人間を繁殖させる工場でサバイバル! おぞましい生物、怪しい作業員、そして生殖種……。『食糧人類-Starving Anonymous-』あらすじ紹介! 恐怖のディストピア世界が開かれる!!
更新日:2017/01/24 10:00
理想郷を意味する「ユートピア」の反対で、徹底した管理社会、監視社会をあらわす「ディストピア」。H・G・ウェルズやジョージ・オーウェルといった世界的に著名な作家をはじめとして、主にSF界隈の創作活動に多く用いられてきた着想です。近年ではジャンルを越境し、バトルものや日常系、ミステリーに至るまで、様々な分野でモチーフとされることが多くなってきています。
今回ご紹介するコミック「食糧人類-Starving Anonymous-」 (イナベカズ・蔵石ユウ・水谷健吾/エブリスタ・ 講談社) も、そんなディストピアを描いた作品です。
タイトルからして人類がどういう目に遭うのかなんとなく想像できますが(なお、サブタイトルは簡単に訳すと「名もなき餓えたもの」)、本作にはその想像をはるかに超えた恐怖が充満しています。人間が本能として持っている生理的嫌悪感と言い換えても良いかもしれません。
それでは、この恐るべきディストピア世界へとご案内いたしましょう。
『食糧人類-Starving Anonymous-』は、「eヤングマガジン」で現在連載中(2017年1月現在)の作品で、企画原案を小説家の水谷健吾先生、原作を蔵石ユウ先生、漫画をイナベカズ先生が担当しています。蔵石先生とイナベ先生のコンビは、ゾンビパニックホラー漫画「アポカリプスの砦」 (蔵石ユウ、イナベカズ/講談社) で一躍有名になりました。
連れてこられたのは「飼育室」
本作の主要登場人物は4人です。彼らの紹介も兼ねつつ内容に入っていきましょう。
舞台は、地球温暖化が進行し、人間の住める領域が100年前の1000分の1にまで縮小した近未来。
主人公は高校生の伊江(いえ)。今はファストフード店で買った大好きなナゲットをシャクシャク食べて悦に入っています。
「お前ホントソレ好きな」と言いつつ現れたのは友人のカズ。なにやらストローをギコギコ噛んでいます。二人とも半袖姿なのですが、実は今は3月。異常気象のため、真夏のような暑さとなっているのです。
気の滅入るような状況の中、バスの車内で将来の夢について話す二人。しかし突然、奇妙な現象が起こります。
伊江をのぞくバスの乗客がみんな眠りだしたのです。
慌てふためいて運転席に駆け寄ると、そこにいたのはでかいガスマスクをつけた運転手。直後、伊江も謎の眠気に襲われ、意識を失います。
目を覚ますと、眼前にはなんとも形容しがたい光景が。
裸に剥かれ、防護服で完全防備した人間たちに合否の選別をされる人々。生身のまま冷凍される人々。冷凍状態で真っ二つに切断される人間。違法行為どころではありません。
驚愕のあまり絶句する伊江。そんな彼を、近くにいた作業員が発見し、「お前はⅡ型だな」と言い放ちます。奴隷のように扱われつつ、伊江が連れてこられたのは彼らとは違う場所でした。
そこにいたのは、天井からぶら下がった管を一心不乱に吸い続ける人々。みな一様にぶくぶくと肥えているのが特徴的で、中には寝転がりながら排泄する者も。
謎の集団の中にはカズもいました。他の人よりはまだ理性があるようですが、管から出る甘い匂いの液に相当ハマっていました。
蒸し暑さのあまり、その薬液のような液体に口をつけようとした瞬間、伊江は後ろから現れた男に乱暴に止められます。「アレを飲んだ以上は以前のアイツとは別人と思え。アレは飲む者の思考を抑制するらしい」と。
伊江を止めた左の短髪の青年はナツネ、右の中性的な顔立ちの青年は山引(やまびき)と名乗り、ここは人間の飼育室か肥育場のようだと話します。二人はもう3日以上飲まず食わずでここにいるのだとか。謎の液体を飲んでいる人よりは正常ですが、並外れた精神力だと思わざるを得ません。
人間を捕食する生物
二人の話を聞いて、ますますこの異常な状況下に混乱する伊江。助けを求めて、大声を出して壁を叩き始めたところ、ナツネに思いきり殴り飛ばされます。
「余計なことしやがって」とさらに暴力を振るうナツネ。すると、「ウイイイイイイイイイイイイイイ」と扉が開く音が。どうも、大きな物音で、何かヤバイものを刺激させてしまったようです。
死にたくなければ正気を失って液体を飲んでいるフリをしろ、絶対に振り返るな、と伊江に厳命し、離れる二人。そして何かが部屋に侵入してきます。
蛇が這うような気配に、目の前をくねくねと動く触角。
それ自体が生き物のようなその触角は、突然伊江の近くにいた太った男を切り裂き、宙に吊り上げます。続けて、肉と骨をかじる、ガリガリ、ゴリゴリというむごたらしい音が響き渡ります。
うわあ……。昆虫が苦手、という方は見ないほうが良いかもしれません。
次々に人間を喰らい、巨大芋虫が去ると、入れ違いざまに作業員が入ってきます。「あの幼体、ずいぶん喰い散らかしたなぁ」とぼやいて、飛び散った血や肉片を掃除し始めます。どうやらこれは幼虫で、成体もいる様子。おぞましい。
食糧増産のための「生殖種」
かねてから脱出の機会をうかがっていたナツネと山引は、これをチャンスと見て、清掃中の作業員を襲い、見事に防護服を奪うことに成功。置いてけぼりを食らいそうになった伊江は、頭を振り絞って、自分の能力を発揮します。
周囲の血を使って地面に描き出したのは最初に見た工場内。ここまでの道を知っているのは自分だけだ、物や風景は一度見れば覚えられる、だから一緒に行こうと主張します(山引が言うに、伊江の力は「瞬間記憶能力」だそう)。
そんなわけで、ようやく部屋の外に出た三人。しかし伊江はナツネと山引の反対を振り切って、友人のカズも連れ出します。苛立ちを抑えきれないナツネと揉めているところへ、別の作業員たちが通りかかります。
作業員たちが連れていたのは鎖で繋がれた裸の男たち。興味を引かれたナツネと山引は、自分たちを新人だと偽って、伊江とカズのことを上手く誤魔化しつつ、作業員たちの後を着いていきます。彼らの弁によると、この裸の男たちは「生殖種」とのこと。
さて、やってきたのは裸の女たちが嬌声を上げまくる一室。どの女もとにかく「抱いてよ、抱いてよ」と男を欲しており、異様な熱気に伊江たちは息を呑みます。
舌を出して欲求する女。相当老けているように見えますが、作業員の話によると、この女はなんと18歳で、すでに20人以上の赤ちゃんを産んでいる優秀な「生殖種」とのこと。多胎妊娠させるため、催淫剤、排卵誘発剤を多量接種させられ薬漬けになっているそうです。
そう、作業員たちは連れていた男の「生殖種」に興奮剤を打ち込み、女の「生殖種」と行為させて、人間を増殖させるのが目的だったわけです。そんなにたくさんの人間をどうするのか、というのはもはや愚問。命の尊厳がどうのという次元はとうに超えています。
この繁殖施設の規模や影響力に嘆息する山引。ここまで来ると単独や複数かどうかではなく国家規模の計画としか思えません。生殖種はおろか、あんな巨大生物がうろうろしていますし……。
謎の生物、孵化
「俺にはやることがある」と述べるナツネと、「この施設面白くて素敵なトコだと思いません?」と瞳を輝かせる山引に呆れる伊江。と、いつの間にか生殖種の監房の外に出ていたカズが、別の部屋へと呼び寄せます。
そこに大量にぶら下がっていたのはこれまた不快極まりない物体。天井につけられたたくさんのモニターには世界中の言語が並んでいます。
そこへ、大勢の作業員がやってきたので、四人は物陰に逃げ込みます。作業員は吊り下がった物体の硬さを調べているよう。その時、物体の一つにひびが入り、近くにいた作業員が大声を上げます。
「孵ったぞ!!」
うへえ。
出てきたこのカマキリのような生物は、案の定取り残された作業員をつかまえ、皮をビイィッと引き裂き、頭からバリバリと食べ始めます。しかもこの化け物、逃げ惑う作業員の声を真似て、人語まで喋ります。「クリーチャー」という言葉がぴったしです。
凄まじいほどのエログロ要素に、怖気が立つ展開の応酬ですが、深く入るとネタバレとなってしまうので、今回はここまでとします。ストーリー的にも設定的にもまだまだ全容がつかめず、物語のとば口に立っただけだという事実に末恐ろしさを感じます。
いかがでしたでしょうか。本作はサバイバルホラーの体裁をとっていますが、人間が人間を機械的に管理するディストピアSFでもあり、考察を楽しむミステリーでもあります。また、擬音や擬声といったオノマトペによる演出も特徴的なので、そこだけ注目して読むのも面白いかもしれません。恐怖心をこれでもかとくすぐる、今後の展開が非常に楽しみな作品であります。
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作者
にしのともき
1992年生まれ、長野県出身のフリーライター。活字を読むことが生きがいの中毒患者。小説、漫画、映画すべて楽しみ尽くしたいと手当たり次第むさぼる日々。好きな漫画は『寄生獣』。だいたい自宅か神保町にいます。記事タグ
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