5.0
よくある回帰、ではない
絶望の仲で生涯を終えたヒロインが、なぜか過去へと舞い戻り、不幸だった自らの人生を変えようと必死に足掻く物語。…はっきり言って殆どの人が「何番煎じだ」と思うような導入である。しかし、そんな「よくある話」でありながら、この物語がここまでの圧倒的支持を受けるのには勿論、理由がある。どこに魅力を感じるかは人それぞれだろうが、私は、最も大きいのは主人公・ビアンカの設定ではないかと思っている。
この手の話のヒロインは大別して聖女型、悪女型の二つに分かれると感じている。
聖女型は、周囲の悪意や状況によって悪女とされただけで、本人は心優しく真面目な品行方正タイプ。
悪女型は、結果的に善行をする事はあっても基本的には自分が一番で、気が強く知恵があり、我が道を行く女傑タイプ。
ではこの話のヒロイン・ビアンカはどちらかと言うと、「どちらでもない」。
ビアンカは、適度に愚かで適度に賢く、適度に善良で適度にワガママな、「ごく普通の貴族令嬢」なのだ。
更には、他の話のヒロイン達の多くが陰謀に直接関わる位置にいて、最初から沢山の情報を持っているのに対して、一度目の人生のビアンカはほぼ蚊帳の外。何も教えられず、何も知らないまま、周囲に振り回されて死を迎える。だから過去に戻っても、最初から賢く振る舞う事はできず、まず「多くを知る」ところから始めなければならない。スタートラインが違うのだ。
そんな彼女が一度目の人生では得られなかった多くの事を知り、本当の愛を知り、賢く成長していく姿が本作の最大の見所。最初のうちはビアンカの危なっかしさに苛立つ事もあるかもしれないが、頑張って読み進めて貰いたいところ。
そしてそんな彼女を見守る夫、ザカリー。不器用で優しく、多くの人に慕われる領主であり最強の騎士。こんなの好きになるしかない。
政治的な理由で幼い少女だったビアンカを娶る事になり、その罪悪感から、彼女を大切にしつつも妻として見ないよう努めていたが、美しく成長したビアンカと共に過ごすうちに、徐々にその気持ちに変化が訪れる。
ビアンカほど頻繁に内心が明かされないので、彼の心情は主に行動や表情から推し量る事になるが、細やかに描かれる二人の触れ合いや表情の変化が、もうキュンキュンものである。馬上試合を契機に語られる彼のビアンカへの想いには感無量になること間違いなし。
一度読み始めたら止まらない、回帰ものの傑作。
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結婚商売