その女子高生、人間解体業者。『ギフト±(プラスマイナス)』あらすじ紹介! 目覚めた犯罪者の目の前で生きたまま解体……赤ちゃんを捨てるクズ女にも裁きを下す!
更新日:2016/12/20 10:00
「臓器売買」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。臓器移植のため、金銭と引き換えに、人間の臓器を売り買いする行為です。日本では臓器移植法によって厳しく禁じられていますが、インドや中国などでは臓器売買を行うブローカーや取引ルートが秘密裏に存在していると言われています。
「ギフト±」 (ナガテユカ/日本文芸社) は、臓器売買をめぐって日本の裏社会で繰り広げられる人間ドラマを描いたダークサスペンス漫画です。リアリティあふれる実態の描写も魅力的ですが、特筆すべきは、主人公が女子高生であること。もちろん只者ではありません。彼女は、この非合法に必要不可欠である「人間解体」のプロフェッショナルなのです……!
今回は、そんな『ギフト±』の裏社会の実態に注目しつつ、美しくもどこか悲しいヒロイン・鈴原環(すずはら たまき)の人物像に迫ります!!
命は大事にしないと
交友関係がなく、いたずらに学校生活を送っている女子高生・鈴原環(すずはら たまき)。ある日、学校の屋上で飛び降り騒ぎが起こっているのを聞きつけます。
周囲の生徒に構わず一直線に女子生徒へ近寄った環は、こう言い放ちます。
「…もっと、命は大事にしないと――」
その直後に足を滑らせ転落しかけた女子生徒の手をつかんだ環でしたが、自分の腕力では引き上げられないと感じ、距離を調節してわざと近くの木の上に落として、生徒を助けます。「なんであんな危ない真似を」と教師に尋ねられた環は、もう一度こう述べます。
「命は神様の贈り物だから。大事にしなきゃダメなんで」
視点変わって、こちらは林クリニックの林先生。患者から腎移植手術を求められ、笑顔で協力を申し出たところです。患者が去った直後、ある男に「“キビダンゴ”2コ、活がイイのを」と電話をかける林。
先の患者と入れ替わるようにして、ぼさぼさ頭の大柄な男が入ってきます。彼は「“キビダンゴ”とは腎臓のことですよね」と即座に業界の隠語を見破ります。
男の名は阿藤圭介(あとう けいすけ)。元警官で、探偵業を営んでいます。林先生は、彼にある女の子を探してほしいと依頼しており、阿藤は調査の進捗具合の報告に来たのでした。女の子の名は、「たまき」。
この画像(写真)は3年前のもの。林先生は「たまき」に何らかの治療を施したことがある様子。生死さえわかればいいというのが彼の願いです。実は林というのは偽名で、本名は英琢磨(はなぶさ たくま)といい、「英医院放火殺人事件」の犯人として全国に指名手配されている闇医者なのでした。
一方、林先生から電話を受けていたのは、タカシという若い男。彼は、環から「迎えに来てくれ、クジラをつかまえた」と連絡を受けます。タカシは、この裏稼業グループの元締めなのです。
車に乗った二人。画像左の若いイケメンがタカシです。右の環もかわいらしいので、まさしく美男美女といった組み合わせですね。しかし、タカシは“キビダンゴ”の依頼を受けたばかりで、環はホテルで女性に乱暴を働いていた男をスタンガンで気絶させ捕まえてきた直後、と非常にブッソウです。
タカシに「クジラ」の説明をする環。彼女は学校の授業で出た調査捕鯨の話で、クジラと人間の共通点に気付いたのでした。要約すると、人間はクジラと一緒で、捨てるところがないほど無駄がない。内臓どころか皮膚、骨、髪の毛に至るまで――。ちなみに上の画像、車の後部座席です。次の場面が怖くなってきましたね。
殺しではなく「解体」
さて、ようやく目を覚ました男。目の前には、作業着に身を包んだ若い女。男はすぐに異常を悟ります。彼は、全裸で手術台の上に拘束されていたのでした。
「これは殺しじゃない…解体だ」
タカシの言葉を受けて、環は「オジサン、命をありがとう」と言いつつ、麻酔もなく生きたまま解体に取り掛かります。飛び散る血と肉の中で、冷静に内臓を切り出してはトレーに乗っけていく環。…グロい。この場面、さすがに凄惨すぎるので、文章だけでご想像ください。
なお、あわれにも活け造りにされたこのオジサン、過去に強姦殺人を三件も起こしており、出所して直後にまた犯罪に手を染めるという筋金入りの悪党でした。つまり、この男には存在価値がなかったが、臓器という形で社会貢献ができるという理屈で、タカシたちは「解体」をおこなっています。
作業後、晴れやかな顔を見せる環。寸前までやっていたこととのギャップがすさまじいです。
その後、タカシは林先生と接触し、臓器移植手術に取り掛かります。
日本において年間の移植希望者は約12万人、しかし実際に移植を受けたのは3千人足らず。
移植を受けられても、患者が元の健康体に戻ることは決してなく、移植後は拒絶反応を抑えるため何種類もの抑制剤の服用が必要。そして植臓器は自分本来の臓器の20%しか機能しない。それでも移植希望者は後を絶たない。
そんな稼業に身をやつしながら、林はひたすらに環を探し求めようとします。
急な心変わり。でも……
環、タカシ、林の三人の関係性とビジネスモデルがわかってきたところで、もう一つのケースをご紹介。
環はある日、駅のコインロッカーで赤ちゃんを発見。現場近くにいたフードの女が怪しいとにらみ、タカシに調べてもらうよう頼みます。タカシはこの臓器売買グループのリーダーで、ターゲットの調査や情報収集を行っているのです。
後日、赤ちゃんが肝硬変一歩手前の危険な状態で、肝移植が必要であることと、フードの女が相沢華南(あいざわ かなん)という名で、乳児遺棄致死と売春の前科持ちであることが判明します。
環は華南が売春しているところを発見し、男をスタンガンで打ち倒して彼女に迫ります。
このあと、華南は例によって気絶させられ「手術」を受けるのですが、彼女は殺されずに表社会へ帰されます。
実はタカシが立てた当初の計画では、華南を解体して取り出した肝臓を赤ちゃんに移植して終わるだけでした。しかし毒親と思われていた華南が、気絶させられる直前に、「赤ちゃんに会いたい」と強い感情をあらわにしたため、環は「まだ命をリサイクルする段階じゃない」と心変わりをして、肝臓を取り出しはしたが完全に解体はせず華南を生きて帰したのでした。
乳児遺棄致死と売春の常習犯だからまたやるのではないか、と思うところですが、心配ご無用。
……だそうです。なんとなく人間味があるように見せかけて、読者を突き放すようなセリフであります。それにしても感情に乏しく、せいぜい顔がちょっとゆがむというくらいの表情が多い彼女。いったいどのような経緯があって、このような人格が形成されたのでしょうか?
秘められた過去を解き明かす
タカシと環が中心のこの臓器売買ビジネスは、はっきり言えばすでに完成されたモデルです。すなわち、現時点では何も問題がありません。そのため、物語は、今まで登場してきた人物たちの「過去」を解き明かす方向へと展開します。
彼女は、本稿のはじめのあたりで紹介した探偵・阿藤圭介の恋人で、警部補の桜田瑞希(さくらだ みずき)。環を探して調査を続ける阿藤に情報提供をしつつ、臓器売買の闇に肉薄していきます。
こちらはリュウと呼ばれる謎の男。亜依(亜衣ではありません)という女子高生やその友人の佐藤若菜を使い、「人形みたいな女の子」の環に接触を図ろうと画策します。リュウの目的は「調教」。どうも大きな組織の一員のようです。
その他、臓器だけ抜かれた謎の水死体や、タカシたち以外の臓器売買グループの存在が浮かび上がり、林が絡んでいる「英医院放火殺人事件」や、タカシたちのグループの全容も徐々に明らかになって、ストーリーは一気に加速していきます。
商売敵の存在を嗅ぎ付け、闘争心を燃やすタカシ。彼はなぜ林から環を隠すのか、彼は環にどういう感情を持っているのか。また、人間らしさの欠落した環は、過去に何があったのか。今後人間的感情の芽生えが見られるのか……?
疑問は深まるばかりですが、あまり踏み込むとネタバレとなってしまうので、隔靴掻痒ですがここまでとします。
本作は臓器移植や善悪のモラルの問題を取り扱っていますが、どちらかといえばこれらを下敷きにした真面目なミステリー漫画と言った方がよいでしょう。そしてその最たる謎は、とにかく冷血かつタフなヒロイン・鈴原環にあります。見え隠れする彼女の過去に想像を膨らませつつ、どこに落ち着くかわからないこのサスペンスにぜひ身を委ねてみてはいかがでしょうか。