5.0
くれなゐの繭子
商家の箱入り娘と思いきや、ヒロイン繭子の何と逞しく、柔軟で、視野の広いことか…。そもそもお嬢様、燃え盛る家屋の中に、使用人の娘を助けに入ったりしないし。そして、人生において、知識を身に付けることが、最大の財産になることを知っているから、弟に勉学を続けさせようとする。父親の教育の賜物であろうが、本人の聡明さにも由来していると思う。
元婚約者は、嫌な男のテンプレ的立ち位置だが、彼女を苦界に放り込まなかったことだけは、評価したい。女性に肉体労働は珍しい的に描かれているが、農家や炭鉱において、当時の女性は立派な働き手。どんなキツい仕事でも、真摯に取り組む繭子の姿は潔い。そして、自分の頭で考え、目の前の課題に対して、最善を尽くそうとする姿勢が、見る目のある人間の目に留まらないはずがない。
静也と繭子の新しい関係は、始まったばかり。タイトルの「くれなゐ」は、静也の目に映った繭子の姿に起因しているのだろうが、心を燃やして強く生きようとする繭子そのものを表している気もする。新しい「大正」という時代に相応しい、対等な関係を二人が築いていってくれることを、心から願っている。
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くれなゐの花嫁~大正北國恋物語~