5.0
事件の非現実性に目を瞑られれば傑作
驚くほど短絡的な◎人であり、突発的なのだが警察が全く解決できない。有能キャラがいるのにだ。また、絶大な圧力のわりにまったくもって揉み潰しきれないのも笑える。その辺りの非現実性を無視して、主人公3人の心情、立場、生い立ちからの事件発生から終幕までの行動と思考の変化をながめていくととても面白く考えさせられる。
以下、犯人の3人。
音→大金持ち財閥森の養子令嬢。自分の保身、権力のためなら人を駒のように扱い捨てる。典型的な金持ち犯罪者キャラ。罪の意識が一切なく、邪魔者が現れては◎すことしか考えていない。養父とその実娘である悠を◎す場面では「この感覚久しぶり」と気持ちを昂らせるなど、紛れもなくサイコパス。ただ、実母による虐待やネグレクトにより歪み狂っていったことが割と詳細に明示されている。この母にしてこの子が産まれ、育てたのがこれまた保身だらけの養父なら仕方ないとも言えるが、、、最後の最後まで反省も後悔もしなかったところは良いと思う。
悠→前述の森財閥の実娘。母が森、政略結婚的な感じで捨てられ、精神を病んでしまう。母は森に異常執着し、ときに悠をけしかけ、失敗すれば悠を罵倒し攻撃する。それでも母のために行動する悠も、かなりの依存体質。この母にしてこの娘あり。悠は後述の繭に異常執着し、繭を傷つけるものを許さない、別ベクトルのサイコパス。被害者にトドメを刺した張本人であり、その理由も実に利己的で「音を陥れられるし、繭と共犯になれる」というもの。彼女もまた、大好きな繭に諭されてもなお、被害者への贖罪の言葉や気持ちを述べている描写が全くなく、音ほどに殊更にその邪悪性が描かれていないが、悠もまたかなりの逸材だと思う。
繭→二人の腰巾着的。家庭環境に問題ありの二人が◎人に対する罪の意識が皆無なのに対し、いわゆる普通の家庭に育った繭は、被害者を山に埋めてから最後まで罪の意識に苦しみ続ける。しかし、その間に暴走する音を止めることも、悠を連れて自首めいたことをすることもせず、自◎することもできない、他責思考かつ事なかれ主義。気絶しただけの被害者を隠そうとしたのも彼女。それは音の(他の人に言うな的な)圧力で意思を感じ取ったもの。彼女もまた、紛れもない犯罪者。ただ、家庭環境や人格に全く問題がなさそうな、普通の高校生が犯罪者になる過程を緻密に描いてくれたのはよかった。闇バイトと同じ。
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ハジメテノサツジン