5.0
作者の経験値の妙
登場人物の使い方が非常に巧い。
このお話にはラブコメにありがちな「ライバル」がおらず(ヒロインが勝手にライバル視する人物は多少居るが)、登場人物達皆んなで主人公とヒロインがくっつけるように、ハラハラと見守る、といった構成になっている。
主人公とヒロイン以外には、恋愛に関して、無駄な人物相関が一切ない。
非常にわかりやすく、そして感情移入がしやすい作りになっている。
主人公達の恋愛模様を、他の登場人物達が総出で俯瞰して見る、という構図設定の思い切りの良さは、作者のセンスが光るところだ。
そしてそれにも関わらず、無駄な登場人物も一切おらず、名前のある登場人物には必ず、何らかの役割がある。
彼らは、我々が主人公達に言いたいことを、適切に代弁してくれる。
どんな漫画でも、読んでいると、登場人物達に突っ込みたい、これは一言申したい、と思う場面が、多少なりとも生じてくるものだと思う。
この時それを言ってくれない、または全然検討外れなことを言う人物ばかりでは、読者は物語から疎外感を感じてしまうものだ。
逆に言えば適切な(自分の言いたいことそのものとも言える)突っ込みをしてくれる人物がいると、そしてそれに対して反応があると、まるで自分の声が作中に響き、物語の登場人物に届いているような感覚になる。
作者はおそらく、これまで数多くの物語に触れてきたに違いない。
意識的か無意識かはわからないが、その時に感じた思いや言葉をしっかりと記憶し、かつて見た物語の登場人物と似たような行動を自分の作品の登場人物がした時に、言いたかったことをしっかりと言わせているのだと想像する。
決して作者の独りよがりな思いで、登場人物達(を受け入れる物語)を暴走させたりはしない。
「エンターテイメントの作り方」として非常に重要なことではあるが、それをこれほどしっかりと抑えられている作り手は、最近はほとんど見ない。
特にラブコメ好きなら、是非ともおすすめしたい一作である。
- 0