【ネタバレあり】彼女は宇宙一のレビューと感想
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突出した奇異なバランス
とても素晴らしい作品集だと思ったのだが、上手く言葉を探せなかった。
ここまで言葉が出てこないことは珍しい。
私は自らの言葉の乏しさに久しぶりに失望した。
何なんだろう、これは。
多分、突出しているのは、バランスなのだと思う。
登場人物(特に女性)の切実な感情や、繊細な揺れといったものを、決して重くならない中で、かといって軽々しくでもなく、あくまでゆるく、ふわっと、スライムのような質感で描く、という絶妙なバランス。
本当はもっと「笑えない」類のシリアスな物事が、SFだったり、巨大ヒーローだったり、UMAだったりによってある種のパロディ的な方向に緩和されているが、ポップな中で、核となる生傷の痛みのようなものは鮮やかに息づいたままである、という奇異なバランス。
天秤の両方に同じものを載せてつり合っている、という種類のバランスではなく、小さな金塊と巨大な綿あめでもってつり合わせているような、その独特のバランスが凄い。
そういったバランスが多分に、論理的にでも計算づくでもなく、感覚的に積み上げられていて、いささか差別的な言い方になるが、実に女性的な漫画だと思った。
「枕草子」が当時、女性にしか書けなかったように、こういう漫画というのはおそらく、男性にはなかなか描けない。
その感覚的な部分というのは、本質的には言語化と相容れないものであって、私なんかの言葉が追いつかないのも、それと無関係ではないと思われる。
私はとにかく「ツチノコ捕獲大作戦!」が大好きで、何度も何度も読み返した。
それは多分、これが「したたかな女の子と情けない男の子」、両方の本質を鋭敏に貫いた話だったからだろう。
幻想を見るのも夢に破れるのもいつも男の方よね、というひとつの本質を、あり得ないくらい的確に、これ以上ないくらいミニマルに、悲劇と喜劇の完璧なバランスの上で成立させた、離れ業的な傑作である。
これ以上に素晴らしい短編漫画のラストシーンを、他にほとんど知らない。by roka- 3
5.0