謎の女を助けたら監禁された!思い出すまで許さない――『監禁嬢』あらすじ紹介
更新日:2016/12/16 10:00
人間の情動の一つで、対処困難な危険や有害な事態に陥った時に発生する感情、それが恐怖です。心拍数が上がったり、異常に発汗したり、判断能力が落ちたりといった反応や変化をもたらしますが、怖いもの見たさというやつで、ついつい恐怖に身を委ねてみたくなることがあるのも心情です。
「監禁嬢」 (河野那歩也/双葉社) は、おどろおどろしいタイトルからも察せられるとおり、そんな「恐怖」の感情に迫った作品です。ただし、本作が他の恐怖漫画と異なるのは、恐怖と同じくらいエロスが詰まっていること。そしてその根源となるのは、たった一人の女。
今回は、この終わりの見えない恐怖のエロティックサスペンスの魅力をたっぷりとご紹介いたします。
「カコ」という女
さて内容紹介と入っていきますが、この作品の恐怖描写、だいぶショッキングな部分を含んでいますので、大げさかもしれませんけれど、心して読んでください。
高校教師の岩野裕行(いわの ひろゆき)は、ある日、目を覚ますと、自分が全裸で拘束されていることに気づきます。さらに、そばには謎の女が。
……女の顔つき、まさしく尋常でない。精神的にくるものがあります。
女は、「これからアナタに問題を出します。全部簡単なんで、正直に答えてね」と言い、妙な質問を投げかけてきます。
当然のごとく、わけがわからない裕行。
しかし女は答えず、一枚の写真を見せます。
写真の人物が誰か思い当って、表情を一変させる裕行。実はメガネをかけた女性は裕行の妻・美沙子(みさこ)で、抱かれている赤ん坊は娘の日輪子(ひわこ)といい、二人の身に何か凶事が起こったと恐れたのでした。
これは謎の場所に連れ込まれる前の裕行の回想。絵に描いたように幸せな家庭です。このあと、買い出しに行った彼は、道端で倒れている謎の女を見つけ、介抱しようとしたところをスタンガンで眠らされたのです。
「私が用があるのはアナタだけですから」
彼女はそう言って、次の問題を出します。
彼女は裕行が担任のクラスの生徒で、名前は藤森麻希(ふじもり まき)。裕行は彼女に告白されたことがありましたが、しっかり断っており、ふしだらな関係にはありません。困惑の度合いを強める裕行を嘲笑いつつ、謎の女は本題に移ります。
「私が誰なのか? 私の目的は?」
そう言うと、女は裕行の股間に手を伸ばします。拘束具で動けず、声だけで抵抗する彼でしたが、彼女は無視して裕行にまたがり、強制的に行為に及びます。
「私のコトは〝カコ〟って呼んで下さい」
裕行の身辺調査から、監禁場所の用意まで、ぞっとするほど執念深く練り上げた計画を背後に感じさせる女・カコ。しかし裕行には彼女が誰だかさっぱり思い出せない。しかしこれは、彼の失われた記憶をたどるサスペンスのほんのとば口にすぎません。
女子高生・藤森麻希の言いなりに
視点変わって、こちらは先ほどカコが見せた写真に写っていた藤森麻希。裕行のことを病的なほど好いていて、このコマでは彼を欲しすぎるあまりトイレでこっそり欲情しています。
すると、突然隣の個室から声が聞こえ、思わず逃げようとしますが、強い力で引っ張り込まれ、口をふさがれます。
現れたのはカコ。女とは思えないような力と俊敏さで麻希を押さえつけ、「言う通りにしたら、大好きな先生全部お前のモンだよ」と言い放ちます。
先生への激しい感情を抑えきれない麻希は、カコとグルになることを決意。裕行が監禁されている廃屋へ連れてこられた彼女は、カコの言うとおり、自分のモノにしようと痴態に及びます。カコも相当狂っていますが、この娘も負けず劣らずの狂気をまとっています。
裕行は結局、麻希の言いなりになることを条件に、やっと監禁状態から解放され、家路につきます。
そんな様子を車でふんぞり返ってチェックするカコ。話が進むにつれて不気味さの度合いがどんどん増してきています。ホント、怖い女です。
すべては一人の女の手の内
カコの手によって爆破された廃屋から逃がれ、タクシーに乗り込んだ二人。麻希は「今夜は一緒にいようよ」と誘いかけますが、裕行は「妻が待ってるから」となんとか断ります。
麻希を降ろしたところでいきなりキスされる裕行。運転手も驚きの表情。夜中に女子高生と教師が乗ってきて、こんな場面に出くわしたらそういう想像をしないほうがおかしいというものです。
ほうほうの体でようやく自宅に帰りついた彼は、玄関で待っていた妻の美沙子と抱き合います。再会の幸せを噛みしめる裕行。ところが娘の姿が見えません。寝てしまったのかと思いつつ、奥を見ると――
えっ?
ええっ……!?
……驚きすぎって、さっきまで自分を監禁してた女に会って驚かないわけないだろ、と反論したくなります。そしてこのカコの目つき、読んでいるこっち側まで呪われそうです。
美沙子が言うには、カコとはヨガ教室で知り合ったとのこと。美沙子がヨガ教室に通うようになったのは一年以上前。なんという用意周到さ。ここで裕行は悟ります。カコは俺のことを泳がせて楽しんでいる、と。
そう、もはや裕行に逃げ場はなく、カコに骨の髄までもてあそばれることを運命づけられていたのです。カコの正体と目的を当てないかぎり。なんという恐怖。
侵蝕するカコの恐怖
裕行が陥った状況は、人によってはこのうえなく嬉しいものかもしれません。カワイイ奥さんがいて、謎めいているとはいえ若い女の支配下にあり、学校では女子高生と禁断の関係で結ばれている。背徳的なハーレムのようです。
しかし、女だけの家庭で育ち、女に嫌われないようにして生きてきた裕行にとって、この状況は地獄にすぎません。
学校に戻ってきて、これまでどおりに生活しようとする裕行でしたが、ことごとく空回り。
同僚や生徒たちの顔つきも薄気味悪く感じてしまいます。実は監禁されていたのはたった一日なのですが、事件がもとで自分がまるっきり変わってしまったのでした。
教室いっぱいに広がるあの女の顔。もちろんこれは幻覚ですが、カコから発せられた悪意と狂気が加速をつけて裕行の周囲に伝播していっていることの証左です。
ここまで計画的なカコの目的は何なのか? カコと裕行は過去にどんなつながりがあったのか? 謎は深まるばかりで、「早く記憶を取り戻してくれ、怖いだろ」と言いたくなりますが、物語はまだまだ終わりが見えません……。
本作にはエロティックな場面もふんだんにあります。しかし、恐怖描写(主にカコの顔)のインパクトがすさまじく、裕行と同じように、読者も怖さと性欲の狭間でなにやら煩悶してしまうという、一風変わった作品となっています。怖いのに、読む手が止まらない。
気分よくなりそうなのに、怖さが勝って複雑な感じになる。そんな倒錯したアブナイ感情を味わいたい方はぜひ手を伸ばしてみて下さい。