・志々雄真実を演じるのが古川慎さんだ。「一声聞いただけで『こいつは悪い奴』『でも格好いいやつだな』と思わせる響き方、しゃべり方」を模索し、葛藤しているという古川さんに演技のこだわり、志々雄真実、十本刀の魅力を聞いた。
◇志々雄真実に大きなプレッシャー “剣心”斉藤壮馬の存在
「るろうに剣心」は、1994~99年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された人気マンガ。幕末に人斬り抜刀斎として恐れられた緋村剣心が明治維新後、不殺を誓った流浪人として、新たな時代の生き方を模索していく姿を描いた。新章の「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚・北海道編-」が、2017年から月刊マンガ誌「ジャンプSQ.(スクエア)」(同)で連載中。スタッフ・キャストを一新し、新作テレビアニメシリーズとして、2023年7月に第1期全24話が放送され、2024年10月に第2期がフジテレビのアニメ枠「ノイタミナ」ほかで放送をスタート。最終話となる第47話「見事な夜」が3月20日に放送された。第3期の制作も発表されている。
古川さんは、連載時から「るろうに剣心」を愛読していたファンで、オーディションにより志々雄真実を演じることが決まった時は「嘘だろう」と思ったという。古川さんは、志々雄真実以外の別の役で過去2回「るろうに剣心」のオーディションを受けていた。
「オーディションの度に『今回は駄目だった』と結果が返ってくる流れがあったのですが、そんな中で、十本刀、志々雄真実のオーディションの話が来た時に、もちろん自分が思う志々雄真実を全力でやるわけですが、受かるとはもう思っていなかった(笑)。これまでのキャラクターもそうなのですが、志々雄真実に関しては、恐らく作品一の魅力的な悪役と言っても過言ではない。だから、全力で投げたものが良い結果になって戻ってきた時は非常にうれしかったのと同時に大変なプレッシャーを感じました」
志々雄真実を演じることになり、改めて原作を読み返した古川さんは「剣心と対になる志々雄真実をどういうふうに演じていったらいいのだろう」と頭を抱えた。
「好きであったり、昔見ていて面白いと思えた作品であったりするほど、自分の中のハードルが上がるものはない。そういうハードルを越えながら、一つ一つを落とし込んでいくという作業の繰り返し。それが難しくもあり、楽しくもあります」
大きなプレッシャー、責任を乗り越える上で一つのきっかけとなったのが、剣心を演じる斉藤壮馬さんの存在だった。
「このところ別の作品でも、僕と斉藤くんは対立する関係のキャスティングが多くて、『もしかして斉藤くんが真ん中にいるから、僕はここにいるのかな』と考えることもあったんです。もちろん自分が出したものを正当に評価していただいたところもあるとは思うのですが。そんな中で、斉藤くんの演じる緋村剣心がすごくいい意味で無理をしていないというか。斉藤壮馬という人間が手練手管を使って、見事に昇華させている。本人もプレッシャーを感じているとは思うのですが、まさに斉藤壮馬の緋村剣心を見させていただいたからこそ、新たな古川慎の志々雄真実にしなくちゃいけないんだなと、一つぼんやりと方針が固まった」
古川さんは、斉藤さんが演じる剣心が「ものすごく等身大の剣心に聞こえる」と感じているといい、「その等身大加減を見て、志々雄真実が剣心と対になる存在なのであれば、自分も等身大の志々雄真実というものを作っていくべきなんじゃないかと。そのために自分がどの引き出しを開けていけばいいのかという指針が見えてきたところがあるので、やはり彼の存在はでかいですね」と語る。
「斉藤くんと再びぶつかり合えるのがうれしいですし、緋村剣心を携えて彼はこちら側にやってくるので、志々雄としてそれを真正面からぶっ壊すくらいの城を築いていかなくちゃいけないなという考え方になっているところはあります」
◇志々雄真実の“余白” 悪のカリスマ役への挑戦
古川さんが志々雄真実を演じる上で、一つの核としたのが「絶対的な強さ」だった。
「ものすごくシンプルに言うと、彼は自分の腕一本でここまで上り詰めてきた人間でもある。彼が恐らく一番信頼しているのは、自分自身の『人を殺す』という才能なんですけれども、そこにひかれて集まってきた人たちが十本刀、志々雄一派。だから、作中では絶対的な実力者じゃないといけない。だからこそ底は絶対に見せたくない。底を見せたら『ひょっとして、こいつ剣心に負けちゃうな』と読まれてしまうので。当時、僕がマンガを読んでいても、アニメーションを見ていても、『こいつに勝てるのか』という絶対的な部分があって、それは『京都編』が始まってから終わるまで決して揺らぐことがなかった。そこだけは絶対に崩さないようにしようとずっとアプローチしています」
また、志々雄真実を「ただ一人の悪党」とも感じている。
「どんなに強敵であっても、その根底にあるのは『ただ一人の悪党』という部分。もちろん超人的な能力として炎を操れたり、火だるまになったところから奇跡的な生還を果たして全身包帯まみれであるという人外なところはあるんだけれども、演じていると、『それでも一人の人間なんだな』という部分が随所にあふれ出ている。例えば、湯治のために温泉を作ったことも、人間的な何かがないと多分やらないことなんですよね。その人間的な余白が見えるところが面白いなと思うんです。自分のやりたいようにやりたいし、強くなっていく剣心と戦いたいという欲求もある。欲求に正直な人間なんだというところも、志々雄真実の人間としての余白だと思います」
ほかの作品でも敵役、悪役を演じることも少なくない古川さんだが、志々雄真実役に関しては「悪く輝いている人を演じるのはなかなか難しい」と挑戦にもなっている。
「一人の人間を演じて、その人が結果的に悪い方向に行く、もしくは敵対する方向に進んでいくのは、その人にとっての最善が主人公にとっての最悪だったという話だと思うのですが、志々雄真実の場合は、のっけから絶対的な悪として描かれている。それこそ悪のカリスマと言って差し支えない。では、古川のこの楽器で、どう輝かせよう? どう光らせていこう?と。一声聞いただけで『こいつは悪いやつだな』『でも格好いいやつだな』と思わせるような響き方、しゃべり方を自分の引き出しを開けて『これかな? これかな?』と当てはめていく。難しい、大変だなと思いながら、もっととがらせたい、もっとシェイプさせたいと思うこともあります。そうして出したものをお客さんが『いいね』と言ってくださった時はやはりうれしいです」
◇十本刀は強大な烏合の衆 バーゲンセール的!?
古川さんが語るように「悪く輝く」志々雄真実は、連載から時を経た今もやはり格好いい。志々雄真実が率いる十本刀の魅力も語ってもらった。
「まずめちゃめちゃ強い人が上にいて、その下に強い人たちが10人いる状況って結構なバーゲンセールだと思うんです(笑)。『え、これどうすんの?』みたいな。連載を読んでいた当時は、敵の強大さ、厄介さを分かりやすく教えてくれる人たちとして印象強かったんですけど、今自分が年齢を重ねて改めて見た時の十本刀は、ものすごく危ういものをはらんでいるんですよね」
十本刀は、それぞれ異なる目的のために志々雄の元に集まった集団で、中には志々雄の命を狙っている者もいる。
「そのまとまりきっているようでまとまりきっていない感じが、改めて見ると設定にのっとった納得感があって好きですね。言い方は悪いんですけど、烏合(うごう)の衆とほぼ一緒なんだけど、一人一人が強大で強敵。いつ裏切り者が現れてもおかしくないんだけれども、『明治政府の敵』という役割だけはしっかりみんな果たしてくれる。そのリアルさ加減が僕は魅力だなと思います」
テレビアニメ第3期の制作も決定している「るろうに剣心」。“ただ一人の悪党”志々雄真実と、強大な烏合の衆である十本刀。古川さんら声優陣が表現する悪の輝きに注目したい。
提供元:MANTANWEB